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見えない

 バッと振り返ってみれば、倒壊から逃れた廃ホテルの屋上に本道賢一は立っていた。場所は高い。さらには遠い。明らかに『サタンの呪い』にかかってる夜来初三でさえ実現不可能な移動速度だった。

 まるで瞬間移動。

 いや、移動だなんて次元を超えている。

 しかし夜来はホテルの屋上に立つ本道に薄く笑う。相手の『呪い』が解明できていない状況下の中でも笑みを絶やすことはない。

 そしてポツリと言った。

「……面白れェ」

 ギン!! と両目を鬼のように見開き、ズラリと並んだ歯を見せびらかすようにして口を引き裂く。そうして笑顔を濃くし、右足を地面に押し込むように叩きつける。

「決めた。埋葬してやる」

 邪悪に宣言した。

 直後、ぐぐぐ!! と右足が地面へ豆腐に突き刺さるように埋没した。『絶対破壊』の的確な破壊の操作による効果である。

「クッソがァァああああああああああああああああああああッッ!!」

 瞬間。

 大きな大根を引き抜くような音と共に。  

 


 地面の中へ埋まっていた膝から下の右足を、強引に『地面ごと』蹴り上げた。



 津波のようにして蹴り飛ばされた『大地そのもの』は、明らかに規模が異常すぎる。まるで激流のように地上を飲み込んでいく『地面』だった土、砂、細かい石、地層の群れは、『絶対破壊』による影響で化物の一撃へと変異していた。

 その度肝を抜かれる破壊の嵐は、残っていた廃ホテルを屋上から飲み込んだ。当然、余裕の表情を浮かべていたあのクソ野郎は先ほどの一撃が直撃して死亡したはず。

 なぜなら、地面ごと蹴り飛ばしたあの攻撃範囲だ。とてもじゃないが、直径三百メートルくらいはあったのではと思うほど広範囲攻撃である。しかも一秒にも満たずホテルへ直撃したのだから、回避するには直径三百メートルを秒速一秒未満で移動しなくてはならない。

 そんな回避速度は持っていないはずだ。

 故に、少々あっさりとした最後に夜来は鼻で笑って、

「つまんねぇなぁオイ。せめて死に顔くらいは飾ってやりたかったんだが?」

「―――安心しろ。俺がお前のを飾ってやる」

「!?」

 突如聞こえた声に振り向く。

 そこには本道賢一の余裕を感じさせられる顔があった。

「っが!?」

 そして異変がやってくる。

 夜来初三の首が、見えない誰かに絞められているような現象が発生したのだ。自分の首を何かが縛り付けているような感覚は、夜来の顔を苦痛と混乱の色に染め上げる。呼吸器官が正常に働かなくなり、唾液が夜来の口元から顎へ伝っていった。

 ゴギギ!! と、喉元を締め上げる力は上昇した。

(な、にが……!? 俺は『絶対破壊』を使ってる!! なのに、コイツァなんだ……!? どうして俺の体が外部からの干渉を許してやがる!?)

 声にならない声をあげて悶え苦しんでいる夜来。必死になって『絶対破壊』の壁をすり抜けて襲ってくる『何か』の謎解きをしているようだ。

 対して。

 肩をすくめた本道はこう言った。

「無様だな。俺一人にやられて苦しんでいるその姿、実に無様だ」

「……っが……っぐぁ……!?」 

「それにしても、『お試し』程度の覚悟で行った攻撃がここまで通用するということは、やはり予想はあたっていたようだな」

(クッソ……!! 何だ!? 何が起こってやがるクソッたれ!! まさか、『絶対破壊』が働いてねぇだののトラブルでも―――)

 そこで、首を襲って来ていた圧迫感は解除される。

 代わりに。

 ドゴン!! と、腹の中心に衝撃が走ってきた。

 結果、解放されて思わず咳き込んでいた夜来の体が、くの字に折れ曲がって後方へ吹き飛んでいく。背後にあったのは廃ホテルの残骸から生まれた巨大な壁。そこに激突した夜来は、背骨を折り曲げて血反吐を吐き出してしまった……と夜来本人が予想していたのだが、

(『絶対破壊』が、効いてる……だと!?)

 そう。

 背中から激突した壁には『絶対破壊』が影響していたようで、見事にホテルの残骸から生まれていた壁は粉々に吹き飛んだ。

 おかげでダメージはゼロ。喰らって体力を消耗したのは先ほどの『見えない攻撃』だけだ。

(どういう、ことだ……!? 壁がぶっ壊れたってことは『絶対破壊』は正常に作動してやがる。だってのに、あのクソ野郎からの一撃には反応しなかった。つーことはやっぱ……アイツが何かトリックを使ってるわけか!!)

「テッメェ……!!」

「そう睨むな。とりあえず立て、情けないぞ」 

 ゆらりと立ち上がった夜来。

 そこで、先ほどの『見えない攻撃』が直撃した腹部から何かがこみ上げてきた。思わず口元を押さえてみると、手にはベッタリとした血の塊が付着している。

 すなわち吐血だ。

 夜来は心底忌々しそうに鉄臭い口内で舌打ちをして瞳をギラつかせながら、

「―――ぶち殺す」

「急にやる気がでてきたか? 仕事熱心で感心だな、三下があまり出しゃばらんほうがいい」

 ついに。

 プツンと殺害衝動を押さえつけていた糸が切れた夜来。即座に己の感情へ従順に従うがごとく『サタンの呪い』へ身を侵食させていく。白目は墨のような黒へ染まり、黒い瞳は血のような赤色へ変わった。そのサタンの魔眼だけでさえ怪物と見分けがつかなくなったというのに、彼の顔にはジワジワと『サタンの皮膚』が広がっていく。

 あっという間に顔を刺青いれずみにも似た漆黒の紋様に食われた夜来は、その大悪魔の魔眼と紋様が目立つ顔から絶叫を上げる。



「図に乗ってんじゃねぇぞ……!! この犬畜生がァあああああああああああああああッッ!!」



 

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