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「……意味がわからねぇぞ、クソ野郎」

「はっ。まぁそうだろう。では前提を成り立たせようか」

 気軽な調子でザクロは続ける。

 うっすらと笑いながら、口を動かす。

「夜来初三。貴様はこの世がどれだけ腐っているか考えたことはあるか? 犯罪だの暴虐だの戦争だのと、くだらんことで大暴れする悪人どもがいる」

「……」

「そして、その悪人という中には、私たち『悪人祓い』が対処する『怪物に憑依された悪人』という存在がいる。人を憎む、人を騙す、人を殺す、人を傷つける、そんな輩が怪物の力を手にしたならば、当然世界はあっという間に終わる。分かるか? 怪物の力を手にした悪人が、野放しにされているとどれだけの被害者が続出するか。―――もちろん、中には怪物の超人的な力を悪用せずに生きる者もいるだろう。しかしそんな悪人もどきはごく少数だ。基本的に皆―――クソ野郎ばかりだよ。あきあきするほどにな」

 実際にそういう輩から怪物を払ってきたのか、ザクロは溜め息をこぼして言った。しかし悔やむように歯を食いしばって、彼は懐かしさがこもった声で告げる。

「でもな。そんな奴らにも手を差し伸べる存在を私は知っている。どれだけ異形な化物へ変わろうと、どれだけ悪に染まっていようと―――ずっとずっと『笑顔』で助け出してくれる『あの人』を私は知っている」

 ザクロは『あの人』の―――呪いに侵食された自分を助けてくれたときの『あの人』の眩しい笑顔を思い出して、震える声で言った。

 対し、夜来は静かに耳を傾けていた。

「そんな『あの人』はさ、私を救ってくれたんだ。家族という存在からも見放された私を、『あの人』は引き取ってくれて、育ててくれて、笑顔を見せてくれたんだ。―――そうして生活していくなかで、私は自分が『幸せ』を感じていることに気づいた。『あの人』が笑ってくれると、胸が暖かくなる……!! 『あの人』が笑顔を浮かべると、私までつられて笑ってしまう。『あの人』が微笑むと―――つい泣きそうになってしまう……!! あのとき見せてくれた『笑顔』だけで私は満腹なんだよ……!! もう何も望むことなんてなかったんだよ!!」

「……」

「だが、あるとき気づいた……!! そんな日々を過ごしてく中で……『あの人』の幸せを祈ることに幸せを感じていた日々の中で―――気づいたんだ。……唯一、『あの人』が『悲しみ』の顔を浮かべていたときのことを……。唯一、痛々しい顔をみせる瞬間を……!!」

 しばしの間をおいてから。

 ザクロは力を込めて吐き捨てるように言う。

「『あの人』は……七色さんは……!! 呪いに苦しんでいる悪人を見るたびに、毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度……!! まいど!!!! ―――一瞬だけ、些細な瞬間、隠すように、胸をえぐられたような痛々しい顔をしていたんだ!!!!」

 叫んだザクロの両目から。

 静かに。

 ゆっくりと。



 一筋の涙が頬を伝っていった。

 


 それでも止まらない。

 ずっとずっと、近くで見続けてきた七色夕那の『悲しい』顔がフラッシュバックするのか、絶対にその勢いが削がれることはない。

「分かるか!? 七色さんは誰よりも、何よりも―――『悪人祓い』なんて仕事をしくなかったんだよ!! 呪いに苦しんで、怪物に変わってく悪人を見るのが嫌だったんだ!! 悲しかったんだ!! つらかったんだ!! 苦しかったんだ!! 『悪人祓い』として仕事をするたびに―――その悪人を思うたびに痛かったんだよ!! でもあの人は『悪人祓い』として悪人を救い続けた!! なぜだか分かるか!? 分からない!! 悪人である貴様には絶対に分からない!! ―――七色さんと『敵対』している『悪人』である貴様には絶対に分からない!! 分かるはずがない!!!!  あの人は尚更見過ごせなかったんだ!! 悪人なんて『道を踏み外した者』を見るだけで心が痛んだはずだ!! だから助けたいんだよ!! 七色さんはだから助けたいんだよ!! ―――だからこそ!! だからこそ!!」

 興奮しているのか、ザクロは息を荒げながらも。

 続きを叫ぶように言い放つ。



「だからこそ、私は『エンジェル』と共に『世界を変える』んだ!! 変えてみせる!! 誰も傷つかない、二度と七色さんが『望まない』、悪人なんて可哀想な人間が生まれないよう、私は世界を変える!! 七色さんが『望む』誰もが笑って暮らせる世界へ世界を塗りつぶす!!」


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