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面倒くさい

 見上げれば曇天が漂っている。

 夜来初三は帰路を辿っている最中だった。隣には雪白千蘭と世ノ華雪花までもがいる。雨が降りそうな危ない天気に変化したゆえに、早めの帰宅を行っているのだ。

「ったく、あの馬鹿どもは干した洗濯物程度は片付けてんだろうな……唯神は論外だが」

「唯神がそんな気の利くことはしませんよ。やっているならば伊那ちゃんあたりですね」

「唯神も少しは信用してやればいいのに……」

 と、そこで分かれ道が見えてきた。

 夜来初三は左へ、雪白と世ノ華は右の道へ向かっていく。手を振ってくる二人に『さっさと帰れ』という意味を込めて、ひらりと背を向けて手を上げた夜来。彼は面倒くさそうに日傘をさして歩いていく。

「クソ……本当、面倒くせぇ」

 何に対して面倒くさいと口にしたのかと言えば、それは何に対してでもない。ただ単純に、雨が降りそうな中帰っている状況に思わず吐き捨てたようなものだ。

 しかし。


「―――マジで面倒くせぇなオイ」


 今度の面倒くさいだけは違った。

 今回ばかりの面倒くさいだけは、

 ぞろぞろと物陰から姿を現した無数の『敵』に対してだ。

 男から女まで、様々な者達が特殊部隊が着用するようなゴツイ防具やヘルメットを装備して、夜来初三をあっという間に取り囲む。さらに気づけば―――人が周囲にこれっぽちもいなかった。いや、人の有無に関しては自分を取り囲んでいる『敵』を含めていない。『一般人』が誰一人もいない、ということだ。

 おかしい。

 まるで、『全力で暴れても問題ない』という状況が出来上げられていた。

 そして。

「夜来初三」

 大勢の敵の中から姿を現したのはショートヘアーの男だ。銃火器を所持した他の者たちとは違って、その男だけはなぜか防具服にさえ身を包んでいなかった。つまり手ぶらでスーツ姿だ。

 そいつは名をご丁寧に名乗る。

「ザクロさんから命を受けて、この攻撃部隊の指揮を取っている伊吹連いぶきれんだ」

「……で?」

「貴様を足止めさせてもらう。ザクロさんの命に従って」

 いつかは来ると予想はしていた。あの祓魔師・由堂清との死闘から既にかなり時間が経ち、ようやく平和な日々を取り戻せていた夜来初三。彼はその平和に甘えていたのかもしれない。そのいつも通りに仲間と過ごしていた平和によって―――『エンジェル』なんて物騒な組織の名前なんて忘れていたのかもしれない。

 目を背けていたのかもしれない。自分が狙われている立場から視線を外していたのかもしれない。

 ゆえに。

 目の前に広がる『エンジェル』の組織員たちを見渡して、彼はようやく意識する。

 


 このクソ野郎どもを死体に変えてやらなくては本当の平和が訪れないんだと。



 瞬間。

 グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! という鮮血が走る音と共に、気づけば、何百といた『エンジェル』の銃火器を所持している組織員たちは大半が血まみれになって倒れふしていた。

 一瞬の出来事。

 一瞬の破壊。

 もちろん伊吹というリーダーも含めて、周りにいた者たちは皆が呆然とする。伊吹のそばには、片足が根元から『なくなっている』ことで絶叫を上げながらのたうち回っている部下の女が転がっていた。

 瞬間。

「っ!」

 伊吹は事前に教えられた情報を思い出す。

(確か……魔力に触れたものすべてを夜来初三は好きなように壊せるんだから……)

 ハッと気づき、思わず地面に目をやった。

 そこには、漆黒の魔力が薄くカーペットのように伸びている。間違いなく、由堂との戦いの中で見せた魔力の活用法の一種だろう。

「おい!! 一旦さがれ!!」

 味方に呼びかけるも、既に遅い。

 悪魔に染まった少年はこう言った。

 改めて、こいつらを潰さなくては平穏が訪れない事実に、こう言った。


「面倒くせぇ……」


 そう言って溜め息を吐き、

 殺すとか殺さないとか手加減だとか―――『そんなこと』さえ思考するのも億劫なので、『適当』に噛み付いてきた格下共を文字通り潰そうと、軽ーく決心する。

 瞬時に。

 一流の悪人はダルそうに―――鮮血の嵐を巻き起こした。

 




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