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理解できる

「雪白、大丈夫?」

 場所は中央病院の中にある休憩スペースだ。そこに設置されている椅子に腰掛けて視線を落としていた雪白の隣から、そんな心配した声が響いた。

 雪白が虚ろな目を横に向けてみれば、

「清姫……」

「まったく、久しぶりに出てきてみればこれよ。あんまり落ち込んでちゃ肌も悪くなるわよ」

 清姫なりの気遣いなのだろうが、残念なことに今の雪白には何も届かない。本当に、今すぐ彼の顔でも見なければ死んでしまいそうな顔をしていた。

 そんな悲惨な状態である雪白に、清姫は笑顔を作って、

「あんたの気持ちはわかるわよ。私とあんたは『男を憎む』っていう部分で―――悪で繋がってる。だから男に対する価値観や印象は同じよ、だからわかる」

「……」

「その男を憎んでいる気持ちは同じだからこそ、わかる。私もあんたも男は嫌いよ。憎いわよ。うざいしぶっ殺してやりたいくらいにね。でも、そんな感情を男に抱いている私とあなたの中で―――初三だけは違うんでしょ? 男なのに初三だけは好きなんでしょ?」

 その問いに。

 雪白は小さく頷いていた。

「だったらそれって、そのへんの女よりも数万倍強い好意を抱いている証拠じゃない。そのせいであなたは、以前にやらかしちゃったけどね」

「……初三を監禁したときは、すまなかった。お前にも強くあたって……」

 清姫が必死に自分の暴走を止めようとしていたときのことを思い出したのだろう。雪白はか細い声で謝罪の言葉を口にしていた。

 対して清姫は苦笑するだけで終わる。

 責めるなんてことはしない。なぜなら清姫は、雪白の気持ちを全てとはいかなくとも『理解できる存在』だから。

「さぁ、一旦家に帰りましょう。なんなら初三のマンションに行って彼の部屋にでもあがらせてもらいましょうよ」

 清姫は雪白の手を取って立ち上がっていた。

 未だに座ったままであった雪白は、手を取られているという現状にしばし沈黙して、

「そう、だな……」

「そうよ。初三が帰ってくるまで、ずっとその調子じゃ本当に綺麗な顔が台無しよ? 彼が帰ってきた時にそんな顔してちゃ仰天されるに決まってる」

「そうだな、この整った顔は嫌いだが……初三が気に入っているならば整った顔でいたいな、これからも」

 ようやく立ち上がった雪白は、清姫に引っ張られる形で歩き出した。

 が、そこで。

 背後から聞きなれた声が響いた。

「そこのお婆さん、ちょっといいかしら?」

 振り返ってみれば。

 そこには肩甲骨まで伸びた金髪の少女が腕を組んで仁王立ちして立っている。

 目を丸くした雪白に対して、その少女は面倒くさそうに続ける。

「綺麗で真っ白なストレス溜まった髪ですねぇ。マリー・アントワネットの生まれ変わりの方ですかぁ? それともご子息?」

「お前……」

 目の前にいたのは世ノ華雪花。

 彼女は呆然としている雪白の生気のない瞳を見て溜め息を吐き、

「ほら、高齢者。ちょっと付き合いなさいよ。孫の買い物に付き合うおばあちゃんみたいで似合うじゃない」

「お、おい。一体どこに―――」

「ショッピングよ。仕方ないからあんたと買い物してあげるわ」

 混乱している雪白だったが、その隣にいた清姫だけは世ノ華に小さく笑っていた。まるで素直になれない子供を見るような感じで。

「じゃあ、行ってきなさいよ雪白。せっかくだし、中で応援してるわ」

「あ、おい!」

 言って、清姫はすーっと雪白の隣から姿を消した。雪白千蘭の肉体の中へ戻っていったのだ。

 取り乱している雪白は、清姫が消えたことで視線を落とす。

「ったく」

 そんな情けない彼女の姿に溜め息を吐いた世ノ華は、雪白の虚ろな目と整った鼻の先に、ずいっと顔を近づけて、

「兄様が帰ってきたら渡すプレゼントを買うの。それに同行させてあげるわ」

「は、はぁ? お前が私と買い物って……どういう意図が―――」

「兄様に喜んで欲しくないの? なんなら、その死人みたいな顔を着飾るために、あんたの服とかも見繕ってあげるけど。そしたら兄様もあんたのこと見て『良い意味』でびっくりするんじゃないかしら?」

「っ」

 彼へのプレゼント……綺麗になってびっくりさせられる……と脳内で正確に世ノ華の言葉の意味を理解したのか、雪白は小さく視線を落としたまま頷いて、

「……い、行くぞ、行く」

「ふん、それでいいのよ」

 鼻を鳴らした世ノ華はずんずんと先に歩き出す。その隣には雪白千蘭が並んで歩いていた。

 その光景。

 きっと、並んで歩く二人の少女はどこからどう見ても、


 仲のいい友達同士にしか見えないことだろう。

 世ノ華と雪白みたいのを『本当の友達』というのでしょうね、きっと。






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