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一撃必殺は心をこめろ

 そんな彼は、元悪人らしく、ゲラゲラと爆笑しながら夜来初三の体を蹴り潰し続ける。蹴っている自分の足のほうが痛くなるほど、とにかく夜来の体を潰す。骨の折れる音らしき痛々しい響きや、攻撃側であるザクロ自身に感覚が伝わらなくなるほど足を打ち込んだ。

 気づけば血だまりがそこには出来上がっていた。

 夜来初三の口内はドロドロとした赤い液体で一杯だった。

 だが。

 それでも。

「く、っくっくッ……!!」

 気味の悪い笑い声と共に。

 脇腹に打ち込まれたザクロの足を、ガシィッ!! と夜来初三は鷲掴みした。

「っ、おま……!?」

 ギョッとしたザクロだったが、既に遅い。夜来はニタリと口元を歪めて、ギョロリと眼球だけを使って掴んでいるザクロの足を確認し、

「アひゃ」

 思い切り―――『爪を立てて肉を引きちぎった』のだ。

 もちろん、鮮血がその場にはビシャビシャとこぼれ落ちる。

「あっひゃははははははははははははははははははははははははははははははは!! たーまんねぇなぁ!! 爽快感ってなぁここまで爆笑できるモンだったのかよ!! ぎゃっはははははははははははははは!!」

 夜来初三の笑い声が響く。

 ブチブチと引きちぎれたザクロの右足の皮膚や肉。その肌色の布にはびったりとグロテスクな血肉がこびりついたままだ。

「ぐっツアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 思わず後退してうずくまるザクロ。

 ドクドクと溢れ出てくる血は実に悲惨だったが、思ったよりも傷は深くないはずだ。所詮は人間の爪が突き刺さって引きちぎられただけ。痛みは強烈だが、爪程度の長さでは大した怪我にはならない。

 そう判断したザクロはギロリと夜来を睨みつける。

 すると夜来はフラフラと立ち上がって、

「どうした? 楽しいだろ? お望みどおり盛り上げたやったんだぜ? もっと楽しそうな顔ォしろよコラ」

「ふざけやがって……!! 潰す……!! 貴様だけは絶対にぶっ潰す……!!」

 憤怒に顔を染め上げたザクロは痛む足を気にせずに駆け出す。

 対して、夜来はゆっくりと歩行を行い始めた。

 迫ってきたザクロは、地響きがするほど踏み込んで腕を後ろへ引いていた。すなわち、体重をかけたストーレトパンチが繰り出される予備動作である。ぎりり!! と、ザクロが握り締めた拳からは力を込めている証拠の音が発生した。

 絶叫が上がる。

 同時に、その一撃は夜来初三の鼻っ柱へ叩き込まれる。

 直撃する。肉を潰した轟音が鳴り響き、夜来はブリッジを描くように吹き飛びそうなる。しかし、グン!! と重力に引き戻されるように立ち直した彼は、仰天して呆然としているザクロに笑い、

「初三お兄さんからアドバイスだ、よーく聞いとけよぉクソ野郎」

 悪意に目の色を変えた夜来は。

 無慈悲に告げた。


 

「殺す一撃ってのを教えてやるよ」



 ズガン!! と、ザクロの襟首を片手で掴み、引き寄せたと同時に額を顔面に打ち付けてやった。その強力な頭突きに意識を朦朧とさせたザクロだったが―――夜来は襟首をしっかりとつかみ直して、もう一度額を鼻っ柱へ叩き込む。再び吹っ飛びそうになるザクロを引き寄せて、額を同じ場所へ送りつける。

 延々と繰り返される頭突きの連打。

 最後に、夜来は全体重をかけた頭突きをフィニッシュで叩き込んだ。

 今度こそ転がっていった顔面血まみれのザクロ。声にならない声で絶叫している姿に鼻を鳴らした夜来は、危ない足取りで近寄っていき、

「あー? 一撃じゃねぇとか文句抜かすなよー? 心がこもってりゃ何でもかんでも一撃なんだよ。一撃必殺とか吠えて結局はめちゃくちゃ武器振り回すヒーローとかいんだろ? それと同じだっつーの。結局心がこもった爽やかなモンは纏めて一撃って分類されんだよ、オーケー?」

「き、っさまァ……!!」

 痛む顔の半分を押さえながら立ち上がったザクロ。

 その様を見て挑発的な笑みを浮かべる夜来は口を開いた。

「七色のために七色を犠牲にしてでも七色の理想を叶える……ねぇ」

 ザクロなりの『恩返し』の仕方。それをふと呟いた。

 眉を潜めたザクロ。

「文句でも吐き捨てるのか?」

「あー違う違う。いやあ、なんつーか―――そういう悪もあるんだなぁってよ。純粋にテメェの頭の構造に興味を持っただけだ」

「舐めてるのか? 貴様も大概イカレタ悪たれだろう」

 冷静さを取り戻したのか、ザクロの口調が大人しくなる。

 すると夜来は馬鹿にするように人差し指をザクロに向けて、

「なんだよ、もう戻っちまったのか? ―――昔の自分テメェ自分テメェがムカついてどうするよ。もっと過去を肯定してやったらどーなんだ?」

「そのセリフ、こっちがそのまま返してやる」

「俺ァ生憎と俺が大っ嫌いでね。こりゃ他人向けアドバイスだ。俺を含むんじゃねぇよ面倒くせぇ」

 夜来は溜め息を吐いた。

 そして五本の指を広げた片手の関節をコキリと鳴らし、

「じゃあ―――そろそろ終いにしようぜ? 低血圧の俺にゃこの出血はちとまずい。本気でクラクラしてきたんだわ。マジで病院直行してぇんだよ」

「……ガキが調子に乗るな。病院ではなく葬式場に直行させてやる。呼ぶなら霊柩車にしておけ。救急車は役不足だ」

 もう一度。

 二人はヨロヨロとふらつきながらも―――迫っていく。

 己の内に宿る『感謝』故の悪を信じ、

 その拳を握りしめて。

「……」

 上岡真と豹栄真介。

 彼らは静かに夜来初三とザクロの激しい死闘を眺めていた。口を一切開くことなく、邪魔をせずにその光景を終始視界に収めていた。

 そして。

 ようやく、終わりの時が訪れたのだ。

 ガゴン!! と轟音が鳴り響く。

 二つの影が放った拳がお互いの顔へ直撃したのだ。双方共に渾身の一撃。純粋な殴り合いという激闘の最後に相応しい美しき激突だった。

 双方共にグラリとバランスを崩しそうになる。

 しかし。

 倒れたのは片方の影だけだ。

 その影は最後に、少年の胸へ体を崩した。完全に平衡感覚にまでダメージが浸透したのだろう。

 そして。

 少年の胸からズルズルと崩れ落ちる寸前に、



「強い、な……」



 認めたわけではないだろう。

 己の信念を曲げたわけでも、自分のやり方を改める決意をしたわけでもないだろう。

 きっと。

 その言葉は。

「……当たり前だ、クソったれ」 

 同じ『母』を持つ少年にしか分からない。

 故に。

 少年は倒れふして気絶した『悪人祓い』を見て、小さく息を吐く。



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