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少女と遺跡と伝説と。  作者: 鳥乃葵
第一章 金と魔法と鉄塊と。
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第二話「昨夜はお楽しみでしたね」

前話のあらすじ!

「俺たちは冒険者の街、ベルクストへやって来た。ようやく一息つけるかと思いきや、チビッ子リーシャが早速問題を起こしやがったんだ。お陰で今夜も野宿になるか、と思いきや、妙なオッサンが声をかけて来た。どうやら依頼のようで、俺たちは話を聞くことに。しかし、話を聞くとこによるとどうやらこのオッサンの親父は、魔導具を一人で使い切っちまったらしい。で、その魔導具を探し出して持ってこい、とのことだが……こいつはきな臭くなってきやがったぞ。さて、リーシャ。この依頼、どうする?」

 「魔導具を……使い切った?あんたの親父さんが?」


 信じられない、という顔でロジャーが聞き返す。


 「ええ。とは言っても、中身の魔力を直接使ったわけではありません。私の父は、どうやら魔導具を使ったとある実験をしていたようです。何の実験をしていたかは知りませんし、父も既に他界してしまいました。遺跡で実験をしていた、という事だけは分かっているのですが……つまるところ、この魔導具は父の形見なのです」


 

なるほど、という顔でうなずくリーシャ。依頼の内容は分かった。しかし、冒険者が依頼を受けるにあたって、最も重要な事が話されていない。


 

「……報酬は?」

 「金貨3枚と、遺跡で見つけた宝の半分をお譲り致しましょう。依頼の期限としては、三日依頼以内とさせて頂きます」

 ただアイテムを持ってこい、という依頼にしては、破格の報酬である。

 「……」

 「おい、リーシャ、ちょっと来い。……この依頼、どーにもきな臭い。確かに報酬は魅力的だが……」

 「確かに、「お使い」の報酬にしちゃあ豪勢よね」

 「怪しすぎるぜ。なんか裏があると見て間違いねえな」

 「……受けるわ」

 「!?おい、リーシャ!」


 


呼び止めるロジャーを無視して、ルーデの元へと歩み寄るリーシャ。


 「この依頼、受けさせてもらうわ」


 ほっとした様子のルーデ。しかし、


 「ただし!報酬の金貨は10枚。遺跡で見つけた宝も全部頂くわ」

 「な……ッ!」

 「こんなお使いにそんな報酬は、あまりに不自然だわ。貴方、今回の依頼は私たちに頼んだのが初めてじゃないでしょう?でも、今まで誰一人依頼を成功させたものは居なかった。そして、貴方はできるだけ早くこの魔導具を手に入れたい。しかし、生半可な冒険者ではとてもできるものではない……だから、私たちに声をかけた。違う?」

 「……」


 どうやら図星だったらしく、押し黙るルーデ。


 「私たちなら、絶対に成功させるわ。私の魔力も、ロジャーの身のこなしも見ていた筈よね。でも、金貨3枚じゃやる気が出なくて失敗しちゃうかも……」

 「……」

 「あら、ダメなの?だったら良いわ、行きましょロジャー」


 つまり、絶対に成功させる代わりに報酬を増やせ、ということだ。


 「……お待ち下され」


 帰ろうとするリーシャの背中に、声がかかる。


 「……分かりました。報酬は、そのように……」


 苦々しげな顔で呟くルーデ。


 「あぁら、良い商談が出来て良かったわ!リーシャ嬉しい!」


 依頼の同意書にサインをすると、リーシャは颯爽と踵を返す。


 「ほら、ロジャー。ボケッと突っ立ってないで、さっさと行くわよ!遺跡探索の準備をしなきゃなんないんだからね」


 鬼だ、とロジャーは思う。元の報酬の2倍以上である。こんな守銭奴に依頼をするから……怒りか悲しみか、体を震わせる彼に同情の視線を向けて、リーシャの後を追うのだった。



