10. アイアイ★こらむ① 魔力ってな~に?
注)アイアイ★こらむは電波系楽屋落ちコーナーです。真面目な方、まともな方、あるいは毒電波に対する耐性が無い方などが読まれますと、精神とかに何らかの異常をきたす可能性がありますのでご注意下さい。
「こんにちはーっ!!
ついにやってきました、アイアイ★こらむ!!
只今から、このページは皆さんご存じのこのわたし、相川 愛が占拠しちゃいました!!」
「…………」
「はい、それじゃあ、早速盛り上がってイッてみましょーっ!!
………………。
……あの、教授。どうしたんですか?何でそんな、コーヒーゼリーだと思って頬張ったらモズクだった時みたいな顔で固まってるんですか?」
「…………。
何だ、コレは…………?」
「…………へ?
あっ、まだ説明してなかったですか?
えーと。ここは、教科書とか参考書ではお馴染みのお役立ち豆知識コーナー、コラムをイメージして作った、わたしの占有空間なんです。
その~、皆さんいいかげん気付いてると思うんですけどこの話、
“ぶっちゃけ用語が意味不明!!”
――じゃないですか。
そこでわたしが、読者の皆さんの気持ちを代弁して、教授に色々質問していこうっていうコンセプトなんです」
「初めにオレが読者の気持ちを代弁しよう。
……お前、誰だっけ?」
「うぅ……。
ひっ、非道いです、教授。
冷たいです、教授!!
わたし、仮にも教授の教え子ですよ?
教授よりちょっぴり年上の、勉強熱心な女の子ですよ?普通なら、ヒロイン候補No.1ですよ!?」
「……成る程な。
取り敢えず、ここが何でもありの人外魔境だという事だけは理解した。
……それで?
なんでお前みたいなチョイ役に、専用コーナーなんかが設けられてるんだ?」
「そ、それは勿論、わたしが教授の優秀な教え子で、チョイ役にしとくには勿体無いって、作者さんが分かってくれたからに決まってるじゃないですか!!」
注) 彼女の出番は、本当は冒頭の一回だけの予定でした。でもでも、書いてる内に、なんだか妙な親近感が湧いてきちゃいまして……。
報われない感じ、とか?
えーと、可哀想なので、無理矢理出番を作っちゃいました。本編とは関係ないんで、読み飛ばして頂いても構わないです(^_^;)。
「……今、なんか聞こえなかったか?」
「き、気のせいですよ、教授!!
気にしちゃダメですよ!!
きっと、悪い妖精さんが鼻歌とか歌っただけですよー!!」
「……まあ、そこまで言うなら気にしないが。
だがな。質問って、結局オレは何を答えればいいんだ? なんかサブタイに、魔力がどうのこうのって書いてあるが……」
「はい!! ズバリ、それが今回のテーマになっちゃってます!! 魔力を“何か不思議な力”とかで終わらせちゃったらただの“F”!! 朝マガはSFなんですから、しっかりそれっぽい理論をでっち上げないとダメなんです!!」
「……SFってそういう意味だっけ?」
「いえ、多分間違えてます。
ちょっとおバカな作者さんが、SFのFをファンタジーだと勘違いしてplot作っちゃったのが全ての元凶です。ぶっちゃけ、もう後には引けなくなってる感じなんです。
……はい、楽屋落ちでした。
すみませんでした。
教授は気にしないで下さい!!」
「大丈夫なのか、このノリ。
ここ、携帯小説じゃないんだぞ?
こんなふざけたコーナーがある話、“なろう”じゃきっとウチくらいだぞ?」
―――――
「はい!! それじゃあ本題にいってみましょう!!
教授。早速ですけど、そもそも魔力ってなんなんでしょうか?」
「……知らん」
「へ?」
「知るわけが無いだろう。
オレは物理学者だぞ?
