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気づいていない

 楽しそうに。

 愉快そうに。

 面白そうに。

 ニィ、と笑った夜来初三は首を曲げて関節をコキリと鳴らし、持っていたワンタッチ式の日傘をボタンを押すことで縮め、腰のベルトにかける。

 そして、自分を見えない場所で取り囲んでいる無数の敵を前にして呟く。

「ゴキブリみてぇにうじゃうじゃ湧きやがって。面倒くせぇな」

 ぺっと、彼は唾を地面に吐き捨てた。

 その行為の意図は―――こんな殺気ばかりが溢れる世界で『自虐』しながら、あの少女を傷つけることを理解している上で暴力を振るう自分に嫌気がさしたのだ。

 しかし

 しかし、だ。

 冷静になって考えてみよう。あの少女は自分がここで戦っていることを知らない。ならば、夜来はあの少女を『まだ』傷つけてはいないのである。こうして『自虐』しながら戦っていることを知られていないのだから、これはまだ『本物の悪』と言えよう。


 

『誰も救わずに目的てきだけを始末する』という『本物の悪』に従っていると言えよう。



 この状況は、弟を守っていた幼少時代と同じだった。

 その事実に気づいた夜来は笑う。

 夜来終三を精神異常者の両親から『陰』で守っていた悪行。

 あの少女を含む身内をクソ共から『陰』で守っている悪行。

 瞬間。

 ハハ、と壊れたように彼は笑い。

「あっはははハハははははハハハハははハはははハハはははハハハははははははハはははハハハははははははハハハハハはははははハはははははハハはははははハハハははハハハははハハハハはハハ!!!!」

 ひたすら。

 笑って笑って笑って笑い、

「何だよ俺ァ『本物』だったじゃねーか!! これでだーれも傷つけてねぇし救ってねぇし『本物の悪』で完結してんじゃねーかよオイ!! たーまんねぇなぁ!! 本物本物ちょー本物の悪人じゃーねぇかよ!! それで終了!! マジ終点!! 道なんざぁそっから先にゃねぇんだよ!! 幕ゥ下ろしてあんだろうがよ!! つまり俺ァ本物で終わって『いつも通り』のやり方を貫けてたじゃねぇかよクソが!! ―――オッケーオッケーちょーオッケー!! ソーセージに加工してやっから期待して待っとけよぉぉクッソ共がアアアアアアアアア!! ぎゃっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 そのあまりの狂気に、夜来初三を狙っていた『エンジェル』の男や女はビクリと肩を震わせる。あの次元が違う邪悪な笑い声から、誰がどうあがいても無意味になぶり殺されることは察せたはずだ。

 しかし、『エンジェル』の下部組織である彼らは気付けなかった。敵が一人だと油断しているのか、自分たちの戦力に自信があるのかは分からない。

 だが。

 それらの希望はあまりにも『はかなくぶち壊される』ことになる。

「よォーしテンション上がってきたぁ!! 俺は最ッ高にスイッチ入ったけどテメェらぁどうよ!? しっかし良い根性してるよなぁオイ!! 案外すんなり俺をぶっ殺せるんじゃねぇの?」

 夜来初三は楽しそうだ。面白そうだ。

 それもそのはず。

 なんせ、自分がしていることは『本物の悪』だと自覚することができたのだから。自分はあの少女を『まだ』傷つけていない。ならばこれから先もここに立っていることを知られないままやり過ごせばいい。それならば『本物の悪』として間違っていないはずだ。 

 故に。



 自分は『本物の悪』だと認識した夜来初三は気分が高揚している。



 よって。

 凶悪な笑顔はいつも以上に濃く染め上げられていた。

 そんな彼の精神状態には当然ながら『エンジェル』は気づくことがない。故に、少女の一人が物陰から飛び出て夜来の体をマシンガンで滅多打ちにしようと動いたのだが、

 グッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! と、引き金に触れる機会さえもなく、顔から血しぶきを上げて転がっていった。

 残った『エンジェル』の者たちは、何が起きたかすら分からなかった。

 夜来初三が近くの小石を蹴り飛ばして、女の顔面を潰してやったとは誰も気づけないほどのスピードだったのだ。

 そして。 

 自分のしていることは『本物の悪』だと自覚した夜来初三は、

「ほらほらぁ!! そうやって可愛い可愛い女の子出てこられちゃったらこっちも興奮しちまうじゃん!! っつーか、クソアマのツラァ潰す快感はたーまんねぇなあ!! マイブームになりそうだぜぇオイ!!」

 言葉通り興奮状態だった。

 きっと、今の彼は誰にも手がつけられないほどに狂っている。極悪になって飽きるまで暴れまわるだろう。好きなだけ返り血を浴びなければ落ち着くことがないだろう。

 それほどまでに『本物の悪』として行動している自分自身に喜んでいたのだ。

 しかし。

 夜来初三は気づいていなかった。


 

 あの少女は―――夜来初三が傍にいないだけで傷ついているということに。


 

 そんな初歩的な事実に頭が回らない夜来初三は、普段から『自虐』している故に自分という存在の価値を一切理解していないのだろう。どれだけ、あの少女が『離れ離れ』になっているだけで悲しんでいるか分かってないだろう。

 つまり。 

 結局のところ。

 夜来初三はあの少女を傷つけていた。

 その絶対的な現実に気づくことのない夜来初三は、ただ笑いながら自分にお似合いの戦場を鮮血で満たすために、 

「お掃除の時間だ。ピッカピカにしてやるよ」

 あの少女を傷つけながらも、あらゆる敵を暴れ壊す。





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