 「さて、ロジャー。遺跡の探索なんて久しぶりね。どんなものを持って行くか、覚えてる?」


 商店街へ向かう最中、リーシャが声をかけてくる。さすがに遺跡の街だけあって、辺りには冒険者らしき姿が沢山見られる。


 「ああ、ばっちりだ。お前こそ覚えてるんだろうな」


 商人、冒険者、様々な声が飛び交う中での会話だ。周囲の喧噪に負けぬよう、お互い大きな声で会話する。


 「当たり前じゃない!丈夫なロープに、たっぷりの油とカンテラ。携帯食料とか、小型爆薬も必要よね」


 ふむふむ。


 「あと、お腹が空いた時の為にお菓子も欲しいわね。休憩の時にお尻を痛めたくないし、座布団も。それに……」


 「ちょっと待て、後半部分は明らかにいらねえだろ!」


 慌てて静止の声をとばす。貴重な費用を、そんなものに使われてはたまらない。


 「なによぅ。乙女には遺跡の中でも安らぎを忘れない、そんなハートが大事なの」

 「……乙女…ね……」

 「むっ。なによその顔は、なんか言いたい事でもあるの?」

 「いえいえ全くこれっぽっちも。ほら、着いたぜリーシャ」


 ずらりと並んだ冒険者道具。街の看板である遺跡の為のものだ、他の店とは比べ物にならない大きさを誇っている。


 「ほら、リーシャ。余計な物は買うなよ」


 リーシャに銀貨をいくつか渡すと、鼻歌混じりに店の奥へと消えて行くロジャー。


 「……ロジャーって、買い物好きよねぇ……」


 なんとも言えない表情でその背中を見送って、自分も直ぐに店へ入る。二人の買い物が終わったのは、実にとっぷりと日が暮れた後のことであった。


 「……すっかり遅くなっちまったな。早いとこ宿を探すか」

 「誰のせいだと思ってんのよ。あんたが似たような道具持って、「どっちがいいかな?」なんていちいちいちいち聞いてくるのが原因じゃない」

 「その意見には納得いかねえな。どこかのだれかさんが、買って来た道具をぜぇんぶ川に落っことしたせいだろ?あんな何も無い所で転ぶとは、ありゃ一種の芸術だね、全く」

 「だからぁ、あれは事故よ事故!ちっちゃい子がいきなりぶつかって来たせいなの!」

 「おお、自分のミスを子どもに押し付けるとは……やだやだ。お陰で手持ちは銀貨1枚、銅貨40枚か」

 「もー!」

 


 膨れるリーシャを無視して、暗い町並みに目をこらす。すると、ぼんやりとした明かりの漏れる一軒の建物を見つけた。


 「お、ようやく宿屋だな。とっとと休もうぜ」


 中に入ると、毛むくじゃらの動物人間ーーー獣人がカウンターに立っている。


 「いらっしゃい。明日の朝までで銅貨30枚だ」

 「飯と湯は?」

 「朝夕ついてる。1階の食堂で食べてくれ。夕飯ならすぐに食べられるぞ」

 「よし、金もないし、一人部屋でいい。今日と明日、泊めてくれ」


 その事を伝えた途端、獣人がニヤリと笑う。


 「……なるほどな。あまり激しくしないでくれよ」


 なんのことだ、とは思うが、あまり追求せずに料金を支払う。

 


 案内された部屋に入った途端、獣人の言葉を理解した。


 「……あンの野郎」


 ベッドが一つしか無い。当然、敷き布団もない。


 「いきなり立ち止まって、どうしたの?さっさ……と……」


 ボン!と、音が聞こえそうなくらい早く、リーシャの顔が真っ赤になる。


 「えっ、なっ、えっ!?ちょ、ちょっとロジャー……ええっ!?」


 一人部屋ということは、当然寝る場所も一つ。実に当たり前である。


 「ま、しょうがないか。俺は飯を食ってくる。その間に湯浴みをしてるといい」

 「ちょ、ちょっとロジャぁ〜……」


 意外なほど冷静なロジャーを見て、一人で赤くなった自分が恥ずかしくなってくる。部屋の前で立ち尽くしていると、湯を持って来た店主に気づかれた。益々恥ずかしくなって、湯をひったくると早々に部屋の中に引っ込んだ。

 

 