暇潰しに魔術の本くらいは読んだこともあるが、そういったオカルトは完全に専門外だ。
そんな事はアルにでも聞いてくれ」
「ダメですよ、教授。
なんとかして解明しないと、このコーナーの存在意義が危ぶまれます。
それにこのお話は、一応魔導“科学”っていうタイトルが付いてるんですから、ちゃんとSFっぽい解釈も付けないとダメじゃないですか」
「うちの場合、SFのFはファンタジーだろ?
律儀に拘る必要も無いとは思うが……。
まあ、仕方ない。
それならば、適当なところから推論を立てるとするか」
「はい、教授!!
久しぶりの講義をお願いします!!」
「結構。
魔力……。
まあ、力って付いてるくらいなんだから力なんだろう。
それでは基本的なところから確認するが、そもそも物理学における“力”とはなんだ?」
「はい!! ズバリ、パワーです!!」
「……聞かなかった事にしてやる。
いいか、物理学において“力”の定義とは、“物体を変形させたり運動の状態を変えたりする原因となるもの”とされている」
「えーと、はい。
高校の教科書の初めに書いてあるあの定義ですね?」
「そうだな。
抗力、張力、電力、磁力、まあ一口に力と言っても様々な種類があるのは知っての通りだと思うが……、
さて、しかし現代物理学においては、自然界に存在する全ての力は、突き詰めればたった4種類のみで説明出来るとされている」
「魅力と、体力と、知力と、あとは財力でしたっけ?」
「……その四つがどうやって“物体を変形させたり運動の状態を変えたりする原因”になるんだ?」
「はい!! まず魅力は……」
「いい!! 説明しなくていい!!
……次に進もう。
いいか、4つの力とは、重力、電磁気力、強い相互作用、弱い相互作用のことだ。電気力と磁気力はかつては別物とされていたが、現在では同じものだという事が分かっている」
「……へ?
あの、重力以外あんまり見かけないんですけど。
本当にそれだけなんですか?」
「そうだな、では何か力の例を上げてみてくれ」
「財力!!」
「……物理的な力で頼む」
「えーと、抗力とか、ですか?」
「それならいいだろう。
抗力とは物体に力を加えた時に、物体から押し返される力の事だったな?
さて。それでは、そもそもこの抗力とはどこから来るのかを考えてみよう」
「えーと。押し返す力ですから、壁とか机の中から、ですよね?」
「そうだな、つまりは物体の中からだ。
ところで全宇宙の物質は、全て原子という基本単位から構成されている。
つまりは膨大な数の原子どうしが結合する事によって物体を形作っている訳だ。
さて。それでは、物体を構成する力とはなんだ?」
「あっ。なんか昔、化学で習ったような気がします。たしか、えーと、電子がどうとか……」
「そうだ。
全宇宙のほぼ全ての物質は、原子が持つ電子や陽子が電気的に引き合う事で結合していると言えるな。
つまり、抗力の元は電磁気力だ。
手が壁に減り込んだり、足が地面に埋まっていったりしないのは、壁や地面を構成する原子が持つ電子が、手や足の電子と反発しているから、とも言える」
「うー……。
ちょっと混乱してきました……。
え、えーと、つまり。わたし達が普段言ってる“力”っていうのは、その四つのどれかが化けてる物、ってことなんですか?」
「そういう解釈でもいいだろう。
……だが、まあ。そう難しく考える必要も無いと思うけどな。
この話は“魔導”科学っていうタイトルがついてるくらいだし、オレもそこまで深く“科学”について触れるつもりは無い」
「…………。
(十分重いんですけど……)」
「さて。ではいよいよ、魔力の正体について考察してみよう。
魔力も“力”である以上は、上記の四つの力のどれかに分類されると考えるのが自然である。
可能性を探る為に、先ずは現在までに判明している魔力の性質を列挙してみよう。
・星の内部から出てくる。
・図形を描くと集積できる。
・“濃密”になると“視認”できる。
・精霊の餌になる。
・使うと火が起きる(射程10m以上?)。
・使うと物が飛ぶ。
…………カオスだな」
「えーと、要約すると……。
濃密で、中から出てきて、熱い、美味しい物……、
あれ? 食べ物なんですか?」
「……まあ、アレだ。
一つ一つ検証していこう。
先ず、魔力は明らかにマクロな世界で働いているという点に注目する。強い相互作用と弱い相互作用は原子核のようなミクロな世界でしか顕著な働きを見せない力だからな。我々の世界の常識に則るのであれば、この時点で、魔力の正体は重力か電磁気力のどちらかであると言えるだろう。
……まあ、集まったり火を起こしたりしている時点で重力ではありえまいから、残るは電磁気力しか無いのだが」
「む~……。
ちょっといいですか?
