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少女と遺跡と伝説と。  作者: 鳥乃葵
第一章 金と魔法と鉄塊と。
1/3

第一話「ぬぁんですってぇ!?」

本作品は、様々な作品の影響を受けています。

多少の展開の被りなどはあるかもしれませんが、

生暖かい目で見守ってくださるとありがたいです。

それでは、前置きはここまでです。

彼ら二人の冒険活劇を、是非お楽しみください。


ーーー「畜生、だからこんな依頼は嫌だったんだッ!!」


 大声で喚きながら背後に迫るゴーレムーーーいにしえの怪物だーーーに攻撃を浴びせかけるのは、青い瞳が金髪から覗く、ハンサムな男だ。胴体のみをプレートメイルで固め、他に装備しているものは腰にぶら下げている棒状の鉄塊のみという、変わった風貌だ。


 「うっさいわねッ!無駄口叩いてる暇があるなら、足を動かしなさい足をッ!」


 そう叫ぶのは、赤い髪と大きな目が印象的な、小柄な少女。全身をすっぽりと包んでしまうような大きいローブと、鈍く輝く宝石の嵌った肩当てをしている。少女は叫びながらも、その手に巨大な魔力の奔流を作り出していた。


 「今よッ!」


 それを背後のゴーレムに投げつけると同時に、少女が叫ぶ。背後で起きた爆風を煙幕に、二人は出口へと猛進する。二つの月が輝く地上へ二人が飛び出すのと、その光を浴びてゴーレムが崩れ落ちるのは、ほとんど同時だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


  時は遡り、「遺跡」探索の二日前。

 ここは「遺跡」目当ての冒険者で栄える街、ベルクストだ。元は小さな町だったが、町の地下に眠っていた遺跡が発見されたことから冒険者が殺到、爆発的な発展を遂げた。ある種、この世界を象徴する街でもある。

 


 「しっかし、ここまでの規模の遺跡が今になって見つかるとはな。こりゃあ、もしかするともしかするかもしれないぜ、リーシャ」 


 リーシャと呼ばれた少女が、視線もやらずに返事をする。


 「だから、いつも言ってるじゃない、ロジャー。私は記憶なんて戻らなくてもいいの。そんなことに遺跡のレアアイテムを使うくらいなら、売ってお金に替えた方がよっぽどマシよ!」

 「そんなことって、お前なあ……」

 

 複雑な表情で見つめるロジャーを尻目に、リーシャが言った。


 「あ、ほら見てロジャー!あれ、ひょっとして酒場じゃない?やた、よーやく野宿から解放よ!」


 小走りで宿屋へと向かう彼女を、溜息を吐きながら追いかける。財布を持っているのは自分なのに、どうしていつも先行するのだろう……そんなことを考えながら酒場の扉を開けると、聞き慣れた少女の叫び声が耳をつんざく。


 

 「ぬぁんですってぇ!?もーいっかい言って見なさい、だ•れ•が•がきんちょよ、誰が!?」

 「はっはっはっ!お前みたいなぺちゃんこ以外、どこにガキがいるってんだ??早いとこ家に帰って、ママのミルクでも飲んでるんだな!」

  

 またか、とロジャーは思う。彼女の行くところ、一切合切ことごとく、このような騒ぎが起きるのはどういうことだろうか。近くのウェイトレスに話を聞くと、探索の成果を話していた冒険者をリーシャが鼻で笑ったことがこの騒ぎのきっかけの様だ。全くもって、いつも通りである。


 「……ぺ……ぺちゃんこ……?」


 ぴくっ、と。リーシャの動きが止まる。


 「私が、ぺちゃんこですって……?」

 「ぺちゃんこじゃなきゃ、なんだって言うんだ!?お前がぺちゃんこじゃなけりゃ、世の中の女はみぃんな巨乳だぜ!」


 その発言に、酒場にいる者たちが一斉に吹き出した。

 ーーーただ、一人を除いて。


 「…ふ……ふふ……ふふふふふ……!!」


 妖しく笑うリーシャを見て、先ほどの冒険者が再び話しかける。


 「……なんだ、やろうってのか?」


 隠そうともせず全身から魔力を吹き出すリーシャを見て、冒険者の顔から笑みが消える。

 それを見て、ロジャーは全身からどっと汗を噴き出す。


 「おい、止めろバカッ!」

 



 確かに彼の言った事は間違っていない。彼女はぺちゃんこどころか絶壁の持ち主だし、おまけに童顔。女の魅力などこれっぽっちも、ほんのひとかけらも、全くと言って良い程、存在し得ない。そもそも、発端はリーシャである。そして、小柄な少女と相対するは屈強な肉体の冒険者。このまま決闘になれば、勝敗は明らかだろう。

  

  

  


  だがしかし。

  果たして、静止の言葉は冒険者に向けられたものだったのか。


 「炎熱を司りし炎の妖精よ……」ーーー否。


  

  果たして、その発言は小柄な少女の身を案じてのものだったのか。


 「今ここに集いて眼前の敵を焼き尽くしたまえ……ッ!」ーーー否ッ!

