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殺す技術を扱うチャラ男

「がっ、ぐあああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 腹部からこぼれ落ちる己の血液に悲鳴を上げた伊吹連。そして苦痛に顔を歪めながらも、視線を上昇させてみる。そこには赤い液体―――伊吹の返り血を浴びて真っ赤に染まっている刀があった。

 さらに。

 その刀を握っている少年の顔には。

 無情な、感情を何一つ抱いていないような能面らしき表情が浮かんでいる。

(あり、えないだろ……!! 水たまりを使った目くらまし……!? ―――そうか!! だからコイツは殺傷能力の低い棒から、殺傷能力の高い刀に装備を変えて……)

「き、さま……!! 少々、やり方が『非情』なのではないのか……?」

「いい褒め言葉だね。僕も『こういうやり方』は好きじゃない。あのクソやくざと同じだし、武道を嗜んでるからこそ、『こういうやり方』は好きじゃないさ。けど―――『こういうやり方』を取らなきゃ勝てない。だったら、いくらでも気に食わないことなんざしてやるよ」

 再び走り迫ってきた鉈内。

 彼は伊吹との間合いを詰めると同時に、日本刀・夜刀を全力で振り回す。その動きには特に変化した様子はないのだが……。

「っくっそ……!!」

 伊吹は苦戦しているのか歯噛みしている。

 原因は―――鉈内翔縁の起こした変化だ。 

 しかし見た目では些細な変化は見られない。前回と同様に、夜刀を素早い動きで振るい、突き、扱っているだけだ。

 が。

 その『攻撃する場所』に急変があったのだ。

(コイツ、わざと『急所』ばかりを狙ってきてやがる……!!)

 夜刀の刀身が飛び向かうポイントは、頭部、心臓部、腹部、喉元ばかり。腕や足などの攻撃が当たっても大した結果を生まない場所には目も向けていなかった。

 よって、先ほどつけられた腹部の傷のダメージも加算している伊吹は、すらすらと刀の猛攻を回避できるわけがない。一瞬でも回避を誤った場合―――死へ直結するからだ。

 故に現在進行形で苦戦中。

 とにかく『かわす』ことへ意識を集中させていた。

「っ!?」

 しかし。

 そこで鉈内の握っている夜刀が突然―――姿を消した。いや、正確には鉈内が夜刀を『落とした』のだ。スローモーションのように手放された夜刀は、次第に鉈内の膝あたりの高さまでに到達し―――


 ガン!! と、鉈内がその落下中の夜刀の柄を『蹴り飛ばした』ことで音が響き渡る。


 柄の先端。中心部分。そのポイントを正確に靴のつま先が押し込むように放たれて、刀はサッカーボールのように……いや、弓で放たれた矢のごとく飛んでいき、

「っっが!?」

 ガシュッ!! 伊吹の右太ももへ突き刺さった。

 まさかの事態。刀を落としたフリをして、蹴っ飛ばすことで飛び道具として扱うなど、武道家が考えるようなことではない。第一に、それを実現するほどの身体能力が備わっていなければ失敗に終わり、反撃をくらって即死だったはずだ。

 しかし。

 鉈内翔縁はそれを『実現』してみせた。

(て、徹底してる、のか……!? 俺を『殺す』ことに!! いや、しかしこの程度ならば問題はない。足の一つが使えなくとも、まだ反撃のチャンスはある!!)

 歯を食い縛ることで激痛に耐えた伊吹は、即座に妖力を纏った拳を振るおうとした。だがそれよりも早く鉈内が伊吹の懐へ踏み込んで急接近する。

 目と鼻の先に迫ってきた鉈内の顔。

 無表情な顔。

 鳥肌が立つほどに冷たい目だった。それでも伊吹は反撃をプレゼントしてやろうと行動を起こそうとしたが、そこで気づく。

(待て……!! コイツは先ほど刀を蹴って手ぶらになっているはず。なのに、『武器なんて持っていない』のに、なぜこんなにも俺に接近してる……?)

 思案したのも束の間。

 その疑問はすぐに解ける。

 ふと視線を落としてみれば、そこには鉈内の素手があった。当然、素手程度では伊吹に傷一つつけられない。殴り合おうと計画しているのならば、彼は本物の馬鹿だ。

 しかし。

 その手に『対怪物用戦闘術』で扱う『御札』が握られていたらどうだろうか?

「―――っ」

 喉が干上がった時には既に遅い。

 鉈内は伊吹とほぼ『ゼロ距離』の場所に御札を握った手を密着させて、


「『武器変換―――銀刀』」


 瞬間。

 御札は赤く発光する。

 結果、ほぼ『ゼロ距離』から飛び出た銀色の刀に伊吹の体は貫かれた。

 武器を出して戦うのではなく、至近距離で武器を出すことで攻撃を加える戦い方。武器が出現するまでは目に見えた刃物など持っていない故に、誰だって油断するこの作戦。

 鉈内翔縁。

 彼は敵の体を銀色の刀が貫通した後にでさえ、無情な仮面をかぶっていた。


 御札をゼロ距離・・・チャラ男は機転が早いですね

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