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闇堕ち

 

 場所は変わって裏路地の一つ。

「おめでとうございまーす」

 腹が立つほどニコニコしている上岡真は、そう言って夜来のもとへ近づいてきた。出血がひどいままの夜来だったが、『サタンの呪い』が効いているようで見た目ほど応急処置が必要かと言えばそうでもない。確かに、今すぐにでも治療したほうがいいかどうかと問われれば百パーセント『イエス』なのだろうが、自然治癒できる時間があれば問題は特にないのだ。

 上岡は両手を大きく広げる。

 しかし場所が裏路地故に、薄暗くあまり目立つことはない。

「さてさて夜来さん。あなたは見事に己の母の仇を討ち、己の望みを現実へ叶えることができました。さて、今の感想はどうでしょう?」

「仇なんざ討ったつもりはねぇ。俺は気に入らねぇからぶっ飛ばしただけだ」

「ほうほう。で、ご感想は?」

「最悪だね」

 吐き捨てるように告げた夜来。

 その素直っぷりに大笑いした上岡は指を一本立てて、

「まぁまぁそう言わずに。ところで、僕たちは一つの約束を交わしあった友であることに異論はありませんね? 約束、忘れたわけじゃないですよね?」

 その瞬間。

 上岡の被っていた笑顔かめんからは、恐ろしい邪悪なオーラが漂ったような気がした。あの笑っている両目から、うっすらと禍々しい何かが姿を見せたような、そんな気がするほどに。 

 その形相に。

 あの夜来初三が眉を潜めて警戒心を高めていた。

「で、夜来さん。お答えは? 一応再確認ということで、尋ねておきましょう」

「……嫌だと言ったら?」

「死なない程度にあなたを殺します。足の指を全部切り落として、爪をはがしてでも連れて行きます」

「拒否権なんざねぇじゃねぇかよ。いちいち聞くな」

 それもそうですね、と上岡は爽やかな笑顔をさらに明るくして返す。

 そこで、夜来初三は視線を移し変えた。その理由は、離れた場所でこちらを侮蔑するように睨みつけていた豹栄真介である。

 もともと夜来初三と豹栄真介は一度本気で殺し合ったことがある最悪の関係だ。原因は『神水挟旅館』へ夜来達が行った際に豹栄真介率いる『凶狼組織』が突然の襲撃をしかけてきたからだ。いや、あの日以前にも世ノ華雪花との関係上から二人には『本気でお互いを殺す』ような暗黙の常識が成り立っている。

 まさか、ここにきて『豹栄真介と手を組む』ことになるとは思わなかった。さすがの夜来も少々動揺が走っている。

 しかし。

 やはり二人は前回と同様にお互いを蔑むような視線を交差させながら、

「どのツラ下げて俺と顔合わせてやがんだ? シスコン野郎。いっそのことテメェだけぶっ壊しとくか?」

「テメェこそ、ンな熱い眼差し送ってくんじゃねえよ。今ここで殺してやろうか? 俺は一向に構わねえぞクソガキ」

 夜来初三と豹栄真介。

 この二人だけは、きっと二度と顔を合わせてはいけない仲だったろう。

 本当に今すぐ殺し合いそうな二人の間に割って入った上岡真は、笑顔の上から冷や汗を流している。さすがの彼でも夜来初三と豹栄真介の間に入り込むのには緊張するようだ。

 しかし。

 さすがに二人もここで暴れる気はないようで、舌打ちをして顔を逸らす。

「じゃあまぁ、よろしいですか? 夜来さん」

「何がだ」

「あなたの生活、今、十分幸せでしょう?」

 ピクリと、夜来の眉が動いた。

 その反応に満足そうに頷いた上岡は、続けて、

「昔と違って、今は大変幸せでしょう? ただ精神異常者の両親に虐待されて、弟を守りきることに徹底し、ずっと孤独で暴力を振るって振るわれてきた昔とは違って―――今の生活は幸せでしょう?」

 瞬間。

 上岡の襟首を掴み上げた夜来は、そのまま彼を壁に押し込んだ。ドゴン!! と衝撃音が鳴り響くが、上岡は笑顔を崩さない。夜来はさらにグイっと自分のもとへ彼を引き寄せて、ギラギラと両目を光らせて恐ろしくしてから、

「知ったような口を聞くな。あんま調子に乗られると、今ここでテメェの首をもぎ取ってやりたくなる。分かるか? 命ってなァちっぽけなんだよ。俺が今ここでテメェのを摘ンじまえるくらいにな」

 夜来は少々気味が悪い笑みを混ぜ込みながら、殺害衝動を押さえ込むように邪悪な声を出す。

「だからちったァ言葉を選んでくれよ。じゃねぇと、無駄に摘みたくなっちまうだろ?」

「それは勘弁願いたいですね。まぁでも、実際そうでしょ? 七色さんに拾われて、世ノ華さんや雪白さんとも出会い、鉈内さんという信頼できる相手もいて、呪いという関係上だけども常に理解者であるサタンさんもあなたの傍にずっといてくれる。いやいやーリア充してますよね。もう、なんていうか輝かしいですよね。眩しくって直視できないっす、みたいな」

「……何が言いてぇんだ、テメェ」


 

 

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