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任務報告

「これまた随分なやられようだな。非常にダサいぞ」

「……今のはイラッときたぞオイ」

 場所は廃ビルの粉々になった一室。

 祓魔師・由堂清は片腕を肩から引き抜かれた上、内蔵を直接弄り回されたことで出血多量で死亡寸前だった。しかし仰向けで倒れている由堂の傷口の至る所に、不思議な魔法陣が浮かび上がっているのを見たザクロは、

「回復魔術……か。なるほど、一応応急処置と生きる意志だけはあったようだな」

「ま、犬死はゴメンなんでね」

 魔術によって出血は抑えているらしい。しかしながら、それも所詮は一時しのぎだ。いずれは時間の経過と共に心臓は呼吸活動を停止するだろう。

 だが。

「それで? ザクロは可哀想な俺を助けにきてくれたわけ?」

「ふん。お前ほど夜来初三という存在に適用できる人間はうちにはそういない。ただの戦力確保だ」

 黒いハット帽を被ったパリにでもいそうな、ザクロと呼ばれるその男は実に面倒くさそうに吐き捨てた。

 対して、由堂は己のなくなった腕の傷口に目をやり、

「任務報告の前に助けて欲しいんだけど?」

「任務報告をしてから助けてやる」

「ひでえな」

 軽い調子で言った由堂は短い息を吐いてから、

「……『アイツ』の出現条件は、やっぱ夜来初三の精神状態に影響されてるのだけは分かった。ただ存在は謎のままだ。人質にとった雪白千蘭は、ぶっちゃけあんま役に立ってねえと思うぜ」

「具体的な出現条件は?」

「分からん。俺ァ祓魔師なだけであって心を読み取るような超能力者じゃねえ。だが―――夜来初三のピンチ? 対処できない危機? には出現する可能性は高いとみた。実際俺んときもそうだったし」

「具体的な戦闘能力と近い存在は?」

「まず『悪魔』じゃねえ。そんで、夜来初三が扱う黒い魔力とは正反対の『白い謎の力』を扱ってた。おそらくサタンすらも飲み込んだんだろう。だから『サタンの魔力』も『白い力』も扱えてた。そんで性格は夜来初三以上の残酷性っつーか非情性? とにかくイカれた奴だ。あと、戦い方もうまい。サタンの魔力を上下に放って遊ぶような感覚で俺をつぶしに来たり、情けとか容赦が一切ない、殺意とか悪意の塊みてぇな奴。―――以上、任務報告終わりーってわけで、早速ヘルプミー」

「……」

 ザクロは沈黙して、携帯電話で誰かと通信を取る。すると夜来初三の攻撃で天井が消し飛んでいた真上から、バタバタバタバタバタバタバタ!! と巨大なヘリコプターが姿を現した。

 ヘリは扉が開いて、そこから梯子が下ろされる。すると数人の特殊部隊のようながっちりとしたスーツを着用した者達が梯子を伝って降りてきて、由堂のからだを担架に乗せ始めた。

「医療班は由堂清の回収及び治療に回れ。他は全て周辺のあらゆる痕跡を消去しておけ。離れた場所で由堂をヘリに乗せろ。ここからじゃヘリには運べない」

 的確に命令を出すザクロ。その指示に従う部下達は、早速血まみれの由堂を運ぼうと持ち上げた―――瞬間。

 ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! という轟音と共に担架を持ち上げようとしていた部下達が土色の物体に叩き飛ばされた。体自体がありえない方向に折れ曲がり、転がった全員が呻き絶叫を上げる。

 ザクロはチラリと空を見上げた。 

 そこには。


「豹栄真介……貴様、無礼にもほどがあるんじゃないのか?」


 巨大な土色の翼を広げて浮遊している白スーツ姿の男は煙草を咥えてこれでもかというほど見下ろしてきている。

 つまり誰かといえば―――豹栄真介だ。

 視線が合うと、呆れるような溜め息を吐いたザクロに対し、豹栄は中指を突き立てて、

「うるせえよアホ。パリ人もどきの格好しやがって、笑いこらえるの必死だぞこっちは」

「ならばお前はパリ人の正式なファッションを知っているのか?」

「知るか」

「前提が崩れたな今の発言」

 視界の端に映る数人の部下達は先ほどの攻撃で重傷を負っている。しかしその様を見たザクロは新たな怪我人が増えたことで仕事の量が増大したことに舌打ちをする。

 担架の上では由堂が軽い笑い声を上げた。

「はは!! 豹栄くーん、ひっさしぶりー。どうよ? あのあとは妹ちゃんと仲良くラブラブできたのか?」

「……そんな資格俺にはねえよ」

「あらら、随分と心に傷を残してるみたいだな。何か罪悪感くるわ」

「そういうお前はどうなんだ? あの悪魔野郎にボロ負けして担架がタクシーになるんじゃねーかその状態。どうした? 新手のお医者さんごっこかよ、ちょー引くぞ」

「俺はナース一筋だっつーの。パリ人もどきのザクロちゃんとかマジ論外」

 なぜか由堂までもが自分の格好を馬鹿にするのでザクロは担架を軽く蹴り飛ばした。何やら由堂の痛みに苦しむ声が聞こえたが、ザクロは一切構わず赤髪白スーツの男を見上げ、

「それで、どうする気だ?」

 尋ねると、豹栄はニタリと笑みを浮かべる。

 さらに土色の翼をバサリと大きく広げてこう宣言した。


「決まってんだろ―――人肉ソーセージに加工してやるよクズ共が」


 瞬間。

 廃ビルの上空では激突が起きる。


   

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