 


  冒険者の顔色が変わる。


 「こいつッ……!!」


  魔術師か、と言いかけるも、少女の掌に生まれた灼熱の迫力に呑まれ、言葉にならない。

 「コードFッ!ファイアぁぁぁっ……ボ「すみませんでしたぁぁぁぁっ!」



 詠唱の完了を目前にして、リーシャの視界がぐるりと一周。ロジャーが彼女を肩に抱えて逃走したのだ。


 「……んもう。いいとこだったのに、なんで邪魔すんのよ」

 「店の中であんな……お前はバカかッ!?」


 ぜー、はー、と荒い息を繰り返しながら、ロジャーが叫ぶ。


 「なによぅ、ご挨拶ね。ケンカは買うものでしょ?」

 「お前が売ったんだろッ!」

 「そんなこともあったかもしれないわね」


 いけしゃあしゃあと答えるリーシャに、ロジャーはまたも溜息。


 「大体お前……」


 口を開いたところで、不意に互いのものでは無い声が響く。

 二人はこれでも歴戦の戦士である。そんな二人に気配も察知させず声をかけてくるとはーーー。

 


 「もし、お二人とも。」


 声のした方向に目を向けると、そこに立っていたのは白髪の老人であった。きっちりとした身なりから察するに、少なくとも冒険者ではないだろう。そして同時に、魔物などの類でも無い筈だ。余程高位の魔族でも無い限り、完全な人の形は有り得ない。

 

 「……何か?」


 ぶっきらぼうに答えるリーシャ。ロジャーも、決して友好的ではない視線を送る。


 「はっは。そう警戒しないで頂きたい。あなた方の腕前を見込んで、お願いがあるのです」

 「依頼、ということでしょうか」

 「まぁ、そうなりますな。ここで立ち話もなんですから、どうぞ、私の家まで」

 


 案内されたその家は、リーシャを千人程度は詰め込めるのではないかというくらいの大豪邸であった。

 やたら豪勢な門を抜け、これまたやたら豪勢な扉を開けると、そこにはずらりと並ぶ何十人ものメイド達。


 「「「おかえりなさいませ、ご主人さま」」」


 老人は片手を上げて返事をすると、ロジャー達を招き入れる。


 「こりゃまた、なんとも……」

 「羨ましいとか、思ってないでしょうね」

 「……」

 


 背後で悶絶するロジャーを無視して、話が始まる。


「まず、貴方の名前を教えて頂戴。何時までも貴方じゃ、呼びづらくって堪んないわ」

「ああ、これは申し遅れました。私の名前は ルーデ と申します。失礼致しました」

「宜しく、ルーデさん。私はリーシャよ。それじゃ、お仕事の説明を……」

 「依頼というのは、他でもない。これを持ってきて頂きたいのです」

 「これは……魔導具?」


 渡された写真に写っていたものは、なんともいえぬ歪な形の鍵だった。


 「前大戦の遺産。テクノロジー。オーパーツ。そして俺たち冒険者は魔導具と呼んでるそいつ……呼び名は様々だが、圧倒的な魔力を秘めており、遺跡から発掘されるというあれか。金持ちが何に使うかは知らないが……こいつは、暇潰しには過ぎたシロモノだぜ」

 いつのまにか回復したロジャーが、真剣な面持ちで会話に入ってくる。


 「でも……この魔導具、何の魔力も無いみたいよ?」

「なんだと?」


 通常、魔力の入っている魔導具ははめ込まれている宝石が鈍い輝きを放っている。しかし、この魔導具の宝石にはそれがない。まるで輝いていないのだ。


 「でしょうな。これはーーー私の父が、使っていたものですから」


でしょうな、とは。まるで、父が使っていたから魔力がなくなった、とでも言わんばかりだ。まさか、一個人が一つの魔導具を使い切ったとでも言うのだろうか。それは、並大抵の人間に出来ることではない……二人の間に、微かな緊張が走った。




第一話「ぬぁんですってぇ!?」ー了ー



 

次回予告!

「一流の冒険者であるロジャーと私。

そんな私たちに気配も悟らせず声をかけて来た老人、

ルーデの依頼は、なんと魔導具の捜索だった!

既に使い切られているそれは、

なんとルーデの父親が使っていたものだという……

一人の人間が魔導具を使い切るなんて、

並大抵のことじゃないわ!

なんだか怪しくなって来たぞ?

この依頼の先に待ち受けるものは一体!?

ルーデの真意は果たして!?

次回、第二話「昨夜はお楽しみでしたね」

読んでくれなかったら、こーしてやるッ!」

「……何やってんだ、お前」

「えっ」

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