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取扱説明書

 鉈内翔縁と黒崎燐がたどり着いた場所というのが。

 天山市の都会から少々離れた場所にそびえ立つ大きなビルである。ただしそのビルへ入る前には、何やら黒崎燐がパスポートのような四角形の手帳を黒服の男達に確認させたり、指紋スキャンのようなドラマで見る検査を受けたりしていて……めちゃくちゃ危ない組織の本部みたいで不安になった。

 しかし、入口の自動ドアから中へ入ったところで鉈内がそわそわしていることに気づいたのか、黒崎が微笑んで緊張を解こうとしてくれた。

「安心してください、鉈内さん。私が守りますから」

「ま、まじすか? 美少女に守られるのは僕の死ぬまでにやっておきたいことナンバー3に入るんだけど」

「大丈夫です。いざとなったら私みたいなメンヘラクソ女よりも価値のある鉈内さんをお守りするに決まってるじゃないですか」

「じ、自分の身は自分で守るから君は君の身を守ろうか!! ね!?」

 ……もの凄く痛々しい気遣いだった。思わず鉈内が気遣いで返してしまう。

 しかしそれは逆効果だったようで、

「ああ、そうですよね。私みたいなビッチ臭い女に守られたくないですよね。はは、調子に乗ってホントすいません、もう何か必要とされないこと分かったんで海のもくずになってきます」

「お盆に現れそうで怖いからやめて!! まじやめて!!」

 絶世の男嫌い美少女、金髪猫かぶり元ヤン女、黒髪ロング浴衣ロリ、などなどの濃い女性と関わりを持つ鉈内でさえ、ここまで面倒くさい少女は初めてだと思った。どうにも彼女はガラス細工よりもメンタルが弱小らしく、非常に扱いづらい。もはや取扱説明書が必要なほどだ。

 鉈内はそこのところを配慮しなければ体力が持たないと踏み、無理に爽やかな笑顔を作って、

「と、ところで、燐ちゃん? でいいかな」

「はい、お好きなようにお呼びください」

「今は一体どこに向かってるの? っていうかここはどこ? 何かやたらでかいビルだけど……」

「ここは『悪人祓い』で結成された『夜明けの月光』という私が所属する『悪人祓い』たちの組織です」

 さらりと仰天することを返してきた黒崎に対して、鉈内は声を上げて驚愕した。

 もちろん即座に様々なことを聞き出す。

「え、え? 『悪人祓い』の組織って……こんな大規模な? っていうか、それじゃ夕那さんとか速水さんとかもこういうところに……」

「はい。昔は七色さんも速水さんも『夜明けの月光』に所属されていた『悪人祓い』でしたよ。今は速水さんは教師一直線で、七色さんはフリーの『悪人祓い』としてボチボチ活動されているようですが、昔は私もお世話になりました。お二人はパートナーという関係でもあって、どちらも実力は格上すぎる最強のコンビでしたよ。実際、お二人は世界各国に名が広まってましたからね! 私の憧れでもあります!」

「は、ははぁ。どうりで、夕那さんはやたら顔とかが広いわけだ。なんかもう僕ってばいろいろと納得しちゃった」

 その後もいろいろと質問した結果、どうやら現在進行形で歩いている最中の廊下の先が目的地であるらしい。正確に言えば―――『夜明けの月光』を束ねているボスの元へ挨拶を行うようだ。

 それにしても、この『夜明けの月光』の本部であるビルは凄い設備と規模である。手入れがされた綺麗な廊下を歩いている鉈内は、七色夕那がかつて所属していた場所がここまで次元が違うとは……と少々興味を持ち始めていた。  

 すれ違う人も大勢いたが、それら全てが『悪人祓い』であると思うと非常に自分という存在はちっぽけに見えてくる。

 そんな風に鉈内がぼーっと思案していると、

「つきましたよ、鉈内さん」

 気づけば目の前には一枚の洋風の扉があった。

 この先に―――この『夜明けの月光』という大規模な『悪人祓い』達で結成された組織のトップがいる。他にも『悪人祓い』の世界では様々な団体があるというが、『夜明けの月光』は俗にいうマンモス校のような立場らしい。つまりは『悪人祓い』の世界でも一位二位を争うポジションだ。

 そんな奴らのトップが目の前の扉の先にいる。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ鉈内は、意を決してドアノブに手をかけて『夜明けの月光』を束ねるボスが待つ部屋の絨毯じゅうたんに足を踏み入れた。

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