フラン・シャルエル
「あ、黒崎じゃん。いっやー、時間ぴったりで悪いんだけどさ、こう見えて私いそがしいんだわ。つーわけでバイバイ、あと一応ごめんちゃい」
「ええ!? ですけど、せっかく鉈内さんを連れてきたんですよ? それはボスが頼んで……」
「えー、そうだっけ? いやまぁ確かに、あの浴衣ロリほどの『悪人祓い』が育てたっつー子供らしいから興味はあっけど……何か思ってたよりルックスが私好みじゃないから嫌だ。私はオラオラ系がいいんだよ」
「な、鉈内さんも十分オラオラ系かと……ほら、髪とか茶色ですし、十分オラオラしてるかと思います!」
「茶色じゃあオラオラじゃなくてブリブリだろ。もう下痢ぎみのブリブリだろ。私は黒髪ワイルドかジュノンボーイしか受け付けないんでパス」
……もはや自分はあらゆるロリを引き寄せる体質なのではと真剣に考えてしまう鉈内翔縁。彼は黒崎燐と『夜明けの月光』を束ねるボスである人物の会話を耳にしていたが、ついに口を開き、
「あの、ボスさん」
「あん? 何だガキンチョ。っていうか、七色の野郎は子育てあっまいなぁ。こんなもやしみてぇな体じゃ喧嘩もできやしねーじゃん」
「いや、その、ガキンチョって……あなたが言う?」
鉈内が部屋に入って開口一番そう尋ねたのは、何やら書類の山の片付けをしている推定身長150cm未満の幼女。チラリと部屋に目を向けてみれば、大きな洋風の事務机には飲み終わった酒缶が散乱していて、まるで酒好きのサラリーマンのような部屋である。消臭剤を一応おいているようだが、明らかに焼酎やハイボールの臭いは残りに残っている環境だった。
「なんだよ、自己紹介でも求めてんのかー? ったく、これだからモテる女はつらいね。まぁ私はそう安い女じゃないが年下好きでもあるし仕方ない。ガキの相手をしてやんのも年上美人の勤めだ、うん」
メルヘンチックなちっこいワンピースを着用していて、腰まで伸びた綺麗なブロンドヘアをストレートにしている幼女はそう言った。
待て、と鉈内は心で神様とやらにツッコミを入れる。
(この金髪ロリが……いやいやまさかそんな)
混乱している鉈内を構わず、金髪ロリは口を開いた。
「『夜明けの月光』のリーダーやってる、フラン・シャルエルな。ヨロピク」
「……」
もうこれは呪いではないだろうか。
鉈内は思い返す。今まで特に関わってきた女性を全て思い返す。特に特に、あの今頃は病院のベッドで眠っているだろう浴衣幼女の母を思い返して、目の前にいる金髪外国人幼女を視界に収める。
結果、
「和風ロリの次は洋風ロリですか……は、はは」
自分は先天性のロリを惹きつける力でもあるのだろうか。さらに気づくが、一番自分に懐いてくれているのも秋羽伊奈という妹系ロリ。やはりこれは一種の呪いにかかっているのかもしれない。
「でよー黒崎。お前らってフランスだかフレンチだかに行くじゃん? 私見送りとかできないから、つか面倒くさいからさっさと行ってくんね?」
「あはは、それは私みたいな役たたずは仕事でヘマして死んじまえってことですよね? ボスってば現実を教えてくださって優しいです」
「相変わらずメンタルよっわいなぁ。まじでお前と関わるとこっちが罪悪感で押しつぶされるからとっととフランスに旅立ってくれ、まじお願いだから」
「あはは、そうですよねぇ。私ってば面倒くさいですよねぇ。自覚がない面倒な女って生きてる価値ないですよねぇ」
「そうそう、だからさっさとヨーロッパでいい男探してこい。そして帰ってこんでいい」
「あ、あはははは、さっすがボス! 私みたいなメンヘラクソビッチ臭い女の将来まで心配してくれるなんてさすがです」
「だろ? よしさっさと旅立て。そして帰ってくるな」
「はい! 分かりました一生帰ってきません。この世から早急に旅立ってきます。私の葬式は小さいもので結構です」
「いや葬式なんて面倒なことしねえよ。金メッチャかかんじゃん」
「申し訳ありません! 私ごときの葬式なんてお金をドブ川に捨てるようなものでした。なに舞い上がってんだろう私ってば、あはは」
鉈内とは違って、黒崎に対して一切の気を使うことがない『夜明けの月光』を束ねるフラン・シャルエルこと金髪ロリ。いや、洋風ロリはグサグサとオブラートの欠片にも包まれていない発言を連続する。
そのおかげで。
もはや黒崎燐の瞳からは色が消え失せていて、ただでさえ弱いメンタルが粉々に砕け散っているようだった。
「ちょ、まじで丁寧に扱ってあげてくださいよ!! この子ホントに自殺しますよ!? たぶん!!」
「だって面倒くさいじゃん、こいつ。お前もそう思ってんだろ? つか誰だって面倒な女だと思ってっから」
腰まで伸びた長い金髪を払って、微塵もためらうことなく『面倒くさい』と黒崎を評価したフラン。彼女の言葉に黒崎燐は生気のない笑顔を鉈内に浮かべて、
「あっははは、やっぱり鉈内さんも面倒だと思っていたんですね? こんなブスと仕事かよテンション下がるわとか思っていたんですよね? はは、ほんと迷惑かけてばっかですいません。乳ガン辺りで死にたいなぁ……」
「ちがうから!! 僕そんなこと微塵も思っていないから!!」
フランは舌打ちを大きく鳴らして、鉈内の傍に近寄り彼の脇腹をグイグイと肘で押しながら、
「うっわー、こういう優男見てるとまじむかつくぜ。ハッキリ言っちまえよ、お前みたいなメンヘラ女なんざ御免だって」
「あんたマジでボス!? 上司!? 何でそう部下をためらいなく傷つけられるの!?」
「だってコイツ何言ってもメンタル砕けちんだもん。もう付き合ってらんない」
「そ、それはまぁ……確かに」
黒崎に聞こえぬよう、ぼそりと納得せざるを得なかった鉈内。その反応に笑ったフランは、洋風の事務机に近づいて寄りかかり、小さな口を開いた。
「さてと、まぁ挨拶もこれくらいにして本題にちゃちゃっと入るか。おい黒崎、いつまで瞳の色なくてんだ? キモいぞ」
「ちょ、だからキモイはまず―――」
「あはは、すいませんボス。キモくて本当すいません。今度全体的に整形してきます」
「おう。AV女優っぽい顔にしてこい」
「どんな顔だよ!! あんたホントいじめすぎだろ!!」




