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慣れないこと

「『絶対拘束―――神縄』」

 鉈内が放り投げた一枚の御札。

 瞬間、それは赤く発光した後に閃光を巻き起こす。すると光り輝く無数の縄が出現し、一本一本に意思があるかのうように伊吹の体へ迫っていった。

 速度は神速。

 怪物を拘束するための『対怪物用戦闘術』の一種だからだ。

「慣れないことはしないほうがいいのではないのか?」

 しかし伊吹は落ち着いた様子でそう言って―――向かってきていた縄の大群を妖力を放って消し飛ばす。

 赤黒い閃光。

 一閃の一撃。

 妖力という『九尾の呪い』の力を借りて、手から放たれた攻撃の威力は絶大だった。一瞬で鉈内の『対怪物用戦闘術』を蹴散らし、些細な残りカスすらもを飲み込む。

 圧倒的な力だ。

 しかしその理由は、伊吹の宿している九尾の狐が最強だとか無敵だとか……ではなく、実に単純なことが原因だ。

 それはもちろん―――

「もう一度いう。慣れないことはしないほうがいいのではないか?」

 鉈内の『対怪物用戦闘術』のレベルが低かったからだ。

 彼は詠唱や『対怪物用戦闘術』の扱いが極度に苦手故に、先ほどの術に関してもレベルが圧倒的に低かったのだ。七色夕那や速水玲と比べれば、笑ってしまうくらいの実力不足だろう。

 そのことを『慣れていないこと』と表現したのか、伊吹は冷たい目を向けてくる。

 対して、鉈内は小さく息を吐き、

「安心しなよ。こっちだって自覚してる。―――ただのユーモアだよボケが」

 今度こそ、鉈内は自分の実力を発揮するために日本刀・夜刀を構えて走り出した。踏み込んだ鉈内は夜刀を真上から振り下ろした直後に振り上げる。あらゆる角度から飛んでくる刃をかわしながら、伊吹は尋ねるように言った。

「これが全力か。少々失望したぞ」

「っ、カッコよく覚醒すっから安心しろよカスが……!!」

 瞬間。

 鉈内の攻撃速度と足さばきが爆発的に上昇した。

 伊吹が後ろへ下がれば磁石同士くっつくように一瞬で接近し、逆に間合いを詰めてくれば後退するのではなく背後へ回って刀を振るう。時には振り回すのではなく突き刺し、蹴りや拳も混ぜ込んで打撃と斬撃のオンパレード料理をご馳走してやった。

「っ!!」

 ブン!! と横凪に振るわれた夜刀。

 結果、回避しきれなかった伊吹の頬には一筋の血のラインが出来上がった。

「いいだろう」

 伊吹は感心するようにつぶやき。

 再び迫ってきた刀に対して、妖力を纏った腕を盾替わりにして受け止める。鼓膜を吹き飛ばすような衝撃音が鳴り響き、双方は至近距離でにらみ合った

 その後も衝撃音は続々と発生する。

 鉈内が夜刀を振り下ろせば息吹は腕で受け止めて、鉈内が刀の先を突き刺せば息吹は妖力を纏った手を使って弾いてくる。どちらも呼吸をしているのかどうか疑うほど息を荒げることがない。ただひたすらに刀と妖力をぶつけ合っているだけだ。

 と、そこで事態は一変する。

「―――っあが!?!?」

 鉈内の額に重たい衝撃が走った。

 頭蓋骨そのものを揺らされたような感覚。脳震盪を起こさなかったことが奇跡と評価できるほどの威力だった。吹っ飛んだ鉈内はグラグラと揺れる感覚に襲われながらも、平衡感覚を取り戻すように頭を振って立ち上がる。

 早すぎて見えなかった攻撃。

 右腕を振った後のような格好の伊吹からして、おそらく殴られたのだろうとは理解できた。

「てっめ……!! マジ痛いんですけど……? つーか親から言われなかった? 喧嘩しても頭は殴っちゃダメですよー的なこと」

「すまないが、親はとうに死んだ」

「お、ならベストタイミングじゃねー? ―――ママとパパがキャッキャウフフして追いかけっこしてる楽園まで連れてってやるよゴミクズが」

 駆け出した鉈内は夜刀を投げ捨てた。

 武器を手放した彼は、即座にポケットから御札を取り出して呪文を唱える。

「『武器変換―――天棒』」

 

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