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社畜にとってはお上の会議よりも今目の前の現場が大事

「近頃、化け物たちの被害が拡大しています。隠しきるのも限界が……」

「しかし民間に知らせるわけにもいかんだろう。そんなことをすれば大パニックだ」

「このままだと疲弊するだけだな、早急に解決策を」

「あったらやってんでしょうが!!」


どうもどうも、こんな堅苦しいところからこんにちは。山田太郎でーす。今日は会社の定例会議に来ております。実はこの会社、三人だけなんかじゃ全然ないワケ。とんでもなくでっかい人数が動いているのだ。


「ねえねえ小西ちゃん、俺飽きちゃった」

「我慢するしかないよ、私たち平社員が何とか言えるもんじゃないんだから」

「そうだぞ、山田」

「社長はせっかく名前が社長なんだから、もうちょっと偉い人であってよね」

「無茶言うな」


その会社のお偉いさんたちが議論(笑)をしまくっている間、俺たちは待機席で話し合う。一応呼ばれはしたものの、形式上の物で俺たちに発言権はない。現場の人間は隅っこで立っていることしかできないのだ。

そんな中、話しかけてくる人間が一人。


「あれまあ、第五部隊の方々やないの。久しぶりやなあ」

「あんたは……第九の」

「第九部隊隊長、葉山吉秋や。もう忘れてしもたん?」


全国で地域ごとにそれぞれ二部隊ずつ配属されている戦闘特化軍が存在する。俺たちはそのうちの関東都市部を守る部隊に当たる、第五部隊だ。

一方、このキツネ目のいかにも胡散臭い風袋を持つ男は第九部隊。京都を中心に近畿の北部を守る部隊である。


「まさか、忘れるわけねえだろ。お前みたいな胡散臭い男」

「言いよるなあ、俺からしたら自分から社長名乗ってる方が胡散臭くてかなわんわ。どう?山田くんに小西くん。京都に来ん?」

「遠慮しておきます」

「俺も、引っ越し面倒なんで」

「そりゃ残念や」


そう言いつつも表情は全くと言って変わらない。正直何を考えているのかが全く分からないので