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初仕事

 

「あからさまな拒絶をどうもありがとう夜来くん」

 挑発に挑発で返してきた豹栄真介。

 が、気づけば。

 バァン!! という銃声が炸裂していた。驚いたのは夜来初三と豹栄真介に挟まれる形で立っていた大柴亮だ。

 バタリ、と何かが倒れた音が聞こえた。

 大柴が振り返ってみれば、そこには脳天を弾丸が貫通していることで死体へと変わった豹栄真介が転がっていた。

 気軽な調子で豹栄を撃ち殺した夜来は、硝煙の香りを上げている拳銃を使って、ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!! と、死んだ豹栄の体に弾切れになるまでさらなる弾丸を叩き込んでやった。弾の一発一発が直撃するたびに、血を吹き出して転がっていく豹栄真介。床が出血によって血だまりへ化していく光景を見ても尚、夜来は侮蔑するような目を豹栄の死体へ向けていた。

 しかし。

「マジで殺したくなってきたんだが、この感情はどう押さえ込めばいい?」

 のそりと起き上がった豹栄。

 傷一つない彼は引き裂くように笑って、

「おい。爪を剥がさせろ。じゃねえと気がすまねえ」

「寝ぼけてンのかなぁ豹栄ちゃんは。―――自分テメェの妹を滅亡させたドクソ野郎の気が済むかどうかなんざ興味もねぇよ。こっちゃあ腹ァ立ったままなんだよコラ」

「っ……!」

「ああ、『お前にゃ関係ねえだろ』とかつれねぇことは吠えるなよ? 俺もアイツは妹だと思ってんだ、だったらその時点で無関係じゃねぇよな? 兄貴同士仲良くしよーぜ?」

「仲良くするためにゃ、まず第一に相手の脳天ぶち抜くのが正解なのかよ?」

「はて、なんのことやら」

「年か? もう自分のやった殺人罪をポックリなきものにしてんのか? あ?」

「殺人罪だぁ? どこの誰が死んでんだよボケ。証拠を見せてみろ証拠を……って話になるが構わねぇのか? クソゾンビ野郎。むかつくから殺しただけだ。そうつまんねーこと言うなって」

 この場合、一番可哀想なのは大柴亮だろう。彼らに挟まれている形のポジションだった彼は、大きな咳払いを一つして、

「ひょ、豹栄さん。それで、もしや自分に仕事でも?」

「いや、お前に用はねえよ。そうだな……しいて言えば、一旦席を外せ。そこのカスと話すことがある」

 小さくお辞儀をして立ち去っていく大柴亮。その後ろ姿を目で追っていった豹栄は、夜来初三と二人きりになったことを確認し、息を吐く。

 ギロリとお互いに視線を交差させながら、会話は始まった。

「で、なんの用だっつってんだよ。仲良く俺と交友でも深めようってか? だったら爆笑しすぎて笑い死ぬからやめてくんない?」

「ウジでも湧いてんのかテメェの頭は。まあ、今じゃ一応『仲間』ではあるからな、そういう絆を深める的なくだらねえ行為にも意味はあんじゃねーの?」

「……『仲間』、ねぇ」

 呆れるように呟いた夜来。

 チッ、と彼は舌打ちをして、

「『デーモン』だっけか?」

「そうだ」

「『エンジェル』対抗組織『デーモン』。つまりは、『エンジェル』を叩くために作られた組織ってのが、テメェらってわけなんだよなぁ」

「おいおい、なーに都合のいい認識の仕方してんだコラ」

「あ?」

「『テメェら』じゃねえよ。『俺ら』だろ? 先生に叱られてる時に真っ先に共犯の友達裏切るやつだよなーお前。いい加減、お前もそこんとこの自覚を持てよ」

「……調子に乗ってんじゃねぇよクソ野郎」

 目の色を殺意に塗り替えた夜来。

 彼は瞬時に豹栄の首を片手で握り締めた。さらには壁にまで押し込んだので、豹栄の背中には大きな衝撃が走る。バゴン!! と、室内には轟音が炸裂する。

「本気で喧嘩売ってんのかテメェ。なに偉そうに上から説教唱えてンだぁオイ。割とマジで殺されてぇのか? こっちはテメェのツラァ視界に入れる度に殺してやりたくなるのを我慢してんだよ。必死に必死に我慢してんだよ。そこんとこをよーく理解してくれねぇか? じゃねぇと―――心が広い俺でも『限界』ってのが来る。死ぬよ、お前?」

「短気なやつだな。短気は損気って知ってるか?」   

「そういうイカした度胸はこの場面で使うモンじゃねぇな。殺すぞ」

「はーいはい。どうもすいませんでした」

 夜来初三は手を離し、吐き捨てるようにクソッタレがと呟いた。対して、豹栄は視線だけで夜来に『ついてこい』と示し、自動ドアをくぐって退出していく。

 面倒くさいな、と心で思った夜来だったが、渋々彼の後を追って歩き始めた。

 出たのは広い廊下。周りは白い壁で固められている研究所のような場所だ。白衣や黒服を来た男や女が行き交っている通路で、人口密度は少々高い。

「ここは『デーモン』の管理するアジトの一つだ。ついでに言えば、ここは『お前達』専用に作られたようなものでもある」

 隣を並んで歩く豹栄から、そんな言葉が聞こえてきた。

 夜来は眉を潜めて、

「『お前達』だと?」

「日光にさえ当たらなければ、お前の中に常に潜んでいる悪魔も……って、話しをすればこっちに来たぞ」

 呆れるように溜め息を吐いた豹栄の言葉通り、奥の通路からは人の群れをかいくぐって走ってくる銀色の影が見えた。

 正体は大悪魔サタン。

 夜来の腕に抱きついた彼女は、銀色の瞳のラインを細めて無邪気に笑う。

「おお、小僧は射撃なんたらが終わったのか? だったら我輩を構え! 小僧の射撃なんたらが終わるまで暇だったんだぞ!」

「……なるほど。コイツもこうして出てこれるように、地下施設なんつー大層なモンを作り上げたわけだ」

 豹栄はコクリと頷き、再び歩き始める。

 夜来も腕に抱きついたままのサタンと共に、その隣を並走する。

「ここにいるのは俺が管理してる『凶狼組織』だけじゃねえ。『凶狼組織』以外の奴らもうじゃうじゃいる」

 周りに溢れている人間たちを見て、豹栄はそう言った。

「どういうことだ」

「俺もこの『デーモン』に入ったのは数年前だ。つまり、俺がこの『デーモン』に入ったことで、俺の管理してた『凶狼組織』もセットで『デーモン』に協力してるわけだよ」

「……つまりテメェのオプションとしてくっついてきたのが『凶狼組織』ってわけか。チッ、過去に張り合ってた悪党共がオプション程度の『おまけ』になってるとはな。テンション下がるってモンじゃねぇぞ」

 苛立った声で返答した夜来。

 彼は『で?』と付け加えて、以前変わらないイライラが混じった声で、

「用ってのはそれだけか? だったら失せろ」

「いいや、違う。用は仕事の話だよ」

 豹栄は前を向いて歩いたまま、

「『エンジェル』の一部隊の居場所を見つけ出した。お前にはそれを叩いてもらう」

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