白い力
夜来はサタンの魔力がこの意味の分からない世界で扱えるかどうか分からない考えを持っていた。しかし何の抵抗もせずに殺されるのは勘弁な故に。
「クッソが!!」
我武者羅に発動させてみる。
すると。
いつもの感覚で飛び出たサタンの魔力は、迫って来ていた白い閃光を相殺する。
白の一撃を黒の一撃がかき消した。
爆音の音はそれが原因だ。
「『悪は全ての存在に否定され』て『悪は全ての存在に拒絶され』て『悪は全ての存在に嫌悪され』てイルからダよ!! 勇者が魔王を殺セばヒーローにナるのはソコが原因だッツーの!! 魔王は悪。だカら怖ェし嫌ダから―――『全ての人間がいなくなって欲しいと思っている』存在だカラだ!! つまり『悪』だかラだ!! だカら勇者が魔王殺セば周りノ連中はバンザイバンザイってェ馬鹿みテぇに喜ぶンだよ!! ―――よって『ヒーローになる必須条件は「悪」を殺す』こトだァ!! 逆に言えバ『悪を倒さなきゃヒーローにはなれない』っつーことだから―――『悪がいなくちゃヒーローは成り立たない』ンダッツーノォオオ!! つーカ実際そォだろ? 朝の六時にヤる、ガキ向けの『ヒーロー番組に「悪役」が登場しないことなんてない』だろ? なぜナら『悪役がいなければヒーローは成り立たない』かラだ!! 『世界を困らせる悪役を倒す』こトで主人公はヒーローになる。『悪と認識されている役』であル『悪役』を倒し、殺し、ぶっ殺スことでヒーローは完成する!! ―――たダ殺シて蹂躙しテ『悪って認識されている』野郎の首デモ持っテ帰りゃヒーロー決定なンダよオオオ!! ヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! ヤッベェよナぁ人間つーモンの思考回路はァ!! 『悪役なら死んでいい』んダぜ? 『悪党なら傷つけていい』んだぜ? ―――こレ以上のクソっぷリは中々拝めネェもンダよナァオイ!! 人間つーノは一体全体どンダけ汚ェヘドロなんダロうなア!!??」
「……っ」
突然に事態の連続によって、さすがの夜来も返す言葉が見つからなかった。
対して。
真っ白な化物は体から白い魔力のようなものを放出しながら、
「サーて、初三。『悪があってこそ善がある』っツー事実を理解シタとコろで―――そロそろ答えヲ提示しよウジャネェか」
化物はただ笑っていた。
その笑顔はまるで。
夜来初三が小悪党を叩き潰す際に浮かべる笑顔をさらに濃くしたような恐ろしい顔だった。
親近感のようなものが溢れてきた。
あの笑顔はまるで自分だ。
あの狂気はまるで自分だ。
あの殺意はまるで自分だ。
いや―――自分以上だ。
夜来初三はまるで鏡を見ているような感覚に襲われながらも、
「……テメェは一体、何なんだ……!??」
相手は真っ白な魔力―――自身が体から溢れ出させているサタンの魔力にも似た何かを操っている。あの魔力に似た力は謎が多すぎて正直迂闊に手を出したくはない。
「マず、この世界はオ前の中、言っチマえば『精神世界』ッツーもンだ。あノ悪魔も普段はココにイルんジャねーノ?」
白い荒野と黒い荒野を見渡しながら『悪』は言った。
そして。
『悪』は夜来初三を超えるほどに口を引き裂いて笑った。
「ンデ俺は、夜来初三の『悪』を維持シテいる名前なンかネェ―――ただの化物だヨオオオオオオオオオ!!」
ブン!! と『悪』は無造作に右手を真横へ振った。すると真っ白な閃光がその軌道を描くように生み出されて夜来初三の体を喰らいに行く。
対し、サタンの魔力を扱えることは既に実証済みの夜来は、向かってくる白の閃光を『触れたもの全てを壊す漆黒の魔力』で迎え撃つ。夜来も相手と同じように手を横へ振って黒の閃光という破壊の一撃を放った。
結果。
白と黒は静かに激突し―――またもや相殺されてしまった。
「ッツ!?」
ありえない。
夜来初三は仰天しながらそう思った。
しかし実際、ありえるはずがないことなのだから仕方ないだろう。あの『絶対破壊』の元になっているサタンの魔力を相殺などできるはずがない。あの祓魔師という『悪魔退治専門』の者ならば納得はできる。しかし白い化物は明らかに『魔術』なんて代物を使っているとは思えない。
では。
どうやってサタンの魔力の『破壊』の効果を打ち消した?
謎が深まる。
白い化物の謎がどんどん深まっていく。
「ヒャッハアアアアアアアアア!! 楽しイネぇ!! 楽しイ楽シいチョー楽しイネェ!! もっトお前も頭のネジ飛バセよ初三ィィイイイイイイイイイ!!」
「ッ! 調子に乗んなクソッタレガアアアアアアアアアアアア!!」
絶叫と絶叫がぶつかり合い。
白と黒もぶつかり合う。
『悪』も夜来も共に飛び出して、白の荒野と黒の荒野が分けられている境界線の部分で激突した。その衝撃で周囲の地面にはビシビシビシビシ!! と大きな亀裂が走っていく。
しかし二人は止まらない。
夜来初三はサタンの魔力を使って漆黒の刀を作り上げていた。魔力を固めただけの代物だが、その『破壊』という効果は刀全体に行き通っている。
故に『悪』は真っ二つに切断されたはずだった。
が、しかし。
夜来初三とは正反対の白い力で作られているのだろう真っ白な刀で、サタンの魔力で構成されていた刀の一撃を防いでいた。
やはり理解できない。
この白い力は一体なんなのか。
「テッメェ!! マジで一体なんなんだよゴラァ!!」
「アぁ? しツけーヤローだナァ。―――テメェの『悪』を維持しテやッテる化物ダッツってンダロうガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
狂気を肌で感じられる絶叫が細胞を刺激してきた。
ビリビリとした威圧感に夜来は押されながらも、刀を振り上げて敵の脳天に叩きおとそうとする。
しかし。
「ッな!?」
ガッキイイイイイイイイイン!! と、『悪』は空いている素手でその斬殺攻撃を掴み止めてしまった。
驚愕したがすぐに謎は解ける。
見ればその手には、やはり白い色をした力が手のひらに集まっていた。つまり実質は素手ではなく防具を使用していたということ。
化物はトリックにようやく気づいた夜来を嘲笑い、
「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
楽しそうに雄叫びを上げてもう片方の刀を握った腕を振り上げた。刀身がギラリと輝く。即座に飛び下がろうとした夜来だったが、あらかじめその思考を読んでいたように『悪』は刀を一瞬で振り下ろしていた。
結果。
ザッシュウウウウウウウウウウウウウウウ!!!! と『絶対破壊』を展開していたはずの夜来の肉体を真っ赤に染め上げた。