重力は知ってますし、電磁気力……っていうのが電気とか磁気の力、っていうのはなんとか分かるんですけど……。
その、強いとか弱いとかいうのは何なんですか?」
「そうだな。
あまり馴染みの無い力かもしれないので、ここで簡単に説明しておく事にする。
先ず強い相互作用とは、原子核を作る力の事だ。
原子核が陽子と中性子から構成されている事は知っているだろう?
しかし陽子同士は、正電荷を持っている為にお互いに反発する。それならば、原子核として原子の中央に固まっているのはおかしい。クーロン力による反発で、原子核は崩壊してしまう筈だ。つまり、原子核が原子核として存在する為には、クーロン力に逆らって陽子と中性子を固める程の強い力が無くてはならない。
これを強い相互作用と呼び、詳しい説明は省略するが、原子核の様な狭い領域でしか働かない力だ。
――というか、強い相互作用が原子核の外にまで働くのなら、全原子の原子核は次々に固まって団子になってしまうから、まあ原子内でしか働かない力だというのは納得してもらえると思う。
よってこれは、我々が普段目にする事はまず無い力だ」
「えーと、陽子と陽子がプラスとプラスだから、お互いに反発して、だからソレをくっつける為には、もっと強い力でギュッと固めなくちゃならなくて……。
なんとなく分かったような、分からないような……」
「まあ、なんとなくでいい。
因みに余談ではあるが、素粒子物理学の世界では、力とは究極的にはゲージ粒子の交換によって生じるものであるとされ、強い相互作用は中間子の交換によって媒介されるのだが、実は中間子自体がゲージ粒子なのでは無く、クオーク同士を結びつけて中間子を構成しているグルオンこそが強い相互作用の源であるとここでは述べておこう」
「…………。
…………へ?」
「さて、次に弱い相互作用であるが、これはβ崩壊を起こす力だ。これは簡単に言うと、原子の種類を変える力であり、中性子を陽子と電子、及び反ニュートリノに変えるβ^−崩壊と、陽子が中性子と陽電子、及びニュートリノに変わるβ^+崩壊がある。
参考までにそれぞれの式を記しておくと、
β^−崩壊:
n^0 = p^+ + e^- + v^0
β^+崩壊:
p^+ = n^0 + e^+ + ν^0
まあ、これも陽子とか中性子とかのスケールでの話であるから、当然我々が普段目にする事はまず無い。因みにウィークボゾンによって媒介される力である。
また参考までに述べておくが、電磁気力は光子によって媒介され、重力は重力子によって媒介されるとされている。
まあ、グラビトンは現時点ではまだ見つかってはいないのではあるがな」
「…………」
「……どうした?