 湯浴みをしながら、自分の体を確認してみる。背は大きいとはいえない。顔は小さく、目は大きい。 手足はすらりとして、お腹も出ていないが……胸が、言わずもがな。……自分で確認してみると、どんどん悲しくなってくる。なんという幼児体系だろうか。自分の女としての魅力がどれほどのものかなど、考えたくもない。別にロジャーと恋仲になりたい訳ではないし、彼も自分のことは単なる仲間として捉えているだろう。そういう意味では、ロジャーの反応はそこまでおかしいものではない。でも、だけど……もう少しどぎまぎしてくれても、罰は当たらないんじゃなかろーか。

 

 「はぁ……」

 

 溜息をついて、湯浴みを終える。のたのたと着替えて、鏡の前へ。ふむ……でも、そう悲観するほどじゃないかもしれない。ちょっとポーズをとってみる。これは……なかなか……可愛いかも。


 「……なにやってんだ、お前」

 「へっ!?」


 いつの間にか、ロジャーが戻って来た。

 

 「ひゃあぁあああぁ!?」


 声にならない声を上げて、ばばっと距離をとる。

 

 「いっ、いやっ!?なんでもないのよ、なんでも……おほほ、おほほほほ……さ、さーて!あたしもご飯食べて来よっかなー!」

 だっしゅ!



 夜。ランプの火も消えて、ベッドの中。明日は丸一日、遺跡探索の為に情報を集めることになるだろう。その次の日にはいよいよ遺跡探索だ。両方とも体力を使うため、固い床の上で眠って無理に体力を使う必要はない。結局、二人共ベッドで寝ることになった。幸い大きなベッドだったので、のびのびと眠ることができる。



 


 「……ねえ、ロジャー」

 「……」

 「もう、寝ちゃった?」

 「……いや、まだ起きてる」

 「……そっか」


 別に、何か特別話すことがある訳ではない。ただ、何となく眠れないのだ。


 「……なあ、リーシャ」

 「……なに?」

 「……や、別に」

 

 それは、ロジャーも同じだった。背中合わせのまま、なんとなく相棒に話しかける。

 

 「……」

 「……」

 

 ただただ、静かに。昼間はあれほど騒がしかったのに、今はこんなにも静かだ。窓から差し込む月の光が、部屋を照らす。

 

 「……ねえ、なんで月って二つもあるのかな?」

 「……さあな。神様と魔王が、それぞれ一個ずつ作ったんじゃないのか」

 「あはは、なにそれ。以外とロマンチストね、ロジャー」

 「うるせえよ、リアリスト」

 

 なんとも中身のない、しょうもない話。心地良い、と感じた。



 


 いつの間にか、朝が来ていた。昨晩の優しく照らしていた月はもう居らず、今はぎらつく太陽が顔を照らす。あまりの眩しさに再び目を瞑ると、がやがやとした喧噪が耳に入ってくる。ロジャーは未だ眠っていて、いつものハンサムな顔は見られない。少年のようなその顔にどこか安心して、仕度をする。

 

 「……ん……」

 「おはよ、ロジャー」

 「……」


 もそもそとベッドから這い出す彼を見て、思わず吹き出す。

 「……なんだよ」

 「別に。ほら、とっとと仕度しなさい。情報を集めなきゃね」

 

 そういって、部屋から出る。あいつの分の食事も貰っておいてやろうか、などと考えて、キャラじゃない、とかぶりをふった。と、そこで獣人の店主と目が合う。彼はにやりと口角をつり上げて、




 「昨夜はお楽しみでしたね」

 「死ねぇぇーッ!!」

 

 一階から響く爆音で、ロジャーは完全に覚醒した。







 


次回予告!

「俺たちは遺跡探索と金貨10枚の為に、情報を集めることにした。

だが、情報は中々思うようには集まらない。

段々と迫るタイムリミットに、ぎらつく太陽。

そんな中でいつまでも冷静に行動できるはずもなく、ふとしたことから俺とリーシャは口論を初めてしまう。

半ば喧嘩別れのように、別々に情報を集めることとなった。

だが、日が落ち、夜になってもリーシャは宿に帰って来ない!

畜生、あいつはどこにいったんだ!?

まさか何かあったんじゃ……!?

次回、第三話「そいつは、俺のッ!」

無事でいろよ、リーシャ……ッ!!」


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