不完全な善
「ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
再び血を求めるがごとく笑い声を上げた『悪』。その夜来初三と瓜二つでありながら『色』が正反対の容姿は実に人間離れしていた。真っ白な肌に、特徴的な右目を隠す前髪から後頭部の髪まで全てが白い。眼球の色と瞳の色も夜来初三とは真逆で、黒い眼球に白い瞳が禍々しく輝いていた。
そして扱う力も彼とは正反対の白だ。
「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「チッ! 騒ぐんじゃねェよクッソ野郎がああああああああああ!!!!」
楽しそうな絶叫を上げて『悪』は白い力に包まれながら突っ込んでくる。迫ってくる白い影に対し、夜来初三は迎え撃つように黒い魔力を纏って飛び出した。
結果。
白と黒が激突する。
さらに二人は超高速戦闘を披露する。どちらも移動速度・攻撃速度・攻撃威力・戦闘能力などの全てが非常に高い故に、辺りでは様々な大破壊が巻き起こった。地盤は砕けて空間は揺れる。もちろん原因は、黒い力と白い力の激しい衝突だ。
夜来は右手から漆黒の閃光を放つ。
対して。
『悪』は右手から純白の閃光を放つ。
よって二つの光は見事にぶつかり合い、やはりどちらもぶち壊れてしまう。サタンの魔力が相殺される。その現実を歯噛みして受け止めた夜来は再び動き出す。
しかし相手もその動きに合わせて動き出す。
空中戦から地上戦までを縦横無尽に繰り出している二人は殴り合い、蹴り合い、力を放出し合いながら会話を行う。
「ヒャ―――――――――ッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ドぉしタ初三イイ!! もっトもット『悪』に染まレよ!! オレを殺しテぇンだロ!? だっタら俺以上の『絶対的な悪』に染まレ!! 俺とイう悪をも超えル『絶対的な悪』に従っテ殺し合エよォオイ!! 殺せ!! 笑ってイカれて殺して殺して殺シャあいイだけダロウがヨォ!!」
「ッ!! ざっけんなドクソがアアアアアア!!」
雄叫びを上げて夜来は漆黒の魔力を振るう。思わず腰を抜かすほど巨大な黒の閃光は、音速と同等の速度で『悪』の体を消し炭にしようとする。
しかし。
その渾身の一撃を。
「ヒャ―――――――ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
耳まで裂けそうになるほど笑いながら、『悪』は白い力を纏った右手を横へ適当に振って弾き飛ばす。たった片手でサタンの魔力を叩き返された事実に夜来は目を見開いてギョッとしていた。
だが。
『悪』は構わずに襲いかかる。
「ッ!?!!??」
ギュン!! と猛烈なスピードで『悪』の化物同然の笑顔が目の前に現れた。
しかし既に遅い。
『悪』は夜来の胸に手を添えて。
ドッガアアアアアアアアアアアアン!! と、異質な白い閃光をゼロ距離から放ち夜来を吹き飛ばす。
「ッツがああああああああああああああ!?!?」
苦痛の大声と共に白い荒野へ転がった夜来。一方、そんな彼をつまらなそうに見下ろしているのは、黒い荒野へ降り立った『悪』だ。
黒い世界で白い何かがこう言った。
「本当に甘っタルい頭ァしテヤがル」
まるで頭の悪いバカに勉強を渋々教えるような感じに続ける。
「テメェは結局『本物の悪』だナンツー思考にすがっテルだけだ」
「ガッはゴホッ!! ―――チッ! どういう意味だゴラァ!!」
ようやく立ち上がった夜来はそう言い放つ。
一方、『悪』はニタリと笑って、
「自分は悪人ダ。今まデに傷つケテきたヤツの数モ、今マでに潰シたクソの数も覚えテねェし―――何よリ自分みテェな精神異常者の狂人に育てラレたクソ野郎はマトモなヤツじゃネェ―――だカら悪人だ。だカら善人にはナレねぇ。『自分を悪と肯定して生きている』かラコソ、自分は悪に染まルしかねェ……とか思ってンだロ?」
「……」
「善にはナレねぇカら、善には染まレねェかラ―――『せめて悪人でも良い悪人』にナロう。『マシな悪人』にナロう。『悪は悪でも光に近い悪になろう』とカっつーのガ、実際のとコろの『本物の悪』なンじゃネェのかよ?」
「違ェ!!!! 俺は光に近いなんて思って―――」
「そリャ思わネェだロウヨ!! なンセ―――俺が全部喰っちマってんダカらなァ!!」
「っ! だったら何で今更ンなこと吠えてンだよクソ野郎!!」
「だーカーらー? 実際、あってルだろ? 『誰も救わずに敵を潰す』ッツーもンが『本物の悪』だッテンなら、何で結局テメェは今まデにいろンなヤツを『結果的に救ってる』んダヨ?」
「だ、だから、敵を潰したら、結果―――」
「ほらソコ。チょーそコ。何で『結果的に救えた』ンだよ?」
黙り込む夜来。
その反応を鼻で笑った『悪』は続ける。
「ほラナ? そレに答えラれネェ時点で―――『結果的に人を救う行為』が『本物の悪』なンじゃネェのかよ? そウヤって『相手を救わずに隠れて救う行為』こソが『本物の悪』なンじゃネェのかよ?」
「……調子に乗るなよクソ野郎。どうせ、そうやって御託並べて、『本物の悪』っつー俺の考え方を捻じ曲げて無理やりあのクソ悪魔と俺を引き離そうって魂胆だろ? だからそうやって、俺の『本物の悪』っつー価値観を壊す気満々の寝言吠えてんだろ? そうしてサタンを、この肉体から追い出そうってわけだろ?」
「ヒュー!! アッタマ良い!! だケドまァ、実際そォだろ。テメェらが抱いテる『本物の悪』っつー思考回路は明らカに―――『不完全な善』を含んデるぜ? 結果的に人を救ウっつー『不完全な善』が混じっテんぜ?」
「……この世に『善』なンてねーっつの」
夜来初三は吐き捨てるように言った。
対して『悪』はニヤニヤと笑いながら反応を眺めている。
「善はねぇ。悪だけがこの世には充満してる。―――それが俺達の考え方だクソったれ」
「くっだラねェな」
嘲笑しながら『悪』はそう言った。
首の関節をコキコキと鳴らして話を切り上げた。
「初三」
さらに話をまったく別次元の内容へ持っていく。
相変わらずな化物の笑顔を崩さずに。
「悪と善の絶対的な違いトは何ダ?」
おお、何か『本物の悪』の視点を変えた言葉が出ましたね
『人を救わずに人を救う』・『結果的に救う』という『救う』という行為が『本物の悪』なんじゃないか、と。
『悪』が凄いこと言いましたね(笑)
でも夜来くんは認めてませんでしたが、もちろんのこと。