何故、そんな釈迦みたいな目でオレを見る?」
「あのー……」
「ん?」
「今回って、たしか“魔力”に関する講義でしたよね?」
「だから魔“力"に関する考察を続けているんだろう?まあ、要するに、取り敢えずこの2つの相互作用は魔力の正体では無いだろうという事だ。
核力については理解出来たか?」
「…………。
(や、ヤブヘビでした……)」
「理解出来たなら続けよう。
さて、魔力が電磁気力であるとするのならば、その性質の幾つかに説明を付ける事ができる。
例えば“見える”という性質についてだが、見えるというのは光が我々の網膜上で像を結び、それを脳が認識した時に初めて起こる現象だ。
光とは電磁波であり、電磁気力を媒介する素粒子とは光子であるから、魔力が見えるというのは、少々強引ではあるが一応のところ納得できる。
光は熱源から発生するものであるから、星の内部にマグマでもあれば十分に“星の内部から出る”し、本文中に記された“星”というのが恒星であるとすればなお無理が無い。それに、太陽電池の様な器具を用いれば“集める”事も出来るだろう。
……まあこの場合、魔力の正体は電磁波だという事になるが」
「えーと。それじゃあ、魔力っていうのは光で、魔術っていうのは太陽光発電みたいなものなんですか?」
「魔力が純粋な電磁波だというのならばそれでいいのかもしれないな。
精霊の餌になる……というのは精霊とやらを実際に見てみなければ分からないが、そいつらが葉緑体でも持っていれば解決できるし、エネルギーを十分に高めれば、空気をプラズマ化して球電を作る事も出来るかもしれない。火炎魔法の火球がプラズマの球である、というなら多少は納得だしな」
「ほへ~、なるほど~……。
……あれ? ちょっと待って下さい。
一番最後の、“使うと物が飛ぶ”っていう性質はどうなるんですか?
懐中電灯の光を浴びて吹っ飛ぶ本とか、ちょっと見た事無いんですけど……」
「“光で物は動かない”。
なるほど、君はそう主張するわけだな。
いい事を教えてやろう。
実は光の圧力を推進力に変える道具が、既に開発されている。
ずばり、ソーラーセイルだ」
「ソーラーセイル?
なんか、ポケ○ンの必殺技みたいな名前ですけど……」
「安心しろ。
草タイプ最強の技とは無関係だ。
そうだな。先ず初めに述べておくと、セイルというのは帆の事なんだ」
「帆……?
ヨットとかのアレですか?」
「そうだ。
だがここでポイントとなるのはだな、ヨットは空気分子の運動量を受けて水上を駈けるが、ソーラーセイルは太陽光の運動量で宇宙を翔けるという点だ」
「太陽光の……運動量、ですか?
なんか、あんまり聞かない言葉ですけど……」
「まあ、光子には静止質量が無いからな。
高校で習う運動量といえば質量と速度の積であるから、確かに質量の無い粒子が運動量を持つというのは不可思議に感じるかもしれない。
だがアインシュタインの光量子仮説以降、光がhv/c(h:プランク定数、v:振動数、c:光速度)の運動量を持つという予想はコンプトン効果の実験によって裏付けられている」
「…………。
…………へ?
コンプ……なんですか?」
「まあここでは、光にはごく僅かではあるが、物を動かす力があるとだけ覚えておけば十分だろう。
なんにせよ、魔力が純粋な光子の塊だった場合、本とか服とかの物体を飛ばすには、ソーラーセイルの原理が一番単純だろうと思っただけの話だ」
「光……、ですか……」
「ああ、光だ。
よし、それでは計算してみよう。
アルは本を飛ばしていたが、ここでは話を簡単にする為に、本を空中に浮かせる際に必要な光量を算出する事にする。
さて、ここで質問だが、物体を空中に静止させる為にはどうすればいい?」
「はい!! 持つとか吊るすとか、とにかく重力に負けない何かで固定するといいと思います!!
えーと、確か。物体に働く力の総和が0になった時に物体が静止する、って教科書に載ってた気がします!!」
「古典力学的に言えばそうだ。
以下、話を簡略化する為にその解釈で進める。
今考えるのは重力のみであるから、光が鉛直方向に本に加える力が重力と釣り合った瞬間、本はめでたく空中に浮ける事になる。
ここでは仮に、アルが飛ばした本の重さを400g、ページの面積を0.025m^2としておこう。
本は表紙を翼代わりにして飛んでいたというのだから、おそらくはページが開かれた状態で浮いたと考えられる為、光を受ける事のできる面積は倍の0.05m^2となる。400gの物体に働く重力の大きさは約4Nであるから、0.05m^2の面積に働く光圧が4Nを超えれば本は宙に浮く事ができる筈だ」
「…………?
