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鬼の筋力

 場所は七色寺。

 その境内に立っている唯神天奈は、目の前で繰り広げられている鬼と蛇の激闘をただ表情を変えずに凝視していた。

 世ノ華の蹴りで吹き飛ばされた雪白はその身を紅蓮の炎に包んで戦闘態勢を整えている。

 明らかにどちらも全力だ。

 その事実を読み取った唯神は、そこで太ももに感じた違和感に気づく。

「お、お姉ちゃん……」

 いつの間にか足にぎゅっとしがみついてきていた秋羽伊那。唯神はその小さな頭にそっと手を乗せて撫でてやる。すると、怖がるように震えていた秋羽はそれだけで顔色だけは良くなった。

 元気が出たのか、彼女は唯神を不安そうに見上げて、

「天奈お姉ちゃんも、綺麗なお姉ちゃん許せない……? 雪花お姉ちゃんみたいに、殴っちゃうの……?」

「殴りはしない。それに今は―――世ノ華が雪白をどうにかしてる。だから私は口出ししない」

 秋羽も唯神の視線の先に目を向けてみる。

 当然、そこには鬼神と白蛇の怪物に染まった二人の少女がぶつかり合っていた。



「おいおい、最近は熱帯夜になってきてンだからちったァ火力さげろよクソばばァ」

「黙れ」

 怒りに任せるように叫ぶわけでも、我武者羅になって絶叫するわけでもなく、雪白は意外にも冷静沈着な声と冷徹な目を光らせて言った。

 瞬間。

 地面に広範囲に行き渡る灼熱の炎が走って行き、それは角を生やして金棒を握りしめている世ノ華の足元へ食らいつくように迫っていった。

「はン。嫉妬の炎に燃え上がってるテメェには炎がお似合いの能力だよなぁ。マジでなんだよそれ、ウケでも狙ってンのか? だったらネタ練り直せバーカ」

 対し、鬼はその肩に担いでいた金棒をただ単純に真下へ振り下ろす。

 すると。

 ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! という破壊音を上げて金棒で叩きつけられた地面はVの字になって大きく割れる。必然的に盛り上がった地面が盾がわりとなって、雪白の放った炎は霧散するように散った。

 世ノ華は雪白のもとへ近づいていきながら金棒を担ぎなおす。

 だがしかし。 

 夜来初三を完全監禁して精神さえも支配した雪白千蘭という悪魔的天才は『この程度』の戦略で戦うような少女ではない。

「ワナに決まっているだろうアホが」

「ッ!?」

 そこで気づいた。

 先ほど地面を走っていった無数の炎がたどったルートを確認してみると―――現在世ノ華の立っている場所を包囲するように四角形の焼き後を残していた。

 瞬間。

 ゴオッ!! と、反応できない猛烈な速度でその四角形の焼き後から炎が再び炎上する。完全に周囲を炎の壁で閉じ込められた世ノ華は雪白の策に密かに感心していた。

(最初に地面に炎を走らせて『走ったルートに溝という一種のレール』を作る。すると、その溝は炎が走りやすくなる線路・・になるから、新たに炎を溝に通すとそれの速度を上げることが可能ってわけか……。ちっ! 本当無駄に頭いいわねあの女。何か引っ掛かった私がバカに思えるじゃない)

 雪白千蘭にとっての初撃は後々このトラップを作り上げる作業にすぎなかったということ。きっと世ノ華雪花相手にたった一撃で勝てるなどとは考えていなかったのだろう。

 思えば彼女は怒り狂うのではなく冷静な対応をしていた。

 つまり。


「向こうもガチで殺りにきてるってワケかよ……おもしれェ」


 鼻で笑った世ノ華は相手の能力と自分の能力を詳しく分析する。その結果からどうやって雪白を叩き潰せるか思案し始めた。

(……私達呪いにかかった『悪人』は平等な魔法だの超能力だので戦えるわけじゃない。憑依している怪物によって力は変わる。雪白は清姫の火で、兄様はサタンの魔力っていう攻撃的なほうで活用性が高い力を扱える。豹栄のヤツは不死身っつー、これまた反則級のモンだが所詮は防御性の力で、物理的な攻撃では翼しか使えないから魔力も火も宿してない)

 酸素が薄くなってきていることに気づく。

 さすがに怪物の力から飛び出た炎は火力が本当に強いらしい。もしかしたら数分で肉には綺麗な焦げ目がつくかもしれない。

 汗を拭いながら、世ノ華は金棒を見下ろして握り締める。

(そして私は、このデカイ金棒を振るう『筋力』ってのが唯一の取り柄ね。超攻撃性に特化したタイプだとでも言えばいいのかしら)

 苦笑するように心で吐き捨てる。

 つまり彼女は、これから『筋力』という単純な馬鹿力のみを用いて、炎という活用性の高い代物を振り回してくる雪白を倒さねばならない。 

 もっと正確に言えば。

 現在絶賛炎上中である周りの炎の壁を『筋力』という純粋な力のみで突破しなくてはならない。このままでは、閉じ込められたまま焼き殺されるか、酸素を奪われて昇天するか……デッドエンドしか道は存在しない。

(ま、ぶっちゃけ、やるべきことは決まってるのよね)

 彼女は純粋な力のみが取り柄だ。

 ならば話はもの凄く簡単で。


「燃えてる『地面ごと』ぶっ壊してやればいいンだっつーの!!」


 またもや無造作に金棒を振り下ろす。ただし今回ばかりは『少しだけ』力の出力を上げた。よって先ほどの一撃とは比べ物にならない―――大破壊が七色寺の境内をぶち壊す。

 世ノ華の下した攻撃は地面を真っ二つに裂いた。まるで地震による大震災の後のように地盤ごと割れてズレたことで、炎の包囲網はあっさりと隙間を作る。

 出口が出来たことで炎の檻から余裕の表情を見せて退出してきた世ノ華雪花。彼女を以前変わらない冷たい目で見捉えている雪白千蘭はゆっくりと口を開き、

「……馬鹿力が」

「乙女らしさが皆無っつーのは知ってるよ。だがまァ―――監禁洗脳クソ女よりは兄様からも好かれンだろ?」

「ッ!! ―――貴ッッ様ああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 その一言が雪白千蘭の怒りを沸点へ迎え入れた。

 絶叫と共に白蛇は鬼の元へ突っ込んでいく。

 

 

 

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