ヤクザは果実をチャラ男は狐を
ポタポタと夜刀を握りすぎることで生まれた血の雫。
それは静かに水たまりへ落下し―――飛び出す合図にもなった。
「っ!」
突っ込んできた鉈内に対して、ザクロは一瞬どう動くか迷ってしまう。もしも彼の攻撃を回避しならば、その隙を狙って夜来初三が突っ込んでくる可能性がある。しかし素直に鉈内と斬り合っても、夜来初三という強大な存在に手が回らなくなる。
どちらを選ぼうとも。
このままでは―――殺される。
だが、ザクロがそう思案していた瞬間、
「っがっ!?」
鉈内の顔を横から割り込んだ片手が鷲掴みし、そのまま押し飛ばすように投げ飛ばす。何回かバウンドした鉈内はゴロゴロと転がりながらも、立ち上がってギロリと邪魔をしたクソ野郎を睨みつけた。
「空気読まないね、君……誰なわけ? KYって言葉知ってる?」
その問いに対する答えをザクロは呟く。
「伊吹……お前、なぜここに」
鉈内を吹っ飛ばした男、伊吹連は少しばかりお辞儀をし、
「申し訳ありません。ただ、なにやら派手な破壊音がこちらから聞こえましたので……さすがに怪しく思い。ご迷惑だったでしょうか?」
「いや、助かった。私一人では、少々荷が重い相手だ。お前は―――」
ザクロは鉈内をチラリと見て。
短い息を吐いた後。
「―――鉈内翔縁をやれ。手加減はするな。仮にも、あの男は私と同じ『悪人祓い』だ」
「了解しました」
伊吹はコクリと頷き、ザクロのもとから離れて鉈内の傍へ近寄っていく。
その後ろ姿を一瞥したザクロは―――残った敵に薄く笑う。
「私がお前を相手してやる。どうせ復讐にでもきたのだろう? ならば私がお前と相手をしなくてはこの場は収まらん。勝敗の結果はおいておいてな」
「……」
夜来初三。
彼は前回とは違って、狂犬そのものと化して襲いかかってくることはしなかった。おそらく、七色夕那の怪我をある程度は軽減させると同時に、病院という医療機関のもとへ預けているから安心感が芽生えているのだろう。
故に冷静さは取り戻している。
よって、夜来初三はいつもの彼らしく冷静な判断を下した。
「……なぁ」
「なんだ急に。わた―――」
「場所を変えようぜ? ここじゃあ―――盛大に理性飛ばしてテメェを虐殺できねぇよ」
「っっが!?!」
突如、右頬に生まれた衝撃。
ゴバァ!! と、爆音を上げてザクロは気づけば吹き飛ばされていた。一体どういう攻撃を加えられたかすらわからない。しかし、よくよく考えれば現在の夜来初三はかなりのレベルまで『サタンの魔力』を発現している。故に、『そこまで』の攻撃が可能といえば可能になるのである。
空に舞い上がたザクロ。
咳き込んだ彼が目にしたのは―――真上で拳を引いて笑っている夜来初三の姿だった。
瞬間。
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! と轟音を生み出して、ぶん殴られたザクロはとあるビルの屋上へ激突する。
さらに言えば。
そのビルの屋上には一台のヘリコプターが停止していた。そう。ここはザクロと伊吹連たちが集合場所にしていたビルだったのである。
まさかと考えた時には既に遅い。
体制を立て直したザクロは見た。
帰投用のヘリコプターを漆黒の魔力の閃光が貫き、爆発させて破壊した光景を。
なるほど、とザクロは夜来初三に感心する。
万が一に備えて、先にヘリコプターという帰投用道具をぶち壊してしまえば、ザクロは間違いなくこの街からは逃げられなくなる。少なくとも、安々と逃がすことはないよう夜来は配慮したのだろう。
前回とは違って。
彼は冷静すぎるほどに冷静だった。
「俺ァテメェを殺す。あの狐野郎はチャラ男が殺す。―――それで幕引きだ。わかったら死ね。さっさと殺されろクソ」
「ほざけガキが。最初の一撃と先ほどの追撃で私を殺さなかったのが貴様の敗因を表しているだろう。あそこでサタンの魔力を使って私を壊していれば良かったというのに……。もしや貴様、ゆっくりたっぷり私を料理して痛ぶってやろうだとか実現不可能なことを考えていないだろうな?」
「ああ、考えてねぇよ」
「では、なぜ私を殺していない?」
「ああ、そりゃ―――」
夜来はその問いに対して。
ブチリと裂くような笑顔を作り上げる。
「―――テメェを『その程度』で殺す気なんかねぇ。殺して殺してぶっ殺す。殺した後もずっとずっと殺し続けてやるよボケ」
夜来初三はザクロを殺す。
鉈内翔縁は伊吹連を殺す。
ただそれだけの『殺し合い』が始まった一言にも見えた。
今回は
ヤクザVSザクロ
チャラ男VS狐
の戦闘状況になりました