表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/539

人違い

 世ノ華雪花は見た。

 七色寺へ今日も健康診断を行いに来た世ノ華雪花は見た。見てしまった。見れてしまって本当にウハウハ気分だった。

 なぜなら七色寺の内部にある広大な廊下の先には―――風呂場へと入った夜来初三の姿があったから。

(……)

 世ノ華は思う。

 これはもしや、神様が『あなたは一番彼への純情な思いを抱いている素晴らしい女性だからプレゼントよ』とでも言って送ってくれた最高の機会なのでは、と。

 そして世ノ華は。

 このラッキーハプニングを絶対に肌身に染み込ませようと決心する。

(来たァァああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!)

 心で絶叫を上げた。

 さらには拳を固く握りしめて、近くの壁にガンガンガンガンガンガン!! と頭を打ち続けまくることで冷静さを維持し、 

(合法的に『あ、シャワー浴びようとしたら兄様入ってたんですねごめんなさいテヘペロー★』ができるぅううううううううううう!!!!! うっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

 もう、とにかく心で現在進行形の奇跡を叫び、放ち、噛み締めることでしか己の血圧を保つ方法がなかったのだ。

 さらに彼女は思わず涙する。

「うう、ようやく、ようやく私に神は微笑んでくれた……!!! ゆえにこの奇跡をしっかりと堪能しなくては……!!!」

 そろりそろりと風呂場へ繋がる扉の前に接近しようとする世ノ華は、念のためほふく前進で陸上自衛隊のように近づいていく。兄様の裸が待っている禁断の園の入口である扉へ近づいていく。

(目標地点まで残り三メートル。目標対象の着替え進行速度は約二十秒。つまり残り十三.二秒以内に目標地点へ繋がるドアノブ式ドアを開閉し、『あ、シャワー浴びようとしたら兄様入ってたんですねごめんなさいテヘペロー★』を実行しなくてはならない)

 性犯罪者の道を堂々と歩もうとしている世ノ華は、ハプニングという形で兄様の裸体をご覧になりたいらしい。確かに不可抗力という状況を作り出せば万が一という逃げ道も完成する。

 これこそ完全犯罪なのではないだろうか?

 不可抗力という力が完全犯罪というか……責められることのない逃げ道になる確信を得た世ノ華はついに、すっとドアの前で音もなく立ち上がり、

 げへへと小さく笑って、


「汗をかいたからお風呂に入ろうと私はしていま―――――ッッす!!!!」


 ガン!! と壊れる勢いで開けた先には。

 全裸の少年が腰にタオルをまいている状態が映った。

「……へ?」

 しかし少年は愛しの兄様ではなく、

「あ、あのー? 僕ってば一応使ってるんですけどー? ちょ、まじ恥ずいからやめてよねーまじ。早くしめてよー」

「……」

 引きつった笑みを浮かべるシャワー後の鉈内に、世ノ華はプチンとフリーズし、

 ―――ブチ、とブギれた。


「兄様はどこじゃゴラああああああああああああああああああああああ!!!!」

「何でシャワー浴びた後にこうなんのおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 不幸体質極まりないのか、はたまた単純に世界がチャラ男に優しくないのか……。激昂した世ノ華のストレートパンチが腹部にドバン!! と直撃し、はらりと腰にまかれていたタオルも落ちる。

 下半身も丸見えになった鉈内だったが、世ノ華はそれを一瞥してフンと鼻を鳴らし、

「テメェ自身の存在の如くミニマムサイズだなぁオイ」

 まったくもって恥ずかしがることもなく、男性の素っ裸を見たというのに動揺どころか毒を吐いて立ち去っていった。なぜか自分の息子を馬鹿にされたあげく、理不尽な暴力を振るわれた鉈内は呻き倒れている。ちなみに泣き目で。

 と、そこで。

「何してんだテメェ?」

 がチャリと、鉈内と入れ替わりでシャワーを浴びていた夜来が浴場から湯気を上げて登場してきた。しかし彼は全裸で床に倒れ苦しんでいる鉈内の奇行に首を傾げる。

 対して鉈内は、

「や、やっくん」

「何だよ」

「僕ってば標準だよね!? 別に小さくないよね!? ねえ!?!?」

「はぁ?」

 ……妙な部分に身体的コンプレックスが生まれてしまった鉈内翔縁。

 あともう少し待っていれば、お目当ての兄様の姿も目に収められた世ノ華。その点をみると、不幸なのか良くわからない彼女は、人違いだったのかと自分自身に激怒していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