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拷問

 


「……」

「初仕事だ。精々気合をいれて頑張れよ。死んだら死んだで爆笑してやるから、はかなく散ってこい」

 興味がなさそうに目を細めた夜来。

 彼は呆れるようにこう言った。

「どうやってその『エンジェル』の一部分を見つけ出したんだ? 全部全部がテメェの妄想とかってオチなら、その薄汚ぇ顔面ぶっ壊すぞ」

「あいつらから聞き出した。俺が直々にな」

 そこで立ち止まった豹栄。

 彼はすぐ右横にある透明な壁の先へ顔を向けていた。夜来もその視線の先をたどっていくと、そこには真っ白な室内で二人の男と女が椅子に縛り付けられて息を荒くしている。

 体中は傷だらけだ。痛々しいにもほどがあるくらい。

 さらに、動けない男と女の前には、何人かの『凶狼組織』の男達が金属バッドやら刃物やらを持って、いかにも『口を割らせてます』といった現場が出来上がっている。

「……『拷問』ねぇ。いい趣味してるな、テメェ」

「そりゃどうも、といいたいところだが。俺も心を鬼にして、仕方なく『半殺し』にしてやったんだぜ? そんな人殺しみてぇに言うなよ」

 夜来と豹栄は、透明な壁の先で起こっている容赦ない惨劇を観察していた。

『凶狼組織』の黒服を着た男が、『エンジェル』の組織員である椅子に拘束されて動けない男に近寄り、質問をしている。しかし拷問に耐えるよう教育されているのか、『エンジェル』の男は一向に口を開かない。

 もちろん、質問に答えないならば、持っている金属バッドで殴りつけて『痛み』を与えてやるのが拷問だ。しかし『凶狼組織』の男は、目の前でズタボロになっている『エンジェル』の男の姿に情けをかけたのか、歯噛みして手を挙げたりはしない。

 その光景を見て、夜来の腕に抱きついているサタンは鼻で笑う。

「ヘタレだな。あれは貴様の部下なのだろう? 腰抜けにもほどがあるぞ」

「……まったくだな、くそったれ」

 反論をしないのか、豹栄は情けない部下の姿に溜め息をこぼしていた。

「小僧小僧。あんな『どうでもいい』ことは放っておいて、早く仕事とやらに行こう。我輩とデートだ! 仕事デートだ!」

 どうでもいい。

 目の前で血まみれになって拷問されている……敵だが、痛々しい人間を見て『どうでもいい』とサタンは言った。

 その一言を聞いて、やはり彼女は『悪魔の神』だと実感させられる。しかしサタンにとっては本当にどうでもいいのだ。『エンジェル』とは夜来初三を狙う敵。故にサタンの敵である。だからこそ、敵に慈悲なんてかけないサタンは『どうでもいい』と納得している。

 ここで夜来初三が『善人』だったならば『どうでもよくない!!』と説教でも始めていたかもしれない。ヒーローならば『あんな非人道的なことはやめろ!!』とカッコよく豹栄に掴みかかっていたかもしれない。

 しかし。

 夜来初三は悪人だ。

 故に。

「おい、シスコン野郎」

「どうした、良心でも芽生えたか?」

「拷問を続けてるっことは―――吐かせるだけの価値はあるってことだよな?」

「だったらなんだ」

 瞬間。

 夜来初三は口を引き裂いて邪悪な笑顔になった。

  

  

「も、もう俺もお前は殴りたくねえんだよ、だからさっさと吐け!! 吐いてくれ!! 他にまだ知ってることあんだろ!? なあ!?」

「バカ、か、お前? 吐くわけ、ない……だろ……? 頭イカレて……んのか? あぁ……?」  

『エンジェル』の男は、椅子に縛り付けられたままそう言って無理に笑う。一方、『凶狼組織』の男はこれ以上の暴力は実行できないようで、眉根を寄せて舌打ちをした。

 他の『凶狼組織』たちも同じ気持ちなのか、武器を振り上げる真似はしない。

 静寂だけが流れる。

 沈黙だけが空間を支配する。

 と、そこで。

「なになになになになにぃ? なんだ? なんだよぉ? シケた面して戦意喪失ってかぁ? 情けねぇなぁオイ」

 その異質で禍々しい声と姿。

 その隣で寄り添っている銀色の怪物。  

 つまり。



 悪魔と悪魔が降臨した。

 

 

 拷問部屋であるここに入出してきた二人。

 当然、突然の訪問者に驚愕の声が巻き起こる。

「な……!! や、夜来初三!! お前、なにを―――」

「うるせぇよ」

 仰天している『凶狼組織』の男にぴしゃりと言い放つ。さらに男が持っていた金属バッドを乱暴に取り上げて、手のひらでバッドをクルクルと回しながら、『エンジェル』の男女を見下ろして、

「爆笑必至で絶賛拷問中の組織員これは、どこまでゲロったんだ?」

「『エンジェル』の、一部分の部隊……組織の居場所だけだ。他は、まだ……です」

 思わず敬語が出てしまった。

 それも仕方ないことだろう。夜来初三の出すドス黒い雰囲気の前では、並の悪にしか染まっていない『凶狼組織』の男程度では鳥肌ものだ。彼と平然と会話できるものの方が、希少価値と認識できる。 

 夜来初三はただの悪人ではない。



 己から進んで悪に走るしか生きてこれなかった悪人だ。



 つまり。

 悪に対する覚悟が他とは絶対的に違う。

「小僧小僧、我輩仕事いきたい~! 小僧と共同作業したい~!!」

拷問これも共同作業だろうが。文句言うんじゃありません、って話だバカ」

「だって―――ただ殺すのとか『つまんない』もん」

 ゾワリ、と夜来初三の腕に抱きついているサタンの発言で『凶狼組織』の男達は寒気が走った。あの銀髪の怪物は、人を殺めることにすら『抵抗』がない。まるで宿題を嫌がる子供のように駄々をこねているのだ。その程度の感覚で面倒くさがっているのだ。

 異常だった。

 異常で歪で狂気で恐怖の塊だった、あの悪魔は。

  

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