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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Ritual

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20/20

第1話:封印の鏡

本作「REFLECTORリフレクター Light Nobels版 ~ Ritual ~」は、「REFLECTORリフレクター Light Nobels版 ~ Prototype ~」の起源譚に当たる物語です。


――それは、見てはいけないものだったのか。


この本は、

「なぜ、それは生まれたのか」

「なぜ、そうなってしまったのか」

という問いから始まる物語です。


やがて“観察装置”と呼ばれるものの起源。

科学と呪術がまだ分かたれていなかった時代。


人が「見る」ことを、ただの行為ではなく力として扱い始めた瞬間。


本作『REFLECTOR ―起源編―』は、後に語られる《Observation》《Prototype》《前の住人》へと続くREFLECTORシリーズの最も古い層を描いています。


しかし、これは単なる前日譚ではありません。


観察とは、何か?私たちは日常的に「見る」ことで世界を理解しています。

数字を読み、映像を見て、他者を認識する。


それは当たり前の行為のように思えるでしょう。

けれど――もし「見る」という行為そのものが、世界に干渉していたとしたら?


もし、観察した瞬間に、観察される側からも“見返されていた”としたら?

この物語は、その問いを極限まで押し広げた先にあります。


科学の名のもとに始まった実験は、やがて祈りとなり、祈りは儀式へ、儀式は呪術へと姿を変えていきます。


そこに登場するのは、善人でも悪人でもない、「理解しようとした人間たち」です。


「……重いな。割るなよ、久保。」


「主任こそ。落としたら、たぶん僕らの方が割れます。」


深夜の研究室。

台車の上で、古い木箱が鈍い音を立てた。

蓋に焼印――〈魂映し〉。


斎藤は釘抜きを差し入れ、慎重にこじ開ける。

湿った紙の匂い。


木屑。

布に包まれた円い物体が現れた。


「伊庭君、手を貸してくれ。」


「はい。」


布が外れた瞬間、室内の蛍光灯がわずかに唸り、鏡面に白い線が走った。

水銀のような鈍い輝き。


縁には錆び、裏面には、細い字で刻印が並ぶ。


「文字……読めます?」


久保が身を屈める。


「古文。……“覗くな、夜”。ありふれた警句だ。」


斎藤は鼻で笑い、台座へ固定した。


「主任、冗談抜きで、その注意は守りたいんですが。」


「最適な条件は夜だ。外光が入らん。」


「いや、そうでなく……。」


伊庭が一歩だけ鏡から退いた。

袖の先がかすかに震えている。


「――“眠ってます”。まだ。」


「鏡が眠るかね。」


斎藤はスイッチを入れる。

光源が点灯し、斜入射で反射率を測る仕掛けが唸り始めた。


「記録、準備完了。」


久保が8ミリカメラを肩にあて、回し始める。

カタ、カタ……フィルムの回転音が規則正しく室内を刻む。


「では測定。入射角二五度、強度一、――」


カチ、と照度を上げた瞬間、鏡面の白がわずかに揺れた。

水面のように。


「……今、揺れましたよね。」


久保が言う。


「熱で歪んだだけだ。」


斎藤は覗き込み、鏡の中心に目を据えた。


「主任、夜に覗くなって――」


「忠告は記録した。続ける。」


伊庭が息を呑む音。

鏡の奥に、ほんの一瞬、影が浮いた。


人影の輪郭――いや、自分の背中にも見える、遅れて追いかけてくる反射。


「……撮れてます、撮れてます……」


久保の声が小刻みに上ずる。


視界の端で、何かが点った。

床。


何もない床に、丸い淡い輪が一つ。

ぽたり。


「今の、聞こえました?」


伊庭が囁く。


「配管の音だ。」


斎藤が答える前に、もう一つ。


――ぴちゃん。


「配管は“ぴちゃん”とは鳴りません。」


久保の指がカメラのボタンを強く押し込む。


「照度二。焦点固定、記録続行。」


斎藤は鏡へ更に近づいた。

息が当たって薄く曇る。


曇りはすぐに内側へ吸い込まれ、形を失う。


「主任、顔を離して……だめ、近いです。」


「問題ない。」


鏡の中心に、黒い点が生まれた。

瞳孔のような黒。


その周りに白がじわりと広がり、薄い虹が縁を描く。


「……目?」


伊庭が一歩退く。


「誰かの目が――」


「散乱だ。光の。」


言い切る声が、わずかに遅れて自分に戻ってきた。

斎藤は気づく。


反響が“鏡から”返ってくる。

カメラが急に唸り、回転音が荒くなった。


「あれ、映りが――熱で?」


「何が起きてる。」


斎藤が振り向く前に、久保が叫ぶ。


「主任、画面が焼けていく……!」


焦げる匂い。

フィルムの端が茶色に波打ち、画面が真っ黒に沈む。


同時に、時計の秒針が“コト”と止まった。

文字盤は深夜零時――十二秒で静止。


「停電ではない。照明は生きてる。」


斎藤が腕時計を叩く。

動かない。


「ほら、やっぱり。」


伊庭の声は震えて、しかしはっきりしていた。


「夜に覗くな、って。」


「科学は夜を恐れない。」


斎藤は鏡へ視線を戻す。


「もう一度、――」


そのときだ。

鏡の奥で“自分の背中”が、わずかに肩を揺らして笑った。


反射じゃない。

こちらとタイミングの合わない口角。


「……今の、見ましたか。」


久保の声が消え入り、カメラが空回りする。

――ぴちゃん。


音が近い。

床の白い輪が二つ、三つに増えている。


どこにも水源はない。

伊庭が鏡を見ないよう、視線を床に縫い付けたまま言う。


「“見る”って、祈りに似てます。祈りは、返ってきます。」


「返礼を期待していない。」


斎藤は端末に手を伸ばし、記録ボタンを押し直す。


「私が求めるのは再現性だ。」


「主任。」


久保が小声で、しかしはっきり言う。


「再現されるのは、僕らの方かもしれません。」


沈黙。

鏡面の黒い点――瞳は、こちらをまっすぐに捉えたまま動かない。


秒針は、十二のまま。

空調の風すら、少し遅れて戻ってきた気がした。


「実験は一旦ここまでだ。」


斎藤は決断し、機材の電源を落とす。


「明日、外光下で――」


「主任。」


伊庭が呼ぶ。

鏡の縁を見ないまま、耳で確かめるように。


「今、鏡、笑いました。」


「笑わない。」


「笑いました。」


――ぴちゃん。


三人とも動けなくなった。

音だけが室内を歩く。


斎藤はようやく視線を外し、記録用ノートを開いた。

ペン先が紙を滑る。


《第一夜、反射面に遅延像。水音。時刻停止、00:00:》


書いたはずの文字が、インクの縁から薄くほどけていく。

滲み、消える。


「……記録が、消える?」


久保が青ざめる。


「え、ちょっと、これ、写真を――」


焦げたフィルムの最後のコマが、暗室のランプに透けた。

黒の海の真ん中に、ひとつだけ白がある。


瞳。

その下に、とても薄い、英字の傷が刻まれていた。


――FROM INSIDE


誰も声を出さなかった。

斎藤はノートを閉じ、鏡から目を外さずに言う。


「……続きは、明日だ。」


秒針は動かない。

ただ、遠く近く、どこからともなく。


――ぴちゃん。


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