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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Prototype

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11/19

第1章「視線の音」

本作「REFLECTORリフレクター Light Nobels版 ~ Prototype ~」は、短編小説(エピソード0〜9)の内容を再構成し、ライトノベル化した「REFLECTORリフレクター Light Nobels版 ~ Observation ~」の前日譚にあたる物語です。


――最初の“観察”は、愛から始まった。


だが、それが「装置システム」へと変わるまでに、どれほどの命と記録が犠牲になっただろう。


Prototypeプロトタイプ』は、後に“観察装置”として知られる《REFLECTOR計画》の原点を描く物語です。


ここで語られるのは、科学と感情が交錯した最初の実験――すなわち、「人間がどこまで“他者を理解できるか”」という禁断の問いに挑んだ研究者たちの記録です。


本作では、知識や理論の背後にある“祈り”や“孤独”にも焦点を当てています。


観察とは、ただ見つめることではない。


そこには、見つめずにはいられなかった理由と、見つめたことで壊れてしまう何かが、必ず存在するのです。


あなたがこの本を手に取った瞬間から、その観察は再び始まります。

――どうか、この物語を「傍観者」ではなく、「記録者」として読んでください。

「ねえ、お父さん。いま、誰かが見てる。」


そう言ったのは、実験室ではなく、自宅の暗い居間だった。

久保泰志は、娘のその言葉を最初は幻聴だと思った。


病室で光を失ってから三ヶ月。


光が見えないはずのその瞳が、誰かを見返すように動いたのだ。

――“見られている感覚”。


人はそれを、恐怖や不安の文脈で語る。

だが久保にとっては、それがすべての始まりだった。



「視線は、音になるんです。」


その一文で始まる論文を、久保は十年前に発表した。

視覚と聴覚の神経回路が同調したとき、人は“見られる音”を知覚する。


これは幻聴ではなく、量子レベルの干渉――そう仮定した。

彼が呼んだそれは、「視線干渉現象」。

 

論文は学会で嘲笑された。


「霊的」


「オカルト」


――そんな言葉が飛び交った。


だが久保は気にしなかった。

娘の声だけが、真実を知っていたからだ。

 


ある夜、久保は病室に録音装置を持ち込み、娘の傍で眠った。


静寂の中で、微かな“ぴちゃん”という音がした。

水がないはずの部屋で。


翌朝、彼は波形を解析した。

心拍でも、環境音でもない。


だが音は、人の視線と同期していた。

 

その翌週、久保は助手を連れ、国立神経科学研究所の実験室に籠った。

視線の向きと音波の相関を測る――それが最初の“観察実験”だった。


壁の向こうから覗く高感度センサーが、光より速く“誰かの視線”を検出する。

結果は異常だった。


視線を向けるたび、装置の水面が震えたのだ。

 

「光ではなく、意識が揺らしている……。」

 

助手が息を呑む。

久保は震える指で記録ボタンを押した。


それが“視線の音”――REFLECTOR計画の最初の記録だった。



◆ 

翌月、研究所に新しいメンバーが配属された。


若くて、冷静で、妙に無表情な男。

工学系出身、名は高槻貴之。

 

初対面の印象は“透明な人間”だった。

声に抑揚がなく、常に何かを計算しているような目をしていた。


久保の理論書を手に取ると、最初の一行だけを読んで、「意識を波として扱うのは間違いです」と言った。


久保は笑った。


「間違いだとしても、測れるなら正しいでしょう?」

 

高槻は一瞬だけ、目を細めた。


「では、測ってみましょう。あなたの“祈り”を。」

 

その夜、彼らは初めての共同実験を行った。

二つの観察装置を対向させ、人間の視線を“干渉波”として記録する。


画面上の波形が重なり、ふたりの視線が一点で交わる。

その瞬間、音が鳴った。


“ぴちゃん”――水が弾けるような、小さな音。

 

「これは……何の音だ?」

 

「あなたの視線です。私のも。」

 

高槻の瞳に、装置のモニターが映り込む。

久保は、その中に自分の目を見た。


鏡のような、反射する世界。


二人はそれを、意識反射と呼んだ。



それからの日々、彼らは研究に没頭した。

久保は「意識反射理論」と名づけ、論文化を進めた。


観察は存在を変化させる。

視線とは、世界を描き換える行為だ――。


高槻はその理論を実装するために装置を設計し始めた。

 

「観察の原理を証明したいなら、観察を機械に任せるべきです。」

 

「それは違う。装置に心はない。」

 

「だからこそ、偏らない観察ができるんです。」

 

夜を徹した議論は、次第に哲学から告白に変わっていった。

高槻の妻・ユミが研究所を訪れたのは、その頃だ。


彼女は音響学の研究員で、久保の論文に共感していた。


「視線の音、聞こえる気がする」と微笑むその声は、まるで遠い水面に触れるように、静かだった。

 

彼女が微笑むたび、実験装置の波形が微かに揺れた。

観察と感情は、同じ周波数で共鳴する。


久保はその事実を恐れた。

――観察が、愛情に似ている。

見つめることで、存在を確かめる行為。


それは祝福か、呪いか。



やがて装置の試作機が完成した。


名称《REFLECTOR-α》。


高槻が命名したその言葉に、久保は一抹の嫌悪を覚えた。


「反射する者」。


それは観察対象ではなく、“観察そのもの”を意味していたからだ。

 

実験当日。


久保は記録席に座り、高槻が装置のパネルを操作する。

ユミは静かに水槽の前に立った。


その顔には恐怖も迷いもなかった。

まるで自らを映す鏡を見つめるように。

 

「準備完了。反射角、臨界域まで上昇中。」

 

「――始めてくれ。」

 

装置が低い唸りを上げる。

空気がわずかに震え、ガラス越しに光が揺らぐ。


ユミの瞳が装置を見つめた。

久保もまた、その視線を見た。

そして、“音”がした。

 

“ぴちゃん”。

 

音は、一度だけだった。

だが確かに、誰も水を触れていない。


久保の背中に、冷たいものが走った。

高槻はただ、黙って波形モニターを見つめていた。

 

その波形は、二つの視線が一つに重なった形をしていた。




翌朝、久保はユミから一通の手紙を受け取った。


“もし、私が見えなくなっても、あなたたちは私を見つけられる?”


文字の下に、水滴の跡が残っていた。

インクが滲んで、形を失ったその跡が、久保には“眼”のように見えた。

――それは、観察が愛に変わる瞬間だった。

 

彼はその日、日誌にこう書き残した。


> 「観察の音は、誰かを思う心臓の鼓動に似ている。

>  だが、その鼓動を止めたとき、世界はどんな音を立てるのだろう。」


この記録がのちに「観察暦 O.C.-10/視線干渉第1報」として《REFLECTOR計画》の正式な出発点に登録されることを、その時の彼はまだ知らなかった。



夜更けの実験室に、ひとり残った久保は、録音機のスイッチを入れた。


静寂。


それでも耳を澄ませると、微かな“水音”が聞こえる。


装置の電源は切れている。

だが、どこかで誰かが見ている。

 

「……そこにいるのか。」

 

彼は、闇に向かって問いかけた。

答えはない。


ただ、再び音がした。

 

“ぴちゃん”。

 

その瞬間、モニターが勝手に点灯し、記録ファイルに時刻が刻まれた。


00:00:12


――それがすべての始まりだった。


> “視線が世界を揺らすなら、祈りは観察の原型だ。”

> — 久保泰志「意識反射理論ノート(未公開)」

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