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はじけ飛ぶ

「……何だこりゃ」

 豹栄は肩から切断されて床へ転がった右腕を見て呟いた。

 しかしその呟きに痛みも動揺も見られない。

 まるで、オリンピックの競技に出場した選手がど素人程度の実力だったようなことに呆れる感じ。『くだらないもの』に対して吐き捨てたようなものだ。

 しかし興味はあった。

 豹栄真介の好奇心だけははっきりと揺さぶられた。

「何だよ今の。マジックか?」

 失くした右腕を『瞬間再生』させて新しく生やした豹栄は、心底感心するような純粋な声を上げた。新しく生やした右腕の調子を確かめているのか、豹栄は右手首の関節を鳴らしたりして動かしている。

「答える義理はないな」

 ゴリラのような巨体をした男は、薄く笑って持っていた拳銃を連射する。またもや豹栄の体のあちこちに弾丸が貫通していくが―――傷口はまばたきをするよりも早く完治してしまう。

 すなわち『瞬間再生』。

 絶対に死ぬことがない『不老不死』の能力である。

「なるほど。噂通り厄介な男というわけか」

 大男は鼻で笑って拳銃を投げ捨てる。

 おそらく、豹栄真介に拳銃などという鉛玉を打ち出すだけしか能がないオモチャでは歯が立たないと確信したのだろう。

「豹栄真介……なぜ貴様のような『デーモン』の中でも上の人間が俺らごときの下部組織狩りをしている? 自虐するようで心が痛むが、俺らレベルならば下っ端を使えば良かったのではないか?」

「おいおい、こっちの名前は知っといてお前は名乗らねえとか軽いイジメだろ」

 豹栄の返答に男は肩をすくめて、

本道賢一ほんどうけんいちだ。好きなように呼べ」

「そうかいそうかい。おかたそうな名前で何よりだ。で? その本道くんはこの俺に何のようかな?」

「殺しに来た。死んでくれ」

「人にものを頼む側だっつーのに頭の位置が高ぇんじゃねえの? 死んでくださいお願いしますだろうが本道くん」

 豹栄の浮かべる笑顔を見た本道は、小さく笑ってこう返した。

「本当に、なぜお前のような大物レベルがここにいる。下っ端をなぜ使わなかった」

「さてねどうでしょう。ああ、一応スーパールーキーなら別にいる。あっちなら殺していい」

「……スーパールーキー?」

「お前らがさんざん欲しがってたあのガキだよ」

 本道は眉をピクリと動かし、

 理解できたようで何度か首をコクコクと振る。

「なるほど。夜来初三……あの化物までもがここにいるということか。凶狼組織を束ねるリーダー・豹栄真介に、大悪魔サタンを宿した悪党・夜来初三……。そんな化物が二匹もここにいるわけか。これは本当に勝算が低くなってくる」

「そういう割には余裕が見えるが、プライドでもはってんのか?」

「いや、そういうわけではない。ただ、そうだな……それは少々おかしい」

 怪訝そうな声を上げた豹栄。

 本道はそれを気にすることなく続ける。

「俺らの目的は夜来初三だ。だというのに、夜来初三を最前線で働かせるというのはいくさの中に大将を真っ先に放り込むようなものだろう」

「はっ。そういうわけか」

 豹栄は吸っていたタバコを床に吐き捨てて踏みにじる。よって新たに白スーツの胸ポケットからタバコを一本取り出し、それを咥えて先にライターで火をつける。  

「まぁ単純な話だ。俺らとしても、最初はお前らの目的がなんなのか知らなかったもんでね。あのクソ祓魔師があのガキを狙って動いたところから目的が夜来初三だとは気づいた。まぁ、だからこそ夜来を拉致ってこっちで監禁してお前らに渡さないようする……って手が一番の最善だと思ったんだわなーこれが」

「それこそが最善なのでは?」

「いいや、まぁよくよく考えてみろよ。―――『デーモン』と『エンジェル』の戦力ははっきり言って『お前ら』側が上だ。だから昔っから、こうして『エンジェル』の下部組織をコツコツ潰して本部の住処を吐かせようとしてんだが……お前らって、本部の場所知らねえんだろ?」

「ああ、『エンジェル』の本部の居場所なんぞは俺ら下っ端は知らん。本部から派遣された上の奴がここ(廃ホテル)のような下部組織を作るからな。はっきり言って、お前らがやってきた下部組織狩りは無意味だぞ」

「そうそう。だから決めたわけ―――あの夜来初三クソガキは『戦力』として使う。保護なんざしねえ。したくもねえよ気持ちわるい」

「なるほど……攻めに特化したというわけか」

 納得したようで、本道は苦笑するように言った。

 だが、まだ疑問はあったようで、

「では、もう一つ聞く。―――なぜ、お前と夜来初三は仲良く戦場ここで共闘してられる?」

「……どういう意味だ」

「世ノ華雪花だよ」

「っ!!」

 ビクリと肩が跳ね上がった豹栄真介。

 その反応があまりにも予想通りだったのか、本道は口の端を釣り上げる。

「豹栄真介と夜来初三。お前ら二人の間には『世ノ華雪花』という大きな大きな壁があるはずだ。それこそ、お互いに共闘することなんて不可能なくらいの鉄壁が」

「……どっから知った、それ」

「俺ら下部組織の行う仕事は謎が深い呪いや怪物に対する研究と調査。そして、ターゲットである夜来初三関係の調査でもある。だからよく知っている。お前ら二人は殺し合う運命にある、と断言できるくらい因縁があるらしいじゃないか」

「ストーカーかよ、訴えるぞ」

「まぁそう言うな。―――妹を滅亡させたお前もある意味訴えていいのではないか?」

「―――、」

 最後の言葉で豹栄の頭の中が弾けとんだ。

 気づけば。

 ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!! という爆音と共に、本道の立っていた場所を中心にした半径十五メートルが土色の翼によって押しつぶされていた。

 一瞬の出来事。

 一秒にも満たない超高速攻撃。

 土色の翼を背中から出して、それを全力で本道に振り下ろす。ただそれだけの簡単な動作を視覚では確認できない速度で行ったのだ。

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