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昇天決定

 サタンの下した一撃は実に単純である。

 触れた存在全てを自由自在に破壊することができるサタンの魔力を、ただ周りに散らばしただけ。それだけの単純な魔力の使い方で、辺りを一瞬で瓦礫の山に変えてしまったのだ。 

 しかし驚くのはここではない。

 それは。

「あれでも加減したぞ? 冗談でも嘘でも見栄を張るわけでもなく―――我輩は力を『二割』も出していない」

「……あれで二割って」

 呆れる夜来の反応も当然だ。

 この廃ホテルは非常に敷地面積が広い。東京ドーム数個分といったところだ。数年前まで、営業していたときには天山市の旅行滞在先におすすめだともテレビで宣伝されるほどに有名だったホテル。

 いわゆる、超有名高級ホテルだったということだ。

 故に敷地は広い。

 だというのに、その半分を瓦礫の山に変えてしまったのだ。たったの二割にも満たない力によって。

「我輩はその気になれば、この日本くにだってこの地球ほしだってこの世界すらも『破壊』できるぞ」

「……冗談だろ」

「残念ながら本当だ」

 胸を張ったサタンと手をつないでいる夜来は肩を落として溜め息を吐いた。……この悪魔の言うことは信用できてしまうほどに強大だからである。

「ま、そうならないよう加減したらこうなっただけだ」

 災害後の大被害にあった被災地のような周りを見渡してサタンは言った。ここまでしておいて尚も加減。やはり、サタン本人の力とは計り知れないものがある。

 そんな銀髪ゴスロリ服の可愛い(見た目)怪物と手をつないでいる夜来は、面倒くさそうに日傘をさして廃ホテルの屋外を歩いていた。

 曇り故に、今は日傘一本の日光遮断で耐えられる。

 頭はクラクラとしたり吐き気が襲ってくるときが希にあるが、いい加減、少しでも日光に耐性をつけなければなるまい。事実、日光というトラウマを利用されて、とある少女に監禁されてしまったこともある。あの事件に関してはまったく気にしていないが、それを本当の殺し合う敵に利用でもされたりしては敵わない。

 太陽という弱点を克服……とまではいかなくても、少しは慣れるようにしておきたい。

「つーかよ、さっきのテメェがした大暴れで全員くたばっちまったんじゃねぇのか? 仕事がはかどって俺は万々歳だが、どうにも呆気なさすぎる」

「小僧の役にたてて嬉しいぞ。次はベッドで役に立ちたいな」

「そんな仕事は絶対させませんからよろしく」

 夜来はコキリと首の関節を鳴らして、

「っつーか全員殺しちまったらダメなんじゃなかったか? 拷問用に一匹くらいは生かしとかねぇと、あのクソ上司といろいろ面倒になる」

 そこで、何やら真上から声が聞こえてきた。

「どうやら、本当にお前ら化物二人がここにいたようだな」

 見上げてみれば、そこには格闘家のように筋肉をつけた大男が立っていた。夜来初三と大悪魔サタンがたどり着いているのは、崩壊したホテル半分ではなく、サタンの一撃から運良く逃れられたホテル半分のほう。

 故に、廃墟と化した汚いホテルの五階辺りの窓辺にその男はバランスよく立っていた。しかし妙である。普通なら窓辺だなんて不安定な足場に立ち続けていられるはずがない。故に夜来はピクリと眉を揺らして、

「『悪人』か」

「察しがよくて助かる」

 舌打ちを吐き捨てた夜来は、握っていたサタンの小さな手を軽く揺らす。その合図を受け取ったサタンは、幽霊が消えるようにすーっと姿を消していった。

 直後に。

 夜来初三の前髪で隠れている右目周辺から右頬までには漆黒の禍々しい紋様が浮き出てくる。

「ほう、やる気まんまんといったところか」

「仕事熱心と言え。ドクソが」

『サタンの呪い』にかかった夜来初三は、侮蔑するように男を見上げる。

「さてさて、そこいるマゾ山くんは一体全体どう気持ちよくして欲しいんだ? おすすめコースは結構ハードだがどうするよ―――死ぬほど気持ちいいのは保証してやるが?」

「生憎と天国へ向かう旅立ち人には俺じゃない。俺は見送り人だ」

「へー、言うじゃん」

 軽い調子で返答した夜来に、男は自己紹介を行う。

「本道賢一だ。冥土の土産にでも覚えていくがいい」

「おいおい、テメェこの状況理解できてんのか? どっちが冥土に突き落とされるかくらい察せねぇほど終わってんのかよテメェの頭は」

「威勢だけは一人前だな。悪党、素直に冥土に落ちろ」

「口の利き方がなってねぇ野良犬みてぇだな。虐待してやろうか、ゴールデンレトリバーくん」

「体がでかいことは自覚してるが、さすがに例えが限定的では?」

「調子に乗んなよ犬畜生が」

 夜来は瞳孔をドス黒く光らせ、

「テメェらの狙いは俺だろうが。殺せるわけもねぇくせに殺すだのと吠えるなドブ犬」

「……訂正しよう。『五分の四殺し』にしてやる」

「ハッ、上等!! やってみろよゴミクズが」

 瞬間。 

 ぐちゃり、と歪めるように夜来は笑った。

 その相変わらずな狂気と嗜虐が混じりあった笑顔はもはや人ではない。



「そんじゃまぁ昇天決定だクソ野郎!!」



 叫び。

 ドガン!! と爆音が炸裂した。

 夜来が地団駄を踏むように右足を地面へ叩きつけたのだ。『絶対破壊』を纏った足で地盤そのものを破壊した。よって『廃ホテルの根元の地盤を粉々に砕く』ことに成功。ビシビシと地面には亀裂が走って行き、それは本道賢一の立っている廃ホテルの外壁にまでヒビとして入っていく。

 結果、

 クッキーが割れるように廃ホテルは全体の七割が崩壊した。

 即座に倒壊していくホテルから飛んで、本道は地上に着地する。が、足をつけている場所の地面がまたもや裂けるようにパックリと割れた。

 壊れたのだ。

「!!」

 まるで地震により地盤そのものがズレたような現象。

 しかし実際は、『地盤を粉々に砕かれた地面故に些細な重みでズレる仕組み』へと変えられていただけだ。地盤とはいわば土台。それを夜来が『絶対破壊』によって『粉々に粉末状ふんまつじょうにした』ことで『地面そのものがズレやすくなっている』のだ。

「噛み付く相手ってなぁ大事なんだぜぇ!? ドッッックソ野郎が!!」

 持っていた日傘を投げ捨てて、爆発的な速度で飛び出してきた夜来初三。その速度を支えている源は『サタンの呪い』による身体能力上昇だけではなく、『絶対破壊』によって靴の裏に小規模な破裂型の破壊を起こしていたのだ。

 故に衝撃波が靴の裏では発生するので、その風圧さえもスピードとして利用して飛び出した。もちろん速度は猛烈だ。まるでミサイルのように突っ込んでいく。

 が。

「遅いな」

 その移動速度を前にして本道賢一は遅いと評価した。

 さらに気づけば、いつの間にやら視界に捉えていた本道の姿がどこにもない。低空飛行のような形で地面スレスレを突っ切っていた夜来は、思わず靴底を地につけてブレーキをかける。

 ザザザザザザ!! と音を立てて止まったので停止には成功。夜来は目玉だけをギョロギョロと動かして消えた本道の行方を探る。

 だがそこで。

「こっちだ、悪人」

「!?」 

 背中を向けている方向から冷静沈着な声が響いた。

 

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