ヘリの本質
「いや、大体、ヨーロッパまでヘリで行けんすか? 飛行機とか乗らなきゃいろいろとダメなんじゃ……」
「アホめ。このヘリは見た目を着飾ってるわけじゃねえんだよ」
「いや、完全に見た目着飾ってるよね? だって完全に光り輝いてるもんね?」
鉈内は隣からピカピカと輝いてくるオーラが凄まじい金色ヘリコプターへ指を差して正論を言い放つ。対してフラン・シャルエルは遮るように返答した。
「黙って聞け。つまりだ、このヘリがスゲーところの本質ってなぁ『中身』何だよ。『対怪物用戦闘術』の一種のプログラムを埋め込んである神速ヘリコプターってわけ」
「し、神速ヘリコプター!?」
「最大時速1000キロだぞ、すっごいだろ?」
「それ機体持つの!? バラバラにパーツさんたちがお別れしちゃうんじゃないの!?」
「それもカバーしてんのがこのヘリだ。だから目立つ格好してるヘリだが、他にもいろいろ機能がある。ステルス効果だって無音効果だってあんだよ。つまりそこらのオンボロ飛行機なんて目じゃない。フランスとかいうナルシスト共の国なんぞが察知できるはずもねえ」
さりげなくフランスへ毒を吐いたフランは、ご自慢の金ピカヘリコプターをバンバンと褒めるように叩いて『すごいだろ』アピールをしてくる。
鉈内としては、とりあえずフランスへ仕事に参れれば問題はないのでどうでもいいのだが、それをフランに告げてしまえば絶対に殺されるので何も感想は言わない。ただただ相槌を打ったり、スゲーまじスゲーとゲームキャラクターのように同じ言葉を選び言い続ける。
そこで、
フラン・シャルエルの私物金色ヘリコプターの扉がガララと音を立てて開いた。
「必要なものは詰め込みましたし、準備おわりました。いつでも出発できますよ鉈内さん」
中から出てきたのは、一人の少女。つまりはすっかり元気になった(ひたすらに鉈内が優しい言葉という名の精神安定剤を与え続けた結果)黒髪ツインテールの黒崎燐である。
その出発準備完了の一言を受け取った鉈内は、隣にいる金髪ロングの洋風ロリ……何やらニヤニヤと笑みを浮かべているフラン・シャルエルに向き直り、後ろに駐車されてるヘリで待機している黒崎を親指で指しながら、
「……実はあの豆腐メンタルを僕に押し付けられてラッキーって思ってません?」
「ちょー思ってる」
「ホント素直な人ですね!! マジで優しい嘘っての覚えてください!!」
「いやだって、あいつ本当もろいんだもん。いっぺんボコボコにして精神的攻撃にも肉体的攻撃にも快楽を味わえるほどに耐性つけてやったほうがいいんじゃね?」
「ただの調教じゃねーか!!」
ここで言い争っていても何も変わらない。とにかく、黒崎燐と共にフランスにまでひとっ飛びして七色夕那の代わりに怪物退治を行わなければならないのだから。
ムカつく笑顔を浮かべている金髪ロリを無視して、鉈内は溜め息をこぼしながらヘリの機内へ乗り込んだ。
操縦席には、てっきり運転手でもいるのかと思ったが実際は黒崎燐が座って様々な場所に設置されているボタンやらレバーやらをオンにしている。
つまりは鉈内と黒崎の二人だけ。
運転手の話が合う綺麗なお姉さん……などの美味しい展開はないようだった。
「じゃ、じゃあ、行ってまいります」
「それじゃ頑張ってきますね、ボス」
ボスことフラン・シュルエルは『あー』と適当に声を出して返答なんだか分からない反応を見せていた。が、気づいたようにフランは入口の扉を締めようとした鉈内に口を開き、
「そういや、七色のやつは中央病院で無様に入院してるんだっけか?」
「はい、夕那さんは絶賛入院中ですが」
「あいつの部屋番号は?」
「206号室です、けど。……もしかしてお見舞いに―――」
「ただ馬鹿にしに行くだけだっつーの」
ガン!! と鉈内が占める前に外側からフランがヘリの扉を強引に閉じてしまった。その反応にクスクスと笑った黒崎は、助手席に座った鉈内を確認してヘリを動かす。
金色の塗装がされた派手なヘリは、二人の少年少女を乗せてプロペラを回し始めた。しかしそれも一瞬。気づけば、音さえも出さずにヘリの巨体が消失した。
さすがは『対怪物用戦闘術』の組み込んだヘリだと言いたいところだが、正直ここまで速度が凄まじいと中の二人が心配になってくる。
しかしフランは心配なんてしていないようで、消えたヘリの後を眺めた後に踵を返した。
くく、と声を押し殺して笑い、屋上のここからだからこそ見える眼下の景色をフェンスから見下ろして―――天山市の中央病院を見つける。
呟くように言った。
「さてと、んじゃまぁ仕事仲間だった馬鹿の面でも拝みに行ってやるか」




