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通訳者

「つきましたよー鉈内さん」

「あ、ああうん、ちょっと待―――うぼぉええええええええええええええ!?」

 助手席に座っているのは、持っているビニール袋へ盛大に嘔吐している鉈内翔縁。その隣の運転席では黒崎燐が彼の様子に苦笑して心配の声をかけている。ヘリの中ではそんなやり取りが行われているわけだが、実はこのヘリ―――最大時速1000キロで移動可能な特殊ヘリの移動間とは非常に気持ち悪くなるのだ。

 おそらく『対怪物用戦闘術』の力を埋め込まれて改造されている故に、その効果から発生したものだと考えられる。移動中はとにかく重力がグラグラと四方八方に散らばるような感覚に襲われて……初体験の鉈内翔縁くんには刺激が強すぎた。

 何時間かして到着したのだが、その間にもビニール袋だけは手放せなかった。

「あはは、初めて乗った人はそうなりますよ。ボスのヘリって乗り物酔いのレベル超えますから」

「り、燐ちゃんは慣れてるの? この富士〇ハイランドにでもありそうなアトラクションに」

「ええ、仕事で海外いくときとかはボスのヘリで移動しますので。七色さんとかも昔は吐いてましたよ、見た目が幼い方だったので絵的に悲惨でした」

「た、確かに幼女がゲロってるのは直視できないね」

 息を整えて、ようやく胃袋の中を全て吐き出したことで吐くものがなくなった鉈内は、朝ごはんが詰まったビニール袋を臭いが飛び出さないようキッチリと縛っておく。

「これからは大丈夫ですよ、普通のヘリと同じ動きとスピードで目的地の街にまで行きますから」

「あ、ああ、そうなの? じゃあ僕はフランスの街でも見下ろしてるよ」

 そう返答して、助手席座っている鉈内は窓から眼下の景色を覗いてみる。まだ高度が高い故にあまり期待するほどの美しさはないだろうとタカをくくっていたのだが、その予想は見事に外れた。

「う、うおおおおお! すごいねここ!! さっすがヨーロッパ!! 何かファンタジー過ぎてびっくりだよ!!」

 遠くには王様でも居そうな巨大な城があったり、建築物の全てが洋風で鉈内は大興奮だった。彼の素直なはしゃぎっぷりに笑った黒崎は、運転に注意を向けながら言葉を返す。

「ファンタジーって……怪物退治してる私たちの職業も十分ファンタジーだと思いますよ?」

「いやいや、僕は魔法で異世界で綺麗なファンタジーに憧れてるわけ。―――ってうわすごい!! なにあのでっかい城! ちょーファンタジーじゃんお姫様いそうじゃん!!」

 鉈内が指さしてる場所には、確かに魔法でも授業でやってそうな大きな城があった。黒崎は運転をしながら鉈内が示すヨーロッパの城に目をやって、

「ああ、あれは今回の依頼関係で行く場所ですよ」

「マジでか!? あの城に行けるわけ!? え、ちょ、なぜに!?」

「喜んでいただけてなによりです。でも、説明はひとまず着陸してからで」

 興奮している故にギャーギャー騒いでいる鉈内にも微笑みを浮かべる黒崎燐は、豆腐メンタルでさえなければ確実に可愛い女の子で済むだろう。そう考えると、やはり人間には何かしらの『欠陥』があってこそ人間なのではと納得できるものだ。

 そんな黒崎は的確にヘリコプターを操作して、眼下に見える街の都会から少々離れた場所―――これまた敷地が腰を抜かすくらい広い豪邸の屋敷のもとへ向かう。

「こ、ここもでかいね。っていうか、この大豪邸って普通に人住んでんじゃない?」

「ああ、実はこの家に住んでいる方が今回の依頼主なんです。正確には街の人を代表しての方ですがね」

 その大豪邸のどでかい庭にゆっくりとヘリコプターを下げていく黒崎は、慣れた手つきでハンドルやら鉈内には意味不明のスイッチやらを押したり引いて無事に着陸させた。

 非常に運転が上手いことは、ヘリコプターに初めて乗った素人の鉈内でも分かる。

 さらに、異国の地での『悪人祓い』として活動することに動揺一つ見せないことからしても、黒崎燐は豆腐メンタルな子だが相当頼りにできる相棒だとは理解できた。

 心の中で頼れる仲間の存在を確認した鉈内は、シートベルトを外してドアを開けた。そうしてヘリの助手席から豪邸の庭の上へ立った鉈内は、一通りあたりを見回してみる。

「はぁー、うん、とりあえずめっちゃ広いね。ちょーパないわ」

 何というか、もの凄く金持ちなんだろうなとは察せるが、具体的にこの家の主がどれだけ凄いかだとかまでは深く理解できない。もしかしたら、フランスではこれが一般的なのではと考えてしまう。

「ねぇねぇ燐ちゃーん。そういや、依頼主ってどこ―――」

 振り返って尋ねようとした鉈内だったが、そこには黒崎燐ではなく優しそうなフランス人が立っていた。うわ!? と思わず仰天して数歩後退した鉈内の横から、今度こそ黒崎が姿を表す。

「はは、鉈内さんビックリしすぎですよ。この方ですよ、今回の依頼主さん」

「え、この何かダンディな人が?」

「はい」

 黒崎から確認を得たことで、鉈内はおそるおそる目の前に立つフランス人を上から下まで凝視してしまう。失礼極まりない行為だが、相手は心が広いようで鉈内の子供みたいな反応に思わず笑い声を上げた。


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