表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/539

占い

新章開幕―――鉈内くんが主役の悪人話です『生死を分ける悪』以降久しぶりの鉈内くん『本格メイン』です 

 この悪人話には一流の悪人が登場しない。

 悪には成りきれない『善人』―――いや、『善人気取り』である少年が『悪人祓い』として悪人へ立ち向かうお話。

 決して、あの一流の悪人である少年のように非情にはなりきれない少年。

 彼は、それを『優しさ』と呼ぶのか―――はたまた『善』と呼ぶのか。もしくは『ヘタレ』と評価するのか―――それとも『アホ』と断言するのか。

 善人として戦う『悪人祓い』が一つの悪へ立ち向かうお話。

 善が輝く悪人話だ。

 いや、善に見える『偽善』が光る悪人話だ。

 とある出来事が鍵となり―――怨念に染まる悪を背負った一人の悪人。そこには深い謎が残り、混乱と驚嘆の嵐を巻き起こし続けていた。

 そんな一つの悪を討伐するため、『悪人祓い』が動き出す。

 これは、今までとは違うベクトルで突き進む悪人話である。



『誕生日占いコーナー!! さぁて、今日一日でもっとも運がいいのは何月生まれの方なのか!?』

 時間は早朝。

 声の発生源はテレビ画面に映っている女性。

 場所は七色寺の内部に存在する七色夕那の住まう家。そのリビングである広間は、七色寺の敷地が広大なことが影響しているのか非常に大きい。インテリアのセンスもなかなかで、さすがに寺といっても和風オーラ全開というわけではないらしい。

 そのリビングには一人の少年が食卓に座ってテレビを視聴していた。朝定番の、お天気コーナーから一日を占うコーナーへ変化したテレビ画面をぼーっと眺めている。

 正体は鉈内翔縁。

 しかし、現在はこのリビングにも七色寺の敷地内にも彼一人しか存在しない。

 理由は七色夕那の長期入院である。かなり前に起こった、『エンジェル』という謎の組織の襲撃。その被害に第一にあった七色夕那は、深い傷を安全に完治させるため、天山市の中央病院という医療機関のもとで入院している。

 故に、七色と二人暮らしだった鉈内翔縁が必然的に一人で暮らしているわけだ。

『では、まずは今日一日で一番運がいい方からです!! 一位は五月生まれのかた!! 今日は運命の出会いがあるかも!? 積極的に外出することを心がけて―――』

 寝癖によって頭が爆発している鉈内翔縁は、眠気が収まっていないのか気が抜けた顔をしている。それでもテレビを眺めながら、朝食のトーストをもぐもぐと食していた。

 そしてモーニングコーヒーが入っているカップへ口をつける。

 と、そこでテレビからは残念そうな声が響いてきた。

『あー!! なんとなんと!! 本日が最悪の一日と化すかもしれないのは、十一月生まれの方です!! 大変なことが起こるらしいので、注意していただきたい!!』

「え~。僕ってば十一月なんだけど、大変なことってなにさー。そういう曖昧なのやめてよねー。もっと具体的に言って欲しいよね、うん。バナナの皮で滑りますとかさ」

『ではでは具体的にどんなことが起こるのでしょうか!? それはこちらの、大人気占い師「ビッグマザー」さんに聞いてみましょう!!』

「お?」 

 何やらテレビ画面には、一人のローブをかぶった老婆が登場してきた。彼女のことは鉈内もよく知っている。現在人気急上昇中の的中率百パーセントと言われる予言や占いを行う占い師・『ビッグマザー』だ。何度かテレビに出ていたところも見ていたため、鉈内はテレビ画面に映る彼女の顔を見て感心するような声を上げた。

「おーおー! なーんだ、『ビッグマザー』が僕の今日一日を予言してくれんの? だったら期待できそうじゃん」

 眠気を吹き飛ばし、コーヒーを鉈内は飲み始めた。

 同時にテレビ画面へ視線をロックさせる。

『それでは「ビッグマザー」さん!! 十一月生まれのかたは、この一日でどんな不幸が訪れるのでしょうか?』

 女性に尋ねられた老婆は、年のせいで枯れた声を出しながらも、

『そうですねぇ。まず、十一月生まれの方で―――十一月二十日に生まれた人はめちゃくちゃ不幸になります。具体的にはトラックにはねられそうになるくらい』

「ぶふっ!? ま、マジで!? 僕トラックにひかれんの!?」

 十一月二十日生まれの鉈内翔縁はコーヒーを吹き出しかける。

 しかし、そこで『ビッグマザー』こと的中率百パーセントの老婆占い師は、テレビ画面の中でこう言った。

『さらに茶髪でチャラチャラとしていて現在コーヒーを飲んで吹き出しかけたそこの少年は―――』

 続けて、



『―――今日ぶっ殺されまーす』

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 テレビ画面に映る『的中率百パーセント』の占い師を凝視するのは――― 茶髪でチャラチャラとしていて現在コーヒーを飲んで吹き出しかけた少年・鉈内翔縁である。

