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書類

「んだぁ? 夜来くんってば随分とイラついた顔してるねぇ。高血圧なのかな?」

 背後から聞こえた心底忌々しい声に、渋々夜来は振り返る。

「そういうテメェはどうなんだ、シスコン野郎。無駄に白いスーツが汚れまみれみてぇだが、まさかボロ負けしちゃったのかなぁ可哀想に。つーか、白スーツとかカレーうどんもロクに食えねぇ趣味やめろカス」

「お前はお前で『試合に勝って勝負に負けた』みたいじゃん。何だよそのつらは、目つきの悪いクソガキが悩み込むとか見てて吐き気するだけだからやめろって。テンション下がるから」

「……」

 沈黙した夜来は返答の代わりにギラついた視線をプレゼントしてやる。

 すると豹栄は、汚れていたスーツをパンパンと軽く叩いてほこりなどを落としながら、

「まぁ、おかげで俺のほうにのしかかってた『空気』も解けたし、これ以上は追求してやらねえよ。安心しろ」

「余計なお世話だ」

 そこで。

 適当に返答した夜来初三のポケットから携帯電話が振動する。面倒くさそうに取り出してみると、表示には『スマイル野郎』とだけ書いてあった。

 耳に当ててみると、案の定、電話口からは無駄に柔らかい声が飛び出る。

『おっ疲れ様でーす夜来さん。電話に出られる余裕があるということは、生きてお仕事片付けられましたか?』

「じゃなきゃ好き好んでテメェの着信に出たりしねぇよ」

 電話相手の上岡真に吐き捨てるように言う。

『あはは、それはそれで悲しいですねぇ。僕は夜来さんの番号にシューベルトの「魔王」を設定してるほどあなたを好き好んでますけど』

「完全に喧嘩売ってんだろ。『魔王』とか完全に喧嘩売ってんだろ」

『いや、夜来さんのテーマソングにぴったりかと』

「今すぐ『森のくまさん』あたりに変えとけ。―――で? 用件はなんだ」

『いえ、お仕事終了の確認と……口を割らせるための「人形」は残ってますか?』

 人形、とは間違いなく『拷問ように生かしておいた人間』のことを指しているのだろう。オブラートに包んでの例えなんだかは知らないが、結局のところ返す言葉はただ一つ。

「悪ィが全員殺しちまったな。心臓動かしてやがる野郎とクソアマなんざ『瓦礫の下に埋まってる』だろうよ」

 そう。

 本道賢一との一戦によって、地上で戦闘不能になっていた『エンジェル』の下部組織達はほとんどが瓦礫の山の下敷きになっているだろう。

 残念ながら『人形』となる者はいない。

『そうですか。それは少々悲しいですが、まぁどうせそこは下部組織のアジトです。「エンジェル」の本部のヒントすら握っていないかと思いますし、重要な情報は皆無かと思われますので、構いません』

「そりゃどうも。ミスってすんませんね、上岡サン」

 その謝罪の気持ちなんて微塵も感じられないイラついた声には、相変わらずな柔らかい言葉が返ってきた。まるで馬鹿にしてるのではと思うほどの柔らかい返答が。

『いえいえ、後輩に優しいのが僕の取り柄ですからご安心を。ところで、迎えの車はもうそちらへ向かってますので、少々お待ちください』

「話はそれだけか」

『はい。あ、そうそうこっからはプライベートになるんですけど、僕の友人の健二けんじくんが奮発して今度一緒にソープラン―――』

 ブチ、とそこで下ネタ満載のネタを振られる前に通話を切る。

 あのスマイル野郎は、光と影の裏表が激しい気がする。無駄に清々しい笑顔を浮かべていると思えば、いざとなると冷や汗がでるほど冷酷になったり。

 ああいう『腹の中に化物を飼ってる』タイプの悪党が一番恐ろしい。見て分かる狂気や殺意や凶悪性が常に浮き出ている夜来初三や豹栄真介とは違い、隠し持ってるあいつは特にやばい。

 寝首をかいてきそうな危険性の高い相手である。

「で、宝探しの結果はどうなんだ」

「これじゃ探すも掘り出すもねえだろ。あたり一面瓦礫だらけじゃねえか、どっかのクソガキのおかげで」

 尋ねられた豹栄は、周囲の惨状を見渡してそう言った。対して、夜来は大きな舌打ちをして腰にかかっていた折りたたみ式の黒い日傘を曇り空へ広げる。

 そこで、可愛い声が響いてきた。

「小僧、お仕事終了か?」

「ああ、働きすぎて残業した気分だ」

 いきなり腰にひっついてきた大悪魔サタンに驚くことなく、夜来は溜め息を吐いてそう答える。すると銀髪幼女(本当は悪魔)は相変わらず夜来にべったりのまま、遠くのほうを指差して気づいたように言う。 

「あれは何だ? 何やら紙切れみたいのが散乱してるが」

「紙切れ……?」

 眉を潜めた夜来は、その紙切れとやらがある場所へ歩いて行った。歩行中でもサタンは腰に抱きついたままだったが、不可思議なほど歩行速度がシンクロするので邪魔にならない。ある意味凄い特技である。

「……なんだこりゃ」

 サタンの言うとおり、薄汚れた紙切れ……というよりは、書類のようなものがそこには散らばっていた。何やらパソコンで打った文字が並んでいるところからして、絵や図ではないことだけは分かる。

 そして。

 その文面に目を走らせていった夜来は、その書かれている内容に思わず笑った。

 へぇ、と感心するように呟き、

「おいシスコン野郎」

 離れた場所にいた豹栄真介に声をかけて、夜来はニタリと顔を歪める。

 タバコをくわえて近づいてきた豹栄は、面倒くさそうに尋ねる。

「なんだ」

「お宝、見つかったみたいだぜ?」

「あん?」

 手渡された書類に軽く目を通した豹栄真介。

 すると彼もかすかに鼻で笑って、

「面倒くさいもん見つけんじゃねえよ、ったく」

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