白と黒の世界
瞼をゆっくりと持ち上げる。
まるで長時間眠りすぎて体がだるくなっているような感覚だった。頭もどこか重たい感じで一杯一杯なのだが、それらの軽い体調不良やたるんだ心も全てを吹き飛ばす光景が視界に入り込んできた。
夜来初三は目を見開いて唖然とする。
「なん、だ、ここは……!?」
呟いた夜来が立っている場所は果てしなく続く荒野の地だった。一瞬アフリカ辺りにでも飛んだのか、はたまたタイムスリップしてガンマンの世界にでも入り込んだのかと錯覚する。
そして頭上には夜を表す三日月がある。
ただし。
ここで夜来が『本当に』仰天した理由は二つある。
一つ。
その三日月は『二個』あった。
二つ。
この果てしなく荒野の世界は―――境界線のように黒い世界と白い世界で分別されていたのだ。
正確に言えば夜を表すような黒くて薄暗い荒野には夜来初三が立っている。そして分けられているように、『残り半分』は真っ白な荒野となっている世界が広がっていた。
黒い荒野と白い荒野。
果てしなく続く荒野という『世界』には白と黒の大地が、空が、空間が、雲が、半分半分にして分けられているようだった。そして頭上で輝いている三日月の一つは夜来の立っている黒い荒野に浮かんでいる。
そして。
もう一つの三日月は。
『真っ白なもう一人の夜来初三』が立っている白い荒野の上で輝いていた。
黒い荒野に立つ夜来初三は、白い荒野に立つ自分に驚愕する。髪型や身長などの身体的な部分はほとんど見分けがつかない。しかしその夜来初三はとにかく―――白かった。
「テメェ……誰だ……!?」
尋ねると。
髪も肌も着ている服も何もかもが白い夜来初三はニタリと笑い、
「初メまシテかナァ? ―――初三ィ」
「―――ッ」
そこで気づいた。夜来初三は白い夜来初三とは正反対の真っ黒な黒衣を着用していることに。しかし、ここまで黒と白に分別されているとさすがに気味が悪くなる。
黒い荒野で漆黒の黒衣に身を包んでいる黒髪の夜来初三。
白い荒野で純白の白衣に身を包んでいる白髪の夜来初三。
いや。
『あれ』は夜来初三などではない。
あの化物以外に認識できないイカれた笑顔を浮かべる白い夜来初三。『あれ』はきっと、あの邪悪な笑顔はきっと、あの白い姿はきっと、
『悪』そのものだ。
「誰なんだよテメェ……」
「アぁ? どォシたァ? 随分な挨拶してクレるジャネぇかヨ」
「……」
「オーイおい、そンナびビンなヨ。つーカ凝視スんなヨ。楽しくヤローぜ?」
白い世界で白い化物が楽しそうに言った。
対して。
夜来初三は現在の状況を飲み込めずにただ沈黙している。しかしすぐに思い出せる最後の記憶と現状までの繋がりを見出すために額に手を当てて考えた。
(俺は最後に……何をしてた……? 確かあの祓魔師を殺すために殴り合ってて、そんで最後に……)
瞬間。
あれ? と夜来初三は心で首をかしげていた。
何かを忘れている。
何か大事なことを……感情のようなものを忘れている気がした。ようやく手に入れた小さな光をなくしてしまっている気がした。
しかし思い出せそうで思い出せない。そのことに眉根を寄せた夜来初三に。
『悪』がこんなことを言ってきた。
「ナぁ初三」
『悪』は両手を広げて自分自身を表すようにし、
「俺が一体ナんナノか。こノ世界が一体なンナのカ。知りテぇンダろ? だっタラ、ちットばっカシ俺の話に付キ合えヨ」
「……なんだよ……?」
「初三。―――悪ってモンの本質は何ダ?」
突然の問いに夜来は眉を潜める。
しかし『悪』はその反応を鼻で笑って、
「悪ってモンはナァ―――この世の全テの『原点』ナンだヨ」
「はぁ……? つーかテメェ、なにいきなり人のことフレンドリーに名前で呼んでやがんだ? こっちゃ状況すら理解できて―――」
「マぁ聞けヨ」
その声が響いたのは。
気づけばすぐ真上からだった。
「ッ!?」
真っ白な閃光をズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! と放出している巨大な剣と同然の腕を振り上げて笑っている『悪』にぎょっとした夜来。
「ヒャ――――ッハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! アーヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
笑い声を響かせている『悪』がいつの間に移動してのかすら気付けなかった。しかし迷っている暇はない。瞬時に夜来は転がるような格好で黒い荒野へ回避行動を取る。
その直後。
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! と文字通り真っ白な大爆発が地盤を砕き地面へ巨大なクレーターを作り上げてしまう。
ありえないほどの威力。
サタンの魔力と同等なレベルなのかもしれない。
(何なんだ一体……!? いきなり殺しにかかってきやがって!! つーか俺ァどこにいんだ!? ここはマジでどこなんだ……!?)
困惑が重なる夜来に。
笑顔をさらに凶悪にした『悪』は口を開く。
「ジャあ視点を変エるか。―――一体、ヒーローってイウ存在は何がアッて成り立つト思うヨ?」
「……」
「答エは―――『悪』だ」
「あぁ? なんでだよ?」
怪訝そうな声を上げた夜来は静かに立ち上がった。
『悪』はその様を嘲笑するように見下し、
「『魔王を殺した勇者』は、世界カらドう扱わレる?」
「俺ァ賛成しねぇが、ヒーローか……?」
「ソの通り。ジャあ―――『村人を殺した勇者』は世界カらどウ扱わレる?」
「……殺人鬼のクソ野郎、か」
「ほレみロ。ソれが答エだ。何で『殺す対象が「魔王」なら勇者はヒーローになる』ンだヨ? 何で『殺す対象が「村人」ならヒーローになれない』ンだヨ? 何で―――『悪を殺せばヒーローになる』ンだヨ? 結局は人殺シだぜ? 勇者は村人ッツー『悪じゃない』ヤツを殺シタら世界から責められる。じゃアよォ―――何で『悪』を殺しタらヒーローとしテ扱ワレるンだ?」
答エは簡単ダ、と彼は付け足し。
気持ち悪いほどに真っ白な一撃を手のひらから放出する。
「『悪は世界から否定されている』カらだっツーの!!」
閃光と同時に。
全てを飲み込む白が破壊の嵐を巻き起こした。
まだエグいシーンはないですね
自分でもほっとしてます((笑))
白と黒のぶつかり合いとでも認識できる戦いですね←あ、やらいくんは攻撃してなかったか
さてさて。
次回も白VS黒で行きたいので、世ノ華や雪白のほうを待っている方は申し訳ありません
夜来くんVS夜来くん?
↑次回からだんだんnヒートアップさせます!!
それにしても、確かに『悪』が言ってる『ヒーローになる必須条件は悪を倒す』ことだというのは個人的に納得できますね
皆さんはどうでしょうか?