 彼はしばし沈黙し、

「はああああああああああああああああああ!?!?!?」

 当然の大声を上げた。

 椅子から駆け出してテレビ画面のもとへ走り迫り、その画面の映るクソ老婆の目と鼻の先で絶叫する。

「え、ちょ、はああああああああああ!? 殺される!? 今日!? 十一月二十日生まれなだけで!? マジで!?」

『マジです』

「会話すんなああああああああああああ!! ってか茶髪でチャラチャラしててコーヒー吹き出しかけた奴って限定的すぎるだろ!! 完っっっ璧に僕狙いだろオイ!!」

『さらに言えば、現在ギャーギャー騒いで私の予言に文句をつけている茶髪の少年も殺されまーす』 

「ふざけンなクソババァああああああああああああああああああああああ!!!!」

 あまりにも理不尽な予言に朝一番からブチギレている鉈内は、画面越しでドヤ顔をしている老婆をテレビそのものを揺らして威嚇する。テレビには何の罪もないのだが、仕方ないことだろう。

 すると、同じくテレビに映っている女性が不思議そうな顔をして『ビッグマザー』こと老婆に疑問を投げかけた。

『随分とはっきりとおっしゃられましたが、それはなぜでしょう? あまりにも突飛な話かと思うのですが』

「そうだ!! もっと言え!! っつかそこのババァぶん殴れ!!」

『これには確かな根拠があります。私の予言や占いは、全てマヤ文明に残されている予言と同じ種類のものを代々受け継がれているのです。私は母からこの力を授かりました』

「なに信頼性上げてんだよ!! マヤもまとめて否定してやる!!」

『その結果、その茶髪でチャラチャラとしていてコーヒーを吹き出しかけ、現在進行形で騒いでいる少年は殺されると』

『はい。絶対死にますんで』

「おかしいだろおおおおお!? なんで僕なの!? なんで僕限定なの!?」

『いやー、しかし恐ろしい予言でしたね。でもまぁ、まさかそんな『茶髪でチャラチャラとしていてコーヒーを吹き出しかけて今まさに騒いでいる少年』なんて、いるわけないですよね。あっはははは』

「いるよ!! いるんだよお姉さん!! ここにいるんだよ笑い事じゃないんだよ!!」

『まぁ、そうですね。私の予言は絶対ですが、その条件に入ってる人なんて私もいないと思います。いたらいたでびっくりですよ、あっはははは』

「テメェの頭がびっくりだよクソババァ!! っつか笑うな!! 笑い事じゃねーんだよ分かってのかよコラ!!」

『『あっはははははは』』

「笑うなああああああああああああああああああああああ!!!!」

 鉈内の叫びも虚しく、テレビ画面は即座に次のコーナーへ移り変わる。爽やかな笑顔を見せてくれた二人の姿は既にない。代わりに、東京の渋谷周辺で人気のカフェをリポートする男性が現れた。

 当然、

「……」

 鉈内はあんぐりと口を開けて唖然とする。

 いや、さすがに冗談という可能性もあるだろう。『ビッグマザー』はバラエティ番組にもゲストとして登場し、笑いを取るようなこともしたことがある。先ほどのような、『今日あなたは転んで犬の糞を踏みます』みたいな失礼極まりないが『笑い』を取る予言もしていた。

 すなわち先ほどの予言は、

「じょ、冗談ってわけか……」

 思わず安堵の息を吐く鉈内。

 確かに、よく考えてみればあの予言はおもしろさを追求したようなものだった。きっと、今頃日本各地の家庭では楽しげな笑い声が響いているはずだ。

 と、自己完結した鉈内は時計の針に目をやった。

「げ、やっばい遅れる!!」

 そろろろ七色のお見舞いへ向かわねばならない。故に鉈内は、『テレビ画面にツッコミ』から始まった今日一日をスタートさせる。

  

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