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なぜそこまで

 ザクロの全身は小刻みに上下していた。息も荒くなり、呼吸を忘れる勢いで冷や汗をかいている。

 つまり。

 圧倒的な恐怖に体を侵食されていたのだ。

「な、ぜ、そこ……まで……!?」

 ありえない。

 夜来初三は前回の一戦と同じレベルの大怪我を負っている。体のあちこちを肉ごと切り裂かれ、鋭利な先端がぎらつく長剣で突き刺され、頭部からだって血がドクドクと流れ落ちていた。

 顔は血まみれだ。

 もはや肌色の部分の八割を血が染め尽くしている。

 しかし。

 そんな状態の顔には―――『笑顔』が張り付いていたのだ。この世のものとは認識不可能な異質な笑み。ギラギラと血に塗れた顔から光る瞳。

 つまりザクロはそれら全てに恐怖していた。

 ここまでボロボロになってまで笑っていられる神経が―――毛ほども理解できなかったのだ。

 故に。

 ありえない、と心中でつぶやく。

「何を……した……?」

 そこで。

 夜来初三の口から言葉が響いた。

 再び聞こえる。

「何を、した……?」

「っ、何を言っている、貴様」

 その声音には背筋が凍った。

 それでも言い返したザクロに対して。

「何をした?」

 はっきりと、今度こそ尋ねた夜来。

 瞬間。―――夜来初三の笑顔が瞬間的に『怒り』へ染め変えられる。

 絶叫する。 

 化物の咆哮を上げる。



「オレの『母親』に何をしたあああアアアアアああアアアあアああアアアアアあアああああああアアアアアああアアアアアアアアああアアアあアアああああアアあああああアアアアア!!!!!」



 床をぶち壊す勢いで飛び出た夜来初三。もはや『サタンの呪い』が全身にまで侵食しているのか、『サタンの皮膚』を表した紋様は体全てを包み込んでいた。瞳は赤く、白目は真っ黒。サタンという存在に近づいている証拠だ。

 髪は未だに黒髪のままだが、いずれは銀色へと変色するだろう。

 そうして『サタンの呪い』を引き出し、ザクロを殺そうとするだろう。

 己の存在をサタンという存在にかき消されるリスクを承知の上で―――サタンの力をふるいに振るうのだろう。

 なぜなら。

 それほどまでに。

 七色夕那という自分の母を傷つけた目の前のクソ野郎が許せなかったから。

「っ!?」

 目と鼻の先にまで迫ってきた夜来が放ったのは―――五本の指を広げられた右手。

 飛んできたそれは『絶対破壊』という視覚では認識できないサタンの魔力を薄く貼られている。故にザクロの顔面を壊すことに特化した攻撃だったろう。命を刈り取ることに専念した一撃だったろう。

 全てを破壊する右手。

 指先一つで対象物の何もかもを自由自在に破壊することができる悪魔の力。

 悪魔の神様の力。

 そんな核爆弾よりも恐ろしい手に対して、ザクロは瞬時に長剣を使って受け止める。

 ビュシュウウウウウウウウウウウウウ!!! と、当然ながら夜来の右手は長剣の刃で肉を削がれて鮮血を噴射する。しかし赤く染まった右手は―――ガシッ!! と長剣の刀身そのものをつかみ握った。

 結果、またもや血が飛び出す。

 つーっと、握られている刀身の場所から下までに血の一本筋が出来上がっていく。

「っ!? 馬鹿な……!! なぜそこまで……!!」

 唯一握っていた武器を拘束されたことに危機感を感じ、ザクロは一時後退する。

 すると。

 夜来初三は長剣を放り捨てて、

「あのガキに……あの人に……オレの母親に……何をしたっつってんだよ」

 脱力するように腕をダラリと下げて歩いてくる夜来初三は禍々しいオーラを纏っていた。もはや並大抵の者ならばその殺気一つで下着をびしゃびしゃに濡らすほどだ。

 ザクロは御札を取り出して『悪魔祓い』専用の長剣を再び生産する。

 しかし夜来初三は動じない。

 ただ、ふらふらと歩行を続けている。

「俺の親だぞ……? テメェ―――」

 顔を上げた夜来は。

 異質な声を上げた。



「―――手ェ出した親のガキがこの俺だってこと理解した上でやったんだよなァ……?」 


 




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