はい……?」
「光圧の大きさは、放射が物体に完全に吸収される場合には、エネルギー流束密度を光速で割った値になる。本を飛ばす時の光の仕事率を求める為にはエネルギー流束密度に面積をかければいいから、エネルギー流束密度が分かれば仕事率も算出出来る計算だ。
エネルギー流束密度をp、光速をc、本が光を受ける面積をSとすると、
p•S/c=4.0(N)という式が成り立ち、
p=4.0×3.0×10^8/5.0×10^-2
=2.4×10^10(W/m^2)となる。
これに本の面積をかけると、
2.4×10^10×5.0×10^-2=1.2×10^9(W)
つまり、400gの本を浮かせる為に必要な光の仕事率は12億Wとなる。
……って、待て。
12億Wだと?」
「じゅうにおく……わっと?」
「……大体予想はしていたが、これはまた凄まじい数値が出たものだな。そうなると、たった一冊の本を飛ばす時に起きる問題は……。
……って、どうした?
なぜ、そんな死んだ魚の様な目をしている?
まあ、確かに衝撃的な数値ではあるが……」
「衝撃的なのは、魔法の解説で数式使う教授の頭だと思うんですけど……」
「……なんか言ったか?」
「い、いえ、何でもないです!!
そ、それよりですね、その、12億ワットって、具体的にはどの位の数値なんですか?
えーと、すごく大きいっていうのは何となく分かるんですけど……」
「……地球での太陽光のエネルギー流束密度が1370(W/m^2)だから、その875910倍の明るさの光が必要だ、って言えば分かるか?
スタングレネード85000発分の光量で、日本の総電力量の100分の1に当たる」
「きゃーっ!!
たった一冊の本を飛ばすだけで大惨事に!?」
「こんなモノを見たら人間なんか即失神するし、本なんか飛ぶどころか燃え尽きるだろうな。
……いや、待て、
これだけでは終わらない。
これは、単に本を浮かせる為に必要な光量に過ぎなかった筈だ。仮に本が鉛直方向に対して45°傾いた状態で、面に垂直に光を浴び続けるとしても、これを飛ばすには上記の計算の少なくとも3倍以上のエネルギー流束密度が……、
いや、まだだ。
本文によると、本は鳥の様に“羽ばたきながら”飛んでいたというではないか。羽ばたくとは本を閉じる動きに他ならないから、ページが受ける光子数が減ってしまい、かえって飛ばし難くなる。
これだけでも無駄なエネルギーを使っているっていうのに、更に“少女の上を旋回”してから“少女の手元に収まった”って言ってるぞ。
ソーラーセイルは原理的に光源から遠ざかる方向にしか進めない筈だから、旋回できたっていう事は、スタングレネードの85000倍の明るさの光源が、可燃物だらけのあの屋敷の中を動き回ったっていうのか?
いや、85000倍ではまだ足りない。ソーラーセイルは通常、宇宙空間にて使用されているが、あの部屋には明らかに空気があった。当然光は拡散されるから、ロスした分を補う為には更に眩しい光源が必要になるし、そもそも今計算したのは本のページが受ける光の強さに過ぎないから、光源ではさらに想像を絶する程の明るさが……」
「む、無茶苦茶じゃないですか~っ!!
考えれば考える程、本なんか自力で取りに行った方が楽ですよ~っ!?」
「……流石にコレは無いだろう。
と、すると、アルはどうやって本を飛ばしたんだ?
太陽電池で発電でもして、電磁石の生み出した磁界の中をリニアモーターカーみたいに飛ばしたのか?
いや、そうなると本や服にも仕掛けをしなくてはならないし、何よりあの馬鹿デカい家全体に磁界を作るとしたら、それはそれで物凄い電力を食うだろう。やっぱり自力で取りに行った方が楽だ」
「はい!! 質問です!!
そもそも、あの世界に電磁石なんてあるんでしょうか!?」
「知らん。だが、他に説明のしようも無いだろう。
大体、上記の全ての条件を満たす力など、少なくとも我々の宇宙には――、
……待てよ。よく考えるとオレは、魔力の重要な性質を一つ見逃していないか?」
「…………へ? あっ!!」
教授には効かない!!
