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悪魔の逆襲

「来るぞ」

 速水の一言で七色と鉈内が戦闘態勢を整えた。

 その視線の先には。

 ヒビの入った顔半分が気持ち悪いほどに真っ白な肌と化していて、サタンの魔眼とは違った『化物の目』へと変化している夜来初三がいる。いや、既に彼は夜来初三ではないのだろう。唯神天奈の情報からして、『三つ目の魂』とやらが夜来初三を乗っ取っていると見える。

 さらにその人格は危険すぎるレベルだ。

 全身をありえないほどに返り血で染めて夜来初三を支配している『悪』は常に笑っている。何が楽しいのか何が面白いのかは理解できないが―――ずっと耳まで裂けそうになるほどの笑顔を浮かべていた。

 イカれてる笑顔を咲かせていた。

 狂気しかない笑顔を被っていた。

 そう。

 まるで。


 夜来初三の『攻撃性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『凶暴性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『残虐性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『嗜虐性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『暴虐性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『残酷性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『残忍性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『凶悪性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『狂気性』全てを引き出したかのような笑顔。

 

 夜来初三の『獰猛性』全てを引き出したかのような笑顔。


 夜来初三の『極悪性』全てを引き出したかのような笑顔。


 まるで。

 まるで。


 夜来初三の『悪』だけを絞り出した塊。

 夜来初三の『闇』だけを抽出した存在。

 夜来初三の『黒』だけを抜き取った色。


 そんな印象を与えられるのが―――現在、夜来初三の体を動かしている『悪』という存在だった。故に七色達は冷や汗が止まらない。余裕を見せているが実際は小さく膝が震えていた。口の中がカラカラになり、今すぐにでも腰が砕けてしまいそうになっている。

 それほどまでに。

 夜来初三の肉体を使用している『悪』は恐ろしい顔をしていた。

「―――ドぉ死にタイ?」

『悪』が発した異質な声。

 ビクリと三人の肩が震え上がる。

「ドぉイウ死体にナリたイ? ドんナ感じデ殺さレたイ? どォイう死に様でポックリあノ世に旅立ちタイんダァオイ?」

 鉈内翔縁はその言葉を『目の前』で聞いた。その気持ち悪い狂った笑顔を『目の前』で見た。その『目の前』にあった真っ白な瞳と真っ黒な眼球の釘付けになっている。

 そう。


 いつの間にか『悪』が鉈内の目の前に移動していたのだ。


「「「―――!???」」」

 反応出来なかったのは鉈内も含めた全員だ。七色も速水もようやく視線を動かして攻撃に移ろうとする。しかし既に遅い。もう手遅れな状態だった。

『悪』が開いた手は鉈内の頭を掴むように広げられて。


 黒い魔力と白い魔力のようなモノが混ざった閃光を放出していた。破壊力は絶大だ。白黒の閃光が突き抜けた進行方向にはぽっかりと穴が空いて一直線に何もかもを貫通したことが分かる。

 だがしかし。

 その真っ先に貫通したはずの鉈内翔縁の顔には傷一つついていなかった。

 理由は実に安易。

『悪』が狙いを外してしまったのだ。……と思える状況だったが実際は違った。『悪』は呆然とした顔を浮かべながら―――

「クッソ悪魔ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 瞳が赤くなった己の右目・・―――『サタンの魔眼へ変化していた右半分の顔』を白い瞳を持つ左目で睨みつけながら絶叫を上げた。

 もちろん右顔が『サタンの魔眼』へ変化したということは。


 

『この小童こわっぱには借りがある。何より―――小僧の関係者を傷つけさせるかクソ野郎……!!』 



 そんな悪魔の神様の声が響いた瞬間。

 右顔を覆っていた『サタンの皮膚』を表す紋様が全身へゾワゾワと広がっていった。まるで夜来初三を乗っ取っている『悪』を乗っ取っていくように『サタンの皮膚』は侵食していく。

 その紋様を引っつかむように顔を覆いながら。

『悪』は悲鳴を上げた。

「グ、オオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 離セ!!!! ヤメろオオオ!!!! ヤメろぉぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! ふザケんナ!! フざケンなァアアアアアアアアア!! ヨ、よウヤク起きタッテのニ、ンな簡単にモドッテタマルカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ウアアアアアアアアオオアオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 発狂だ。

