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朝日真也の魔導科学入門  作者: Dr.Cut
第一章:イクリプス-1『守護魔召喚』
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1. この教科書を読まれる方に

 1903年、ライト兄弟は世界初の動力飛行装置を開発した。ライトフライヤーと名付けられたその機体は、5人の観客達が見守る中、59秒間に渡って大空を駆け抜けた。古来より人類が目指した幻想が、また一つ実現された瞬間である。


 1961年、旧ソビエト連邦は人類初の有人宇宙飛行に成功した。嘗ては神々の世界と呼ばれた天空に、人の身で足を踏み入れるという偉業。初めて地球の重力から開放された人類であるユーリイ・ガガーリンが手記にて述べた、“地球は青かった”という言葉はあまりにも有名に過ぎる。


 1969年、アメリカのアポロ11号が月に到達する。漆黒の天空にて一際美しく輝く白銀の天体。我々は遂にその場所へと降り立ったのである。月の大地に星条旗を立てた後、宇宙飛行士ニール・アームストロングは言った。“これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である”。ライトフライヤーが飛び立ってから、僅か66年後の出来事であった。



 さて、それでは現代に話を移そう。

 この本を手に取った方であれば、おそらくは既によくご存知である事とは思われるが、どうも現在、月よりも遥か遠くに旅行する若者が急増している模様なのである。


 漫画やゲーム、ライトノベルなどに顕著に記されている事実ではあるが、単衣に“異世界”と呼ばれる場所に召喚されたり迷い込んだり攫われたりする少年少女の数は、現在確認されているだけでも年間約3桁を超え、我が国における少子高齢化を促進する一因となっているのではないかと懸念されている。


 誤解の無い様に述べておくと、筆者としては彼らの挑戦を非難したり、突然彼らを拉致した“何者かの意思”や神、王族の方々に慰謝料や損害賠償を請求するべきだとかいう様な狭量な考え方を推すつもりは全く無い。


 特に現代の安全かつ退屈な生活に飽き飽きした若者達には良い刺激になるであろうと思われ、心身の健やかな成長の助けになる事も少なからずあるだろうと考えられる為、健康にさえ気を付けてくれるのであれば、英雄になったり魔王を倒したりお転婆なお姫様と恋仲になったりする事に異論を唱えるつもりもまるで無い。


 しかしながら一つだけ問題点を上げるとするのであれば、通常の場合、彼らは突発的かつ何の準備、心構えも無く見知らぬ土地を彷徨うという危険極まりない事態に陥ってしまうという事である。


 確かに漫画やゲーム、ライトノベル等に見られる実例においては、多くの場合彼らには救いの手が差し伸べられるし、また彼ら自身も持ち前の勇気、知恵、そして何者かから与えられた超常現象レベルの特殊能力によって困難に立ち向かい、快適な生活と掛け替えのない仲間達を掴み取る事が出来るのだが、不運にもその様な幸運に恵まれる事無く無惨かつ華々しく散って逝った若者達も相当数いる事が予想され、突発的な事故としては航空機事故や落雷を悠に上回る危険度である事は否めない。


 既に述べた様に、現代において若者は、いつなんとき月よりも遥かに遠い所に召喚されたり誘拐されたり何者かの意思によって時空の壁を飛び越えたりするか分からない状況にある。よって異世界に対する正しい知識及び対処法が望まれる所であるという独断、もとい判断に基づき、筆者は本書を刊行する物であるとここで述べたい。



 さて。異世界での生活においては文化や生活習慣、物理法則の違いなど様々な困難が想定されるだろうが、やはり一番の問題点となるのは魔法の存在であろうか。


 多くの場合、異世界においては魔法、魔術、超能力及びそれに類似した力が存在し、また若者達も少なからずその恩恵を受ける事になるのではあるが、我々の世界において魔法を実用レベルで詳しく紹介した専門書の入手は困難であり、読者の方々がよくご存知であろう勇気溢れる若者達も知識の不足故に命に関わる様な重大な怪我を負う事が間々有るのは一般的によく知られた事実である。


 よって筆者は、魔法に対する正しい知識は現代を生きる若者達にとって必要不可欠であると考え、魔導を論理的かつ体系的に理解する事が求められていると信じる。


 以上の理由から基本的なコンセプトとして、本書は主に異世界や魔術を中心に扱う学問の一体系である“魔導科学”と呼ばれる分野を、とある青年の体験した事件、事故、及び異世界人との命を賭けた戦い等の情報を元に分かりやすく解説していき、異世界における魔導理論、問題点、及び厄介事等への対処法を詳しくかつ親しみやすく紹介する事を目的とする。


 本書を読み終えた頃には、読者の方々も多くの人々が敬遠する魔導科学理論に対する苦手意識が和らいでいる事に気が付くだろう、などと一般的な教科書の前書きに使われる定番の文句をここに記し、筆者からの挨拶を締め括りたい。


 さて、それでは始めるとしよう。

 とある青年の経験した、

 よくある数奇な物語を――。

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