耐性
バシベキバキシビメキ!! と、ザクロが踏みしめている床に亀裂が走っていった。床は大部分が崩壊する。結果、足場が奈落のそこへと落ちてしまったザクロは飛び下がって撤退する。
しかし。
それは狙い通りだったようで。
「っ!?」
ありえないほどの魔力がザクロの体へ襲いかかってきた。黒一色に世界が染め上がったと錯覚するほどのサイズ。明らかに街一つは飲み込むほどだった。
瞬時に長剣を使って受け止める。
しかし。
「がっ、おおオオおおおおおオオオあああああああああああああ!??」
サタンの魔力を無効化する長剣であったが―――『あまりにも魔力の量が膨大すぎて』押しつぶされそうになる。足場へ体重をかけて、床に靴の下をめりこませる。結果、ズザザザザザザザ!! とスリ削られような音が響いた。おそらく、靴底が床に削られているせいだろう。
(クソ……!! ダメだ!! これじゃ飲まれる!!)
防御は不可能。
このまま長剣を使って受け止め続ければ、間違いなくあの世行きだ。
タイミングを計って転がるように緊急回避したザクロは、汚い床へ軽く体を打ち付ける。しかし『それだけ』の怪我で済んだのだから良しとするしかない。
が、しかし。
「っ」
そこで視界が真っ暗に変わった。
さらに背後から。
「だァーれだ?」
尋ねられる前に答えなど浮上する。
その気味が悪い声、その異質な雰囲気、目の上に被せられられた恐ろしいほどの冷たい手だけで、ザクロの背中からは勢いよく脂汗が吹き出てきた。
さらに。
その瞬間。
「正解はァ、腐れ悪党の夜来初三くんでしたぁ」
氷に亀裂が入るような音が炸裂した。ザクロの後頭部が凄まじい力で握り締められたのだ。その握力の強さは、もはや握力計では測りきれない。頭蓋骨をも砕く力によって、頭からはミシミシミシミシミシミシミシ!!! という骨が変形するような音が響く。
しかし、手加減しているのか。
それとも、宣言通り痛ぶっているのか。
その激痛は絶え間なく続く。
「っがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!」
当然、ザクロは握っていた長剣を無意識に手放して悶え苦しんでいた。
頭がトマトを潰すように弾けそうだ。
いっそのこと、死んだほうがマシなほどの痛み。
「痛いでちゅかー? 痛くて痛くて泣いちゃいそうでちゅかー?」
夜来は眼球をグラグラと揺らして悲鳴を上げるザクロの耳元でそう言った。
そして悲鳴を耳にしていると、いきなりニタリと笑って、
「おいおい止めろよ本当ヤメロッて。そんな鳴き声聞かされっと―――サディスト的なアレが爆発しちまうじゃねーかよ!!」
ズガン!! と轟音が鳴り響いた。
原因は、ザクロの顔面を後頭部を鷲掴みしたまま床へ叩きつけてやったからだ。
「つーかよ、こっちもいい加減耐性っつーか学習能力が働くもんなんだよバーカ」
「っがっつ……あ……!?!」
苦痛の声を漏らすザクロ。
それを一瞥し、夜来はその辺で転がっている『悪魔祓い』の長剣へ視線を移し、
「『悪魔祓い』専用の、対悪魔用の武器だとかご大層に吠えてたよなァワンコロ。そこで転がってる刀が俺の力ァ無効化するのは素晴らしことなんだろうが―――『物量で押しつぶせばいい』だけの話なんだよボケ」
物量。
すなわち、『無効化しても無効化しても絶えることのないほどの大量の魔力』をぶつけてやれば、必然的に『悪魔祓い』専用の長剣という厄介な代物を弾くことが可能なのだ。
例えば。
ロウソクの火は水がかかってしまえば一瞬で消える。
しかし、『大火災などの膨大な火に対しては、水をどれだけかけてやっても消化できない』ことと同じだ。つまり物量。ただそれだけで立場はコロリと逆転する。
だが。
それほどまでの『膨大な魔力』を使えば、当然ながら夜来初三は―――
「ばか、か、貴様は……!!」
「あ?」
「―――それほどの魔力を扱えば、すぐに呪いに存在を奪われていくぞ……!!」