 絶叫ではない。鼓膜を突き破るように奇声に近い発狂を放出した『悪』は徐々に広がっていった『サタンの皮膚』に真っ白な顔と真っ白な瞳を喰われていく。まるでその侵食から逃げるようにフラフラとその辺を歩き出したが、それでも『サタンの皮膚』は広がり続けた。 

 間違いない。

 呆然としている七色達も気づいていた。


 サタンが『悪』を飲み込もうとして肉体を支配し始めたのだ。


 故に鉈内の顔を狙った一撃もサタンが寸前のところでずらし、現在『悪』が悲鳴を上げているのもサタンが彼を飲み込んでいるからだろう。

 呪うような悲鳴は意外にも早く収まった。

 まるで糸が切れた人形のようにバタリと倒れ込んだ夜来初三の体。しかし既にその顔は白くはなっていない。ヒビも入っていない。しかし代わりに―――『サタンの皮膚』は全身に広がっていて、眼球は黒いまま瞳は赤い『サタンの魔眼』になり、髪は銀色に変化していた。 

 それはつまり。

「サタンさん!!」

 命を助けられた鉈内が真っ先に、夜来初三の体を支配していた『悪』を支配して力尽きたサタンのもとへ駆け寄った。

 夜来初三の容姿がかなりサタンに近づいている。

 これは以前、雪白千蘭を清姫が乗っ取った際と同じ状態と言えるだろう。怪物が憑依体の悪人を一方的に飲み込んだ現象だ。

「クッソ……!! 何なんだ、アイツは……!!」

 ぜえはあと荒い息を吐いた夜来の体の支配権を手に入れたサタンは吐き捨てた。

 抱き起こしてきた鉈内の手をパシ! と払って、無理に余裕さをアピールしているように立ち上がり。

「手助けはいらん!! 問題、ない……!! ただ、アイツは一体、なんだ……!!?」

 遅れて速水達もやってくる。

 七色夕那は汗だくのサタンに動揺を隠しながら尋ねた。

「お、お主も『あれ』が何なのか知らんのか……?」

「知らんに決まっている!! 我輩はただ小僧との約束通り小僧の中で待機していただけだ!! そしたら―――いきなり『あれ』が出てきたのだ!! 『あれ』は一体、何なんだ!?!?!? 貴様ならば知っているのではないのか!?」

 確かにサタンの言うとおり、『悪人祓い』という仕事をしている七色ならば『あれ』についても知っていてもおかしくはないはず。

 しかし。

「儂も分からん……。それに今では情報が少なすぎじゃ。調べてみんことには判断できん。じゃが……あれは『異常』じゃ。怪物だなんて存在を超えていた。怪物や化物をも超えている『何か』じゃと儂は思う。もちろん調べてみんことには何も言えんがのう」

「クソ!! クソ!!!! 我輩としたことが!! うかつだった!! 小僧どころか小僧が大切にしているものすらも奪われるところだった!! ―――クソが!!!!」

「お、落ち着け!! 今はとにかく―――」

「落ち着けだと!? ふざけるな!! 我輩という悪魔の神をも『あれ』は飲み込んだのだぞ!? 我輩も小僧もまるごと『あれ』に食われたのだぞ!? 我輩だけならともかく『あれ』は小僧にとって危険すぎる存在だ!! 小僧に危険があるというのに、これが落ち着いていられるか!! クソ……!! 我輩ですら小僧の体の支配権を無理に握ることでしか『あれ』を回避できなかった!! 何なんだ『あれ』は……!!」

 と、そこで。

 顎に手を当てて考え込んでいた速水玲が口を開いた。

「一つ聞くぞサタン」

「何だ一体」

「今、夜来初三という肉体は君、サタンという存在が支配していることになる。ということは―――『夜来』という存在は今、もしかして先ほどの『あれ』と一緒に『中』にいるんじゃないのか……?」

「ッ!?」

 盲点だったのか、それほどまでに必死で『あれ』を止めていたのか、サタンはぎょっとして己の夜来初三という肉体を見下ろす。

 確かにそうだ。

 普段は夜来初三という肉体は夜来初三が支配権を持っている。

 つまり。

 普段は夜来が肉体そとでサタンが精神なかにいると言えるだろう。

 ではここで当然の疑問が発生する。

 サタンが肉体そとへと立場が変わったのなら。


 夜来初三は『あれ』と共に精神なかに閉じ込められているのではないか……?

  

 

 

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