第二話 跳び箱で
僕の身長は130cmほど。同じ学年のみんなのちょうど真ん中ぐらいだ。寝ると身長が伸びるって言うから寝る時間を減らすのは少し不安だけど、藤雲さんと一緒に話すためには必要な犠牲だと思って頑張ろう。
それから数日。少し賢くなった実感はある。授業の内容もまるっと頭に入ってくるし、話し合いのときも目的通り藤雲さんと一緒に問題に答えて考えを深められるほどの力は手に入った。睡眠時間を削ったことでお母さんに「隈ができた?」と言われはしたが夜にいつもと比べて少し早めにねむくなる程度で学校とかじゃ大した支障はない⋯はずだった。
12月に入ってしばらくした頃。寒さにより外での運動ができないため、体育館で跳び箱をしていた。列で並んですぐ後ろにいる藤雲さんに良いところを見せようと僕は6段の跳び箱と向き合っていた。前回の体育であとちょっとで飛べそうという所まで来ていたので「今日こそは」と意気込む。助走をつけて踏み台を踏んだその瞬間だった。頭をめまいが襲ったのだ。右も左もわからなくなった僕は頭を跳び箱へ打ち付けてそのまま瞼を閉じた。
「杉村くん?杉村くんっ?」私は杉村くんへ全力で駆け寄り大きな声で名前を呼んだ。頭から血が出ていたのでポケットに入れていた絆創膏を彼に貼った。効果があるのかなんて知らないがとにかく必死だった。後ろに並んでいた子に先生を呼んできてもらって私は先生が来るまでの間だけ膝枕をした。やがて先生がやってきて杉村くんは運ばれていった。先生は私の行動に感謝をしてくれた。目の前の人が急に頭をぶつけたなら誰だってこのような行動をしていただろう。ただ、最近杉村くんのことが少し気になっていたからかなりの切羽詰まった雰囲気だったかもしれない。
杉村くんとはクラス替えしてすぐのときに1度、目があった。それからも度々私の方を見てきて彼には悪いけど個性的なお友達だと思って過ごしていた。11月のクラス替えでそんな杉村くんが隣の席になった。なぜかはわからないが挙動不審で私と会話してくれたことはなかった。先生に割り算の説明をしてと言われたときも一言も喋らなかったのだが、私が教えてあげると目を輝かせて答えてくれて、頷いてくれた。イメージとは違って感情が体いっぱいで表現されるのが少し可愛く見えた。その次の日から彼の目は輝いていた。次に小数の説明をするときは杉村くんから楽しそうに説明してくれてこの変化が少し気になって彼のことをもっと知りたいと思っていた。私の中には今まで感じたことのない不思議な気持ちがそこにはあった。
僕が目を覚ますと全く知らない天井が広がっていた。しばらくすると白衣を着た男の人がやってきてここが病院だと理解した。どうやら僕は頭をぶつけたことで3週間入院することになったらしい。学校の予定を思い出せば3週間後は冬休みに入っている。これから一ヶ月ほど藤雲さんと会えなくなってしまうと思うとかなり寂しい。お医者さんの話から頭をぶつけてから2日間眠っていた事がわかった。また、このあと親が来るのでなにか用意してほしいものを聞かれた。一瞬頭の中にゲーム機も浮かんだがすぐに沈んでいき僕は教科書、ノート、ドリルの三点セットを頼んだ。保育所で働いているお母さんは融通が利いたのか30分ほどでやってきた。骨が折れそうになるほどの強くて温かいハグとチョコクッキーと三点セットをくれた。なにか困ったことがあったら言ってね。と言い残しお母さんは去っていった。しばらく藤雲さんに会えないことは悲しいが授業を受けれないことには何も思っていない。7ヶ月間の勉強を教科書とドリルだけでこなせたのだから今更3週間授業を受けれなかったところで困ることはない。お医者さんに睡眠だけは取ってほしいと言われたし、今回の件で寝る時間を削ることがいけないことだとはっきりわかったので勉強は日が出ている時間だけにしておく。次の日は土曜日で公務員として働いているお父さんがお見舞いに来た。お父さんもチョコクッキーをくれたのと困ったことがあったら教えてとお母さんと同じことをして帰っていった。
その次の日には先生と藤雲さんがお見舞いに来た。
次回は明日の20時に投稿します。




