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救われたというのに

「さて、もう大体話したが、そろそろ君の惚け話を聞かせて欲しいね」

「……は、初三は、優しい。ほんとに、『本当の意味』であいつは優しい。誰かを助けるという行為を善と認識している他の人とは違った、それを悪と独自の理論を並べて断言するほど『頭もいい』ぞ。一つの視点から物事を捉えない。きちんと、犯罪を犯した犯罪者のほうの『犯罪を起こした理由』を真っ先に考えるような奴だ。―――まぁ、そこで自分さえも悪と自虐するのは好きじゃないところだが。そ、それでも、あいつは価値観が歪んでいるかもしれないが、私はそこに素晴らしさを感じている部分もある。どちらかを『悪』か『善』かで片付けるような一般的な奴らとは違い、全てが『悪』だと言い張るあの不思議な考え方にも惹かれた。それで、結局は自分を自虐して笑っているあの姿はもう見たくないが……。わ、私はあいつに酷いことをしたこともある。自分勝手に、あいつを傷つけて閉じ込めて……。だから縁を切られると覚悟していた。絶対嫌われると怯えていた。それでも、あいつは私に『ありがとう』なんて言ったんだ。許す許さないの話じゃなくて、私のしたことに感謝していたんだ。そ、そういうところにも余計惹かれた。私がしたことは大罪だが、あいつは嫌わないでいてくれた。―――あ、ち、違う! 私にとって都合のいい男とか何をしても許す奴だからなんて理由じゃない。ただ、その、『相性』とか、『運命』みたいなものに期待しただけかもしれないが、そういうのじゃないんだ。言葉がでない部分もあるが、私はとにかくあいつの内側にも外側にも惚れている。ほ、本人の前とかじゃ言えないが、そ、その、やっぱり私はあいつのことが『本当』に好きなんだ」

 延々と語り続ける雪白千蘭は、止まることを知らない。よほど効果があったのか、彼女の中に溜まっていた彼への思いが吐き出されていく。

 見ていて歯が浮きそうになるほど頬を赤く染めている初々しい彼女は、そこで一際感情を込めるように話し始めた。

「……初めて会った時は、ビックリした。というか怖かった。私の体に痴漢していた男を殺す勢いで叩き潰して、情けとか容赦ないやり方で笑みさえ浮かべて助けてくれた。助けてくれた、といってもあいつは助けてないと言うだろうが。ま、まぁそれでも、お礼の言葉を言ってみたら私に興味なんてない目で立ち去っていったんだ。男にそういう反応をされたのは初めてだったから追いかけてみたら、振り返って『殺すぞ』っていきなり言ってきたりした。もちろん口が悪くて怖い奴だとは思うかもしれないが……不思議と私はそう思わなかった。追いかけていって、しつこい殺すぞって脅されても―――あいつの目が、何か、『脅したくないけど脅して怖がられようとしている』感じだった。演技っぽかったんだよ。私に自分を近づけないよう、わざと私から怖がられようとしていた。殺すぞ、って脅してくる割には『怯えてる』目だったんだ。―――今思えば、あれは弟のこととかがあったからかもしれないが、一番の大きな理由じゃきっと『自分を悪と肯定していた』からだろうな。だから私を脅すようにああして殺すぞだなんて言って、『俺は怖い奴だ。悪人だ。悪党だ。だから早く逃げてくれ』って……訴えていたんだと思う。無理に『怖い人』を演じて、『悪人』を演じて……」

 生気のない目は寂しげな目へ変わっていた。

 どこか悲しむような声は時たま震えて涙声になる。その理由としては、きっと、いなくなった彼を思い出すと同時に昔の彼の『自虐』に心を痛めているのかもしれない。

「不器用なんだよ、あいつは。ほんとに不器用だ。『そういうやり方』でしか人を守れない。いや、あいつは守っているとすら思っていない。ただ自分を悪と肯定して終わしているだけだ。あいつは気づいていないんだ、少なくとも―――」

 雪白は一筋の涙をこぼした。頬へつたっていった涙とグラグラと揺れる『色のない瞳』は非常に痛々しい。人というものの中に宿る心が、はっきりと破壊されていることを意味している。



「―――私はあいつに救われたというのに、あいつはそれを理解できないんだ」



「……」

「私はあいつに救われた。それをあいつは分からない。きっと、どれだけ私の気持ちを懇切丁寧に正しい言葉を使って並べ立てようと、あいつは持ち前の『自虐』で全部『悪』と認識するだろう」

 雪白は拳を握りしめて。

 呟くように言った。

「そこは、『嫌い』だ……! やはり、私はあいつのことが好きだからこそ『初三が初三を傷つける』のだけは、大嫌いで一番怖いものだ……!!」

 彼への思いがもっとも強い雪白千蘭が吐き出した嫌いという単語。

 それはきっと。夜来初三を『本当』に好いているからこそ飛び出た言葉なのだろう。

 

 

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