許さない
夜来初三は視界に入っている己の長い前髪で気づく。
それは銀色へと変色していた。つまり豹栄真介との一戦でも見せた完全に近い『サタン化』状態というわけだ。
しかし彼は、だからなんだ? と軽い調子で返答を返す。
するとザクロは、
「怪物が、一時的に憑依体の体を奪うことは、ある……!! だが、それは『存在が消える』わけでは、ない……ただ単純に、怪物が無理やり憑依体の人格に横入りするようなものだ……!! つまり危険性はない……!」
それはきっと、雪白千蘭の体を清姫が乗っ取ったことや、正体不明の化物に侵食された夜来を守るためにサタンが夜来初三の体の支配権を握ったときに適用されることだろう。
しかし。
「だがなぁ……!! 『呪いに侵食された』ならば話は別だ……!! つまり存在は完璧に『消える』!! 貴様という存在は全てがなくなるんだ!! それ承知の上で、あそこまで呪いの力を使ったのか? だとしても構わんが、『物量で押しつぶす』だと? 笑わせるな。―――あれだけの魔力を一気に使用したんだ……あと少し魔力を使ったら、貴様、『消える』ぞ? 呪いにかき消されるぞ?」
「……」
「現状は私もお前も『最悪』の状況というわけだ。そこのところを理解して、貴様はなおもたたか―――」
「黙れよ」
その遮るような一言は実に無情だった。
サタンの魔眼へと化している夜来は、その白目が黒く変色している中で不気味に光る赤い瞳を見開き、
「どォでもイイんだよそんな事ォ……!!」
グギギギギギギギギギギギギギギ!! と、床へ押し付けていたザクロの顔面をさらに埋め込むように力を加える。同時に、すり潰すようにスライスしたり雑巾で汚れを拭くように動かしてやったため、ザクロの顔とキスしている床には―――ビシャビシャと血が散布された。
「あっがっがあああああああああああああああああああああああああああ!!??」
絶叫が響いている。
激痛に悶え苦しんでいるザクロの声だ。
しかし夜来は構わない。とにかく許せない。七色夕那を刺したコイツだけは、どんな理由があろうとも情けなんてかけられない。
絶対に殺す。
絶対にぶっ殺す。
絶対にこの手で昇天させないと―――気が済まない。
「俺の母親に手ェ出しといて呑気に呼吸できるとか思ってんじゃねぇよ……!! あのガキに、あの人に傷つけといて―――テメェはゆうゆうと生きるってのか? あ? ンなクソったれな結果になるようなら俺が全部全部ぶっ殺してやる……!! テメェの全部を殺して殺して殺してやるよぉオイ……!!」
「あっが……っつ……っくが……!?」
「本当に気に食わねぇ面ァしてやがる。あ? そうだいい機会だ。いっそのこと―――」
夜来はザクロの後頭部をより一層握り締めて、
ズガン!! と顔面をまた床へ叩き込む。
そして。
歯切りしをした後に、笑って一言。
「―――ここで顔面整形してやんよォ」
夜来初三は。
絶対に己の母を傷つけたクソ野郎を許さない。