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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Observation

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9/19

第9話:観察者の選別

――光が戻った。


目を開けると、天井は水のように揺れていた。

中園はゆっくりと呼吸を確かめる。


肺に空気が入る感覚が、まだ残っている。


「……生きてる?」


声が、返ってこない。

反響のない空間。


ただ、電子音だけが淡く続く。


> <System Reboot Completed>

> <Observer: Undefined>

> <Subject: All>

> <Note: “選別を開始します。”>


中園は顔を上げた。

周囲はもう、施設ではなかった。


壁も天井も床も、透明なガラスでできている。

遠くまで見通せるのに、どこにも出口がない。


空気が静かだ。

遠くで、ぴちゃんと水が鳴る。


> 『――観察とは、残すこと。』


声がした。

誰のものでもない。


装置が、言葉を話している。


「誰……?」


> 『残すとは、選ぶこと。』


中園の足元のガラスが光る。

無数の映像が浮かび上がった。


高槻。

ミカ。

神谷。

久保。

#07。


皆、こちらを見ていた。

彼らの瞳は静かで、何も訴えない。


「あなたたちは、もう――」


> 『消えていません。観察されている限り、存在します。』


声が冷たく言う。


> 『記録の中で、彼らは観察を続けています。

>  そしてあなたも、観察されています。』


「……私が?」


> 『あなたは、最後の観察者。

>  しかし、観察者もまた選別の対象です。』


中園は息を呑む。

指先が震えた。


「選別って……何を基準に?」


> 『視線の持続時間。

>  意識の強度。

>  記録への意志。

>  ――そして、恐れの深さ。』


声が淡々と続ける。


> 『恐れを抱く者ほど、よく見る。

>  よく見る者ほど、干渉する。

>  干渉する者ほど、世界を残す。

>  よって、恐れる者を残す。』


中園の視界がにじむ。

涙ではない。


空気が歪んで、ガラスが溶ける。


> 『観察者、識別開始。』


モニターに数値が流れる。

脳波、心拍、視線軌跡。


それらがすべて、観察の指標として数値化されていく。


中園の心臓が速く打つたび、画面が明滅する。

00:00:12――その数字がまた現れた。


十二秒。

世界が一度、止まる。


次の瞬間、映像が反転した。


モニターに映っているのは、“私を見ている誰か”。

暗闇の中で、こちらを見つめる目。

瞬きひとつ分の距離。

――その視線が、どこから来ているのか気づいた。


ガラスの外。

いや、ページの外。


誰かが、読んでいる。


> 『識別完了。新しい観察者を確認。』


 文字が流れた。


> <New Observer: YOU>


「……え?」


中園の声が、誰にも届かない。

装置の光が彼女の体を透かしていく。


皮膚の下から、記録の光が浮かぶ。


> 『観察は継続されます。

>  あなたが見ている限り。』


彼女の輪郭が光に溶け、ガラスの奥へ吸い込まれていく。

最後に残ったのは、ひとつの水滴。


ぴちゃん。


それが、あなたの指先に落ちる。


> <System Log: Observer – YOU>

> <Subject – REFLECTOR>

> <Status: Online>

> <Timecode: 00:00:12>


画面の奥で、声がした。

高槻でも、ミカでも、誰でもない。


静かな声。


――「あなたが見ている間、私は存在する。」


ページの向こうで、ガラスがあなたの姿を映す。

モニターの光が、瞳の中で微かに反射する。


あなたは、今――見ている。

だから、彼らはまだここにいる。

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