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増援

 轟音が炸裂した。

 同時に赤黒い『妖力』という力が放出される。速度も威力も動体視力というものでは確認不可能な一撃だ。故にただの人間である鉈内翔縁には―――回避のしようがなかった。

 死ぬ。

 己の身に突き進んできた赤い閃光を前に、鉈内はそう無意識に考えていた。

 しかし。

 そこで。



「やっぱチャラ男ってのは情けねェなぁオイ」


 

 ガッキイイイイイイイイイイイイイン!! という爆音と共に、鉈内を消し炭にしようとしてた妖力があらぬ方向へカクンと軌道を変えた。

 いや、逸らされた。

 直径三メートルは超える黒い金棒を握った鬼の手によって、殴り飛ばされたのだ。

 鉈内の視界に入ったのは金色の髪。

 小柄な背中。

 角の生えた額。

 手に持っている金棒。

 ガラの悪い、乙女らしさがゼロな口調。

 つまり―――

「世ノ、華……!?」

「そうだよ。皆のアイドル世ノ華ちゃンだよ。文句あンのか? あ?」

 目の前に立つ世ノ華雪花に驚愕の声を漏らした鉈内。

 対して、彼女は鉈内を構うことなく鼻で笑って視線を変える。

 敵へ、変える。

「で? オマエが私の手で粗挽きソーセージに加工される可哀想な奴ってわけ?」

「その口調……それに角……世ノ華雪花か」

「何かご不満が? 美少女ヒーロー世ノ華ちゃんに不満でもあるってのか?」

「いや、増援が出てくるとは思わなかったから仰天しただけだ」

 伊吹は言うほど表情に変化はない。

 首を曲げて関節をコキリと鳴らした世ノ華は、金棒の先を伊吹に突き立てて、

「で? 遺言はそれだけで満足か?」

「……挑戦的な女だ」

 と、吐き捨てるように呟いた伊吹の背後から。

 温度が爆発的に急上昇した。

 そして美しい声が響く。



「言っておくが、私はあのスケバンのように挑戦的じゃない」



 驚いた伊吹は瞬時に振り向く。

 そこには―――炎を纏った一人の少女が手をかざしてきていた。瞬間、その手からは紅蓮の炎が勢いよく放出される。直撃をなんとか回避した伊吹は、新たに出てきた二人の少女から距離を取った。

「雪白千蘭……お前もか」

「吐き気がするからやめろ。私は初三以外に名前を呼ばれると基本的に嫌悪感しか抱かないんだ。鉈内までがギリギリセーフゾーンだ」

 世ノ華は笑いながら雪白の傍に近づき、

「なによ。結局兄様にラブラブなのは変わらないみたいじゃない」

「……黙れ」

 二人並んだ少女から発せられる雰囲気に伊吹は一歩後ずさる。

 まさか、ここで怪物の力を扱う人間が二人も出現してくるとは予想外だった。自分の立場がまずい位置に変わったことに生唾を飲み込む。

「面倒な事態になったな……」

「あらあらまぁまぁ。美少女二人も相手にできるのよ? 両手に花じゃない? もっと泣いて喜んで笑いなさいよ」

「相手にするのにも意味が違う。俺はそもそも仕事中に私欲をはさまない人間だ」

「仕事熱心で関心ね」

 馬鹿にするようにクスクスと笑う世ノ華。

 彼女の隣にいた雪白は溜め息を吐いてから、背後で呆然としている鉈内に振り向き、

 小さく笑った。

「安心しろ。手はもう出さない。―――これは『お前一人』でやりたいことなんだろう?」

 鉈内はピクリと眉を動かした。

 すると世ノ華が振り向くことなく、続ける。

「邪魔して悪かったわね。でも、さっきのはしょうがないでしょ? あんただって、死んだら『七色さん傷つけたクソ野郎』に復讐できないじゃない」

 そこで鉈内は理解した。

 彼女たちが、なぜ『手を出さない』で助けに来たのかを。今回の戦いの目的は『七色夕那』を刺した連中に対する夜来初三と鉈内翔縁の『怒り』だ。つまりここで世ノ華達が鉈内と『共闘』してしまった場合―――鉈内の怒りが静まることは決してない。

 彼は一人で七色夕那を傷つけたゴミの処分をする。

 鉈内翔縁が『一人』で戦うことに意味があるのだ。

 故に。

 もう邪魔などしない。

 ここで共に戦うことは、鉈内を苦しめることになる。故に共に戦わないことで共に戦おう。彼のために手を貸さず、そうして手を貸してやろう。

 手伝わないことが手伝いなのだ。

 彼女たちの気配りに苦笑した鉈内。

 彼は静かに歩き出す。世ノ華と雪白の間を通り越し、伊吹というゴミ野郎の近くまで歩行していく。握っていた天棒を―――投げ捨てる。そして新しく御札を取り出し、使い慣れている漆黒の日本刀・夜刀へ変化させて右手で握り締めた。

 そして。

 世ノ華雪花と雪白千蘭の『助けないという助け』をありがたく胸にしまいこんで、

「さてと。んじゃあ」

 改めて仕切り直すように、夜刀の先を伊吹連に突きつけて、言う。

「仲間の意思を背負って戦うぜ的なヒーローっぽい感じになったし―――かっこよく決着つけよっか、ゴミ野郎」  

 おそらく。

 自分のために二人の息子が死闘を繰り広げていると知ったならば、七色夕那は喜ぶことはないだろう。きっと悲しむだろう。おそらく激怒するだろう。

 復讐は間違っている。

 だが。

 だがしかし。

 


 夜来初三も鉈内翔縁も七色夕那のために『復讐』などしていないのだ。



 単純に。

 気に食わないだけ。

 どうしても、許せないだけ。

 つまり。

 彼らは仇討ちだの復讐だのという考えで行動しているのではなく―――己の怒りを発散しにきただけなのである。

 見方によっては復讐なのだろうが。

 本質はただの怒りによる『殴り込み』だ。 



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