(教授の時空には無い)
「…………」
「…………」
「……なるほど、そういう事か。
ならば魔力とは、我々の宇宙に存在する4つの力とはそもそも違う力であると考えた方が良さそうだな」
「スゴいです、教授!!
流石です、教授!!
道路標識とか制限速度とか、全部無視して突っ走った挙句、着いてみたら目的地も間違えてるなんて、きっとなかなか出来る事じゃないです!!」
「そう言うな。
試行錯誤は科学の醍醐味だろう。
さて、だがそういう事ならば話は速い。
魔力を第五の力であると仮定して、それを媒介する素粒子を仮に霊子とでもしておこう。以下はその上での仮説を述べるとする」
「霊子?
えーと、それを仮定すると、魔法が上手く説明出来るんですか?」
「……いや、あまり上手くはない。
新粒子の仮定っていうのはな、素粒子物理学においてはある意味“反則”なんだ。
新粒子さえ仮定してしまえば、どんな自然現象でも説明出来てしまうからな」
「…………へ?
それって、便利なんじゃないですか?」
「便利だが“オッカムの剃刀”に抵触するんだ。
湯川秀樹博士の中間子論が初期に敬遠されたこと然り、彼のヴォルフガング・パウリは中間子論を思い付いた学生の論文を、“辻褄合わせに勝手な粒子を生み出すな”と言って却下したなんて噂もあるくらいでな。
今回は明らかにオレ達の住む時空には無い力であると明言されている為に、遠慮無く新粒子として仮定させてもらうが、実験で実証するまでは文字通り幻想にすぎない。
……まあ、エーテルみたいな物だと思って聞いてくれ」
「えーと、要するに、
“自信無いから、あんまり信じすぎるなよ”
――って事ですか?」
「……まあ、平たく言えばそういう事だ。
さて。ここでは取り敢えず、魔力を用いて本を浮かせる事を考えたい。
先ほどの考察より、物体を質量の無い粒子で浮かせるのは非常に困難である事が分かった。魔力というマクロで確認できる力を媒介している以上、霊子は光子や重力子と同様に質量の無いゲージ粒子であると考えられるから、やはり魔力を直接用いて物体を浮遊させるのは困難であると予想できる。
よってここでは、あえて逆転の発想で行こう。
つまり魔力が重力と釣り合う程の力を生み出しているのではなく、魔力が重力の方を弱めていると考えてはどうだろうか?」
「じゅ、重力キャンセル装置!!
なんか、いきなりSFっぽいお話が出てきました!!」
「まあ、確かにSFっぽい理論である事は否めないが……。
だが、そこまで突拍子の無い話でも無いだろう。
素粒子物理学では、重力は重力子の交換によって生じると考えられているが、霊子にこの重力子の交換を阻害する働きがあるとすれば重力は弱くなる筈だ。
魔力の働いた物体には霊子が蓄えられ、重力子を吐き出さなくなるのかもしれない。
仮想霊子で満たされた場を仮に“魔力場”とした場合、強い魔力場では重力子の交換が鈍くなるのかもしれない。
或いは弱い相互作用の様に、重力子を何か別の粒子へと崩壊させてしまう働きが、魔力にはあるのかもしれない。
現時点ではどれも仮説の範疇を出ないが、そういった新粒子がこの世界に存在するとすれば、物体を浮遊させる魔術も或いは可能となるかもしれないというだけの話だ」
「えーと、よく分からないんですけど。つまり今回の結論は……」
「うむ」
“魔力とは、この世界固有のゲージ粒子・霊子によって媒介される第五の力である。
飛行魔術の際には、なんらかの方法によって重力子の交換を阻害し、重力を弱める働きをしていると考えられる”
「まあ、こんな所で手を打ってくれ。
火炎魔法などのメカニズムについては、機会があれば考察しよう」
「あう~……。
異世界ファンタジーの解説とは思えないですよ~……」
―――――
「はい!! それでは今回のアイアイ★こらむはここまでです!!
なんだか物凄く電波な内容になってる気がします!!
ぶっちゃけ1ミリも理解不能です!!」
「……いや、お前はわからなきゃ駄目だろう。
一応、オレの教え子じゃなかったのか?」
「あう~……、それはそうなんですけど……。
教授のお話、完全に作者のキャパを超えちゃってるんですよ~……。
作者も絶対わかってないです」
「…………?
よく分からんが、オレがおかしいのか?」
「はい!! ぶっちゃけて白状しますと、朝マガの理論とか計算とかは、全部相方の理科マニアに丸投げしちゃってるんです!!
一応作者も目を通したりはしてますけど、全然理解出来ないんで殆どコピペ状態で……。
そ、そんなわけで、作者に質問とかしても、絶対なんにも分からないですよ?」
「…………。
(誰に言ってるんだ?)
まあ、それはいいとしてだ。
終わったっていう事は、オレはもう帰ってもいいんだよな?」
「…………。
(じと~~……)」
「……なんだ、そのあからさまなジト目は」
「……べつに、何でもないです。
ただ、帰るって、アルちゃんの家に帰るって事なんだろうな~、って」
「?
いや、帰れるものなら地球に帰りたいが、流れ的にそれは無理だろうしな。
……何か、含むところでもあるのか?」
「――――っ!!
あ、あるに決まってるじゃないですか!!
教授、自分の行動を忘れたとは言わせませんよ!?
なんなんですか!?
なんで初対面の女の子に、あんなにセクハラしまくってるんですか!?
なんでわたしには何もしないんですか~っ!!」
「待て待て待て待て、ちょっと待て落ち着け!!
何を言ってるかがサッパリ分からんが、とにかく先ず前提を確認したい。
そもそも、女の子の定義とはなんだ?」
「……普通に、子供の女性の事じゃないんですか?」
「そうだ。
そして女性というのは、ホモサピエンスの雌性体にのみ使用される単語であったはずだろう。
あそこは異世界なんだから、アルはホモサピエンスではあり得ない。つまり、アルは女の子でも何でもないじゃないか」
「む~……」
「……どうした?」
「その割には教授、アルなんて愛称で呼んでるじゃないですか。
名前が覚えられないから、って言ってましたけど……。
教授、わたしの名前を言ってみて下さい!!」
「えーと、相……、あい……」
「相川 愛です!!
中学の時のあだ名はアイアイでした!!
尻尾の長いお猿さんでした!!」
「あーっ!! 分かった、分かったよ!!
覚えりゃいいんだろ!?
えーと、それじゃあ……、
……愛?」
「はう……!!」
「……どうした?」
「も、もう一度、言ってもらっても、よろしいでしょうか」
「――? 愛?」
「も、もうちょっと、囁くような感じでお願いします!!」
「…………。
愛……」
「はう……っ!!」
「……大丈夫か? 頭」
「だ、大丈夫です!!
い、いえ、ちょっとダメですけど、やっぱり大丈夫です!!
で、でもでも、やっぱり今は講義なので、ちゃんと相川って呼んで下さい!!
そ、それでは、サヨナラです!!」
「……覚えてたらな。
(それが何度も呼ばせたヤツのセリフか?)」
えーと、その……。
いかがでしたでしょうか。
た、たまにはこういうノリもいいですよね? ね!?
はい。今更ですけど、読者の皆さんの反応にちょっぴり不安を覚えちゃったりしてます。もしかしてコレ以降、ついに愛想を尽かされてユニークアクセス数がパッタリ、なんてことは……。
…………。
は、はい、やめましょう。嫌な想像はやめましょう。
えーと、取り敢えず、折角他国のお姫様とか出ましたし、折角のバトロワ設定だったりしますし、次の10話くらいでバトルとか入れてみたいな~と思ってます。
いえ、あんまりバトルとか書いたこと無いんで、文章力にそこはかとない不安を感じたりもしてるんですけど……。
と、とにかく、これからも朝マガをよろしくお願いします!!