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闇の神として

 イライラが爆発しそうなのだろう。

 夜来初三に『弟』の話はタブーだ。それは彼が今までの人生上もっとも後悔し、苦悩し、心をズタズタにしてしまった出来事故だろう。

 だからこそ、夜来初三は今にも上岡を頭からボリボリと食べそうな雰囲気を纏いながら、もう一度尋ねる。

「何が言いてぇ? 答えろよ、青二才」

「ですから、そういうようやく手に入れた幸せの中に、僕たちっていう『闇』が入るんです。お分かりいただけますか? あなたは二度と―――光の世界だけで過ごせない。こっちの世界は、あなたが過去に立っていた悪の世界よりも『深い』んですよ。言っておきましょう、夜来さん。あなたはまた、あなた自身が過去にいたような『闇』へ入るんです。いや、もっともっと黒い世界へ。もう二度と、這い上がれないくらい深くへ、ね」

「ご忠告どうもありがとう、とでもリアクションすりゃ満足か?」

「ええ、大変満足ですよ。そりゃもう、ウキウキ気分で踊れるくらいに」

 ブン!! と、投げ飛ばすように乱暴な動作で上岡から手を離す。

 乱れてしまった服を整えた上岡は肩をすくめて、

「まぁ、それだけ血の気が多いあなたならば問題はないでしょうが、これからは僕たちと行動してもらいますよ? ああ、ご安心ください。『幸せ』を謳歌させるくらいには、休日を与えてあげますから。ちゃーんと、雪白さんたちとキャッキャウフフして楽しんでくださいよ。息抜きは誰にでも必要ですしね」

「チッ」

 忌々しそうに舌打ちをした夜来。

 そして彼は、ギロリと裏路地という薄暗い場所ですら光るような鋭い視線を向けて、

「で、そろそろ答えろ。―――『テメェら』は一体何なんだ? 前からちょこまかと俺の周りを金魚のフンみてぇに追いかけてきたみてぇだが、いい加減目障りなんだよ。さっさと吐け」

「え? ああ、そういえばそうですね。夜来さんも『こっち側』に来たんですし、正式に連れて行かないとですね」

 そこで。

 いつの間にか消えていた豹栄真介が、裏路地の奥―――広い道へと繋がる方向から足音を鳴らして上岡のもとへ近づき、

「来ました。そろそろ、準備を」

「え、ああ。『迎え』ですか? 早いですねー。エンジン音とかも静かですし、技術班がまた腕を上げたようで何より何より」

 楽しそうに言った上岡は、夜来に向き直って、

「では、夜来さん。最後の確認です。―――こちら側の闇に堕ちていただけますか?」

「地獄にだって落ちてやる。それで『あいつら』の安全を確保できるってんなら―――」

 さらに続けて。

 夜来初三は凶悪に口を引き裂いて笑顔を見せながら、

「―――俺ァ神だろうと仏だろうと世界だろうとぶち殺す。全部全部ぶっ殺してやるよ」

 それが『あいつら』に敵対して襲いかかってくるものならばな、と言い終えた夜来の顔は明らかに―――悪人らしいものだった。

「男らしく惚れちゃいそうですよ。それでは、覚悟も決まったところで」

 上岡は懐から黒いスタンガン取り出す。

 その薄暗い中で輝く電流が走る先端を夜来の首筋に近づけて、



「ようこそ、『こちら側』へ」


 

 ビリィッ!! と、気絶するよう改造されているスタンガンの一撃に夜来の体は一度だけ跳ね上がった。しかしそれも一瞬。気づけば、倒れ落ちた夜来の体を豹栄真介が雑に引きずって持ち運んでいく。

「さて、と。では―――僕たち『デーモン』も動きましょうか。『エンジェル』の目的が、ザクロさんからの証言で世界を変える的な―――世界そのものを塗り替えようとしている、どっかのRPGのボス的なことは分かりましたし、あとは暴力の実行のみです」

 裏路地を抜けて、迎えの黒いワンボックスが待機している広い場所にまで到達する。

 するとワンボックスからは黒スーツ姿の男や女たちが出てきて、豹栄が引きずっていた夜来の体を持ち運んでいった。ワンボックスの後部座席へ運び込まれる夜来初三。その姿に笑い声を上げた上岡は、愉快そうにこう言った。

「いやいや、即戦力になりそうな人材も増えて何よりです。さて、ではそろそろ出発しましょうか」

「了解しました。―――おい。夜来は起こすなよ。そいつは危険だ。念のため何人かは、そのガキの眉間に銃口当てて用心しとけ。個人的に気に入らねえから、なんだったら殺していい。つかぶっ殺せ」

 愚痴をこぼした豹栄は助手席に座り、運転手の男に進めと指示を出す。後部座席に待機している上岡たちは、静かに夜の街を駆けていく車内で息を潜めていた。

 こうして。

 夜来初三を乗せた黒のワンボックスは深い深い闇の街を駆け抜ける。そして、闇へとひたすらに直進していく。

 夜来初三は今度こそ、登り上がることが絶対的に不可能な闇へと堕ちていった。

 どれだけ足掻こうと、決して戻れない光から。

 その姿を闇へと堕とす。

 結果、 

 闇こそが彼の世界へと『根本的』に変わった。

 それでも夜来は、笑ってその現実を受け入れる。

 自分という闇こそが闇の世界で生きて何が悪い? むしろお似合いの世界で環境で人生なのではないのか? つまり、これは最高の舞台へのスカウトだろう? 

 そんな風に思うのかもしれない。

 そんな風に―――雪白千蘭が最も嫌う『自虐』で肯定してしまうのかもしれない。

 ドス黒い闇に消えた夜来初三は、やはり『悪』としての道を選び続ける。

 自ら。

 己から。

 決意したのだ。

 


 闇の世界で『神』として君臨するほどに悪へ染め上がってみせる。

 


 と。

ヤクザとシスコンとスマイルの共闘決定です。他にも新キャラ立てようと思うので、闇サイドにもご注目お願いしたいです。



 しかしながら、夜来と豹栄が仲間になるとは・・・・・・・『滅亡させる悪』の第三話『凶狼組織』から殺し合った二人がこうして手を組むとは予想外でした。 

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