結局は
二人の子供たちは歩むベクトルを間違えたのかもしれない。感謝している故に恩返しをする行為という一種の『道』を踏み外したのかもしれない。
どっちもどっちだ。
双方共に―――クズだ。
が、そこで。
「素晴らしいですねー」
パチパチパチと盛大に拍手をする音が鳴り響いた。目を向けてみれば、そこには上岡がニコニコ笑顔を張り付かせたまま手を叩いている。
「いやいや素晴らしい。どちらも親孝行一直線で真に素晴らしい。やはり人間は、腹を割って話し合うということは大切ですよね」
「……上岡、貴様、何を企んでいる……?」
「はいー?」
「私をこのまま逃す気などサラサラありはしないのだろう。だというのに、いつまでそこで突っ立っている」
ザクロの威圧的な言葉に屈しない上岡は、楽しそうに笑い声を上げて、
「こっちとしてもそうしたいのは山々なんですけどねー? ―――今回、あなたをどうするかは夜来さんに全てを任せています。今ここで殺すも、拷問していろんなことゲロさせるのも、全部全部夜来さん次第なんですよ。ま、約束しちゃったし仕方ないですよね。約束破ったりしたら、それこそ僕たちも夜来さんに襲われちゃうかもだし」
上岡は視線を夜来に向け変えて、
告げる。
「どうしますよ夜来さん? 僕的には、ちゃちゃっと髪の毛でも引きちぎりながら拷問していろいろゲロったら、指でも落として殺したほうが手っ取り早くて楽なんですけどねー」
そのあまりにも冷酷な言葉には、誰一人反応しなかった。この場に雪白千蘭や世ノ華雪花や鉈内翔縁あたりが居たのならば、その残酷な提案に『ふざけるな』の一言は上げていたかもしれない。
しかし。
この場にいるのは。
上岡真、豹栄真介、ザクロ、夜来初三。
どいつもこいつも腹の中じゃドス黒い思考を兼ね備えている輩ばかりだった。
故に上岡の残酷な言葉には誰も反応を見せない。豹栄真介はその案に賛成で、ザクロも最悪そうなるとは考慮していて、夜来初三も一理あるなと『当然』の如く受け入れていたからだ。
何ともまぁ、歪んだ奴らばかりなのだろう。
しかし。
夜来は口を開いて、
「いや、コイツは『生かす』ことにした」
「っ……!? 貴様、正気か……!?」
誰よりも仰天しているザクロ。
対し、夜来は面倒くさそうに続けて、
「俺ァ今の今まで頭に血が上ってて正常な判断能力なくしてた。だがさっきの話し合いで、ようやく『七色を刺した理由』ってのが解明したからな、こっちも頭ァスッキリしたんだよ。だから改めて言ってやる。聞け」
瞬間。
夜来初三は引き裂くように笑みを作って、
「あのガキに土下座してから死ね。あのガキに頭下げて、地面にこすりつけるほど下げて、ごめんなさいごめんなさいって泣き喚きながらバカみてぇに謝ったあとに―――殺してやるよ」
その通りかもしれない。
ここでザクロを殺したのならば、夜来初三は納得できないのだ。ここで殺してしまったら、夜来初三は満足できないのだ。―――『七色夕那にきちんと「謝罪」させてから』でないと、気が済まないのが彼の心境なのだ。
しかし。
残念ながら、ザクロは『夜来初三』とは違った恩の返し方を信じているため、
「ふざけるな……!!」
顔面を歪めながら、叫ぶ。
「ふざけるな!! 七色さんを傷つけている貴様からの命令に、はいそうですねご主人様とでも言って従えと!? 馬鹿にしているのかお前は!!」
「だから言ってんだろ? そりゃお前も一緒だ」
「っ……!!」
反論ができなくなったのか、ザクロは押し黙る。
しかし彼は自分のやり方を貫き通そうとしている意思の炎が瞳で燃え上がっていた。
折れる気はないらしい。
その様子に溜め息を吐いた夜来は、
「分かった分かった大いに分かりましたよー。テメェが俺と交差することはなさそうだ。平行線のままお互いに突き進んでくらしい」
「だったらなんだ……?」
「なァーに、簡単で単純で安易な話だよ。交わることはねぇ。どっちも自分のやり方を貫き通す。だったら―――あとは『それぞれの道』を突き進んでいけばいいだけの話だろ?」
つまり。
結局のところ。
「決着つけようぜ? 俺は『呪い』抜き。テメェは『悪魔祓い』抜きでよ」
最終的に戦い続けるしかなかったのだ。
ザクロはその案に歯切りしを立てて、
「いいだろう。私もお前も力なんぞ使えん。―――その気に食わない顔を粉々にぶっ殺してやる……!!」
「はん。威勢のいいクソだ。やってみろよ。―――前歯へし折って鼻ァ削り潰してやるよボケ」
憤怒の色に顔面を染め上げたザクロ。
自分自身も含めて嘲笑った夜来初三。
二人は。
己の信念に従い―――絶叫を上げてぶつかりあった。