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初陣

 戦場までは黒塗りのワンボックスで向かっていた。

 夜来初三は後部座席からチラリと周りの車内を眺める。どうにも居心地はよくない。『こちら側』の闇に堕ちた際に詰め込まれた車も―――この黒塗りのワンボックスだったからだ。

 いい思い出なんざあるわけもねぇか、と吐き捨てるように呟いた夜来。

 その隣から、可愛い声が聞こえてきた。

「小僧とお仕事♪ 小僧とお仕事♪ ランランラン♪」

「おい、ちっとは黙ってらんねぇのかよ」

 なにやら足をブラブラと動かしてニコニコ笑顔の大悪魔サタンは、夜来の注意を完全スルーして鼻歌をやめない。しかし夜来が相手にしてくれないことに不満がたまったのか、彼女は彼の膝の上へ頭を乗せた。いわゆる膝枕というやつだ。

「重ぇ。離れろ」

「重くない。離れない」

 一度は講義した夜来だったが、こうなるとサタンは一歩も引かないことを知っているので溜め息を引いて折れてやる。

 一方、サタンのほうは……なにやら、うつ伏せになって夜来の股間あたりに顔をうずめていた。ズボンという衣服を突き破るような勢いで、鼻息を荒くしながら股の間に顔を突っ込む。

 しかし夜来がイライラを抑えながらサタンの頭を押し返しているので、サタン的には満足できない状況だった。

「お似合いですね」

 そこで、ふと運転手の男から声がかかる。見たこともない顔だったが、少なくともどこかのシスコン不死身野郎のように好戦的ではないらしい。

 夜来はサタンの首根っこを引いて真横に投げ飛ばしながら、

「仮にも俺とここの変態悪魔は似た存在だからな。否定はしねぇよ」

「呪いの関係である悪人と怪物は、皆さん仲が良くて羨ましいですよ。私は独り身なのでね、ちょっと妬けます」

 男はハンドルを切りながら、細い道をひたすらに走っていく。

「ところで、あなたは確か最近『デーモン』に入った夜来初三さんでしたっけ?」

「だったら何だ」

「いや、なんというか……すごく、あなたって不思議な目をしてるんですね」

 運転手の意味がわからない褒め言葉のような発言に、眉根を寄せて怪訝そうな声を出した夜来。対し、運転手の男はアクセルを踏みながら、

「あ、いや変な意味ではないんです。ただ、こういう世界―――血の匂いが充満する世界に入った人って……大抵が腐った目になるんですよ。少なくとも、私が見てきた人じゃ」

「……」

「それなのにあなたは、なんていうか……『似合っている』感じの目、なんですよね。こういう、暴力がものを言うくそったれな世界に『似合っている』ぎらつく目。そこに、少々興味が湧きまして」

「ふン。あながち間違っちゃいねぇだろうな」

 鼻を鳴らした夜来は、窓から見える景色を眺めたまま続ける。

「テメェが言いてぇのは、こういう世界に入った奴は『後悔』する目になるってことだろ。自分テメェの人生振り返って、結局は絶望する悪タレのことを指してんだろうが」

「はい。なのにあなたは―――」

「そりゃ俺が『生まれた時から悪人だった』からだ。生憎と、俺は『自分を悪と肯定して生きてきた』クソ野郎―――自分から悪に走らなきゃ生きていけねぇ環境に生まれたクズだったんだよ。だからテメェらとは格が違ぇ。俺は自分から腐ったんだ。自分から後悔する道を歩んでたんだよ。自分から悪に染まった。俺の目がこういう血みどろな世界に『似合っている』のはそれが原因だ」

 運転手はバックミラーで夜来のギラつく瞳を確認し、

 哀れむように言った。

「『そんな目』になるほどの環境、ですか……。こういう生き方をする人は、大抵、家庭環境や人生が歪なかたが多いです。けど、あなたの場合は自分を悪と納得できるほど悲惨だったんですか……。そんな怪物みたいな目になるほどに―――」

 そこで、行き過ぎた発言に運転手はハッとする。

 夜来初三の殺人兵器そのものの鋭利な視線がバックミラーに映っていた。思わず『殺される』と察知した運転手は身を竦ませて、裏返りそうになる声を上げた。

「す、すいません。別に馬鹿にしたんじゃないんですが」

「そうビビんなよ。むしろ、『そういう』認識の仕方は大歓迎だ。俺は自分が化物だって自覚はある。安心してハンドル切れよ、運転手しっかりやれ」

「は、はい」

 夜来はホっと息を吐いた運転手を一瞥して、背後から聞こえた物音に振り返ってみる。そこには、走行中の揺れで音を出したのだろう、大量の銃火器が車の尻に詰め込まれていた。

 ガチャガチャと揺れる殺傷能力の高い飛び道具たち。

 その中から一丁の黒い拳銃を夜来は取り出して、くだらなさそうに観察しながら、

「そういや、こういう銃火器オモチャはどこから仕入れてきてんだ? 趣味のいい店でも知ってんのかよ。だったら引くぞ」 

「ほとんどそうです。あなたのような戦闘隊員ではなく、私みたいな雑用係の三下が他国から取引してます。まぁ、数年前あたりからは『今まで以上』に武器の輸入量も増えたんですけどね」

 夜来は持っていた拳銃を興味津々の目で見ているサタンに渡して、おもちゃ代わりに遊ばせてやる。弾は入ってないので問題はない。

 そして運転手に言った。

「……『凶狼組織』が加入したからか?」

「せ、正解です。よく分かりましたね。ちょうど今から何年か前に、豹栄さん率いる犯罪組織・『凶狼組織』が『デーモン』に加わったからです。本当に、どうしてお気づきになられたんですか?」

「あのシスコン野郎とは因縁が深ぇからだよ」

 夜来は鼻を鳴らした。

 それもそうだろう。なぜなら、『凶狼組織』というクソ野郎どもとはお互いに壮絶な過去があるし、彼らは武器の取引や麻薬の密売などを行っていると噂されていた大規模犯罪組織だ。故に、『凶狼組織』という『武器の輸入や輸出を行うプロ』が『デーモン』に協力し始めた時点で、銃火器の仕入れ量も跳ね上がることは予想がつく。大方、『凶狼組織』の大半が武器の輸入係にでも回っているに違いない。

 と、そこで。

 運転手がこんなことを言ってきた。

「私は、たまにどうしてこういう世界に足を突っ込んだのか、と思うんですよね……」

 


運転手が良い人すぎる・・・(笑)

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