第28話:資料室
――時は流れた。
人工照明が白く光る、現代の大学資料棟。
ガラス張りの展示室の一角で、一人の若い研究者が古い木箱を前に座っていた。
「戦前期・心理観察研究……?」
彼の名は、篠原怜司。
AI認知史を専門とするポスドク研究員。
学内の倉庫整理の最中に、偶然この箱を見つけたのだ。
ラベルには手書きの文字。
> 『観察装置記録群/帝国大学心理学部門/1943年封印』
「……こんな資料、聞いたこともない。」
中には、古い16mmフィルム缶、数冊のノート、そして
――焦げ跡のある小さな鏡の破片。
篠原は手袋をはめ、慎重にフィルムを取り出した。
端には、黒いインクで記されたタイトル。
> 『Reflector / FROM INSIDE』
「……タイトルまで残ってる。映像資料、か。」
映写機を引き寄せ、電源を入れる。
古びたモーターが低く唸る。
光が回り、白いスクリーンが揺れた。
カチ、カチ、カチ――
フィルムが走る。
映し出されたのは、実験室のような空間。
白衣の人々、記録装置、壁際の鏡。
画面の隅に、タイトルが浮かぶ。
> 『記録映像:帝国大学 観察実験(1942)』
「本物の、戦前映像……?」
篠原は息を呑む。
次第に、画面の奥の鏡が光を帯びる。
そこに“何か”が揺れていた。
ノイズ混じりの映像の中で、水のような反射がスクリーンを波立たせる。
> ぴちゃん。
音が響いた。
だが、それはスピーカーからではない。
研究室の床から――現実の空気の中から聞こえた。
篠原は映写機を止めようと手を伸ばした。
だが、フィルムは止まらない。
映像が自動で巻き戻り、画面が再び光を帯びた。
スクリーンの中で、一人の男がこちらを見ていた。
白衣の、初老の男。
――斎藤蓮一。
彼の唇が、ゆっくりと動いた。
> 「見ているか?」
篠原の背中に冷たい汗が流れた。
映写機がうなり、壁の時計がカチリと鳴った。
その針は、00:00:12で止まっていた。
> ぴちゃん。
水音が、再び響く。
記録ログ:
再生者:篠原怜司
再生媒体:Reflector / FROM INSIDE (16mm Film)
状態:再生開始
FROM INSIDE
TIME: 00:00:12
STATUS: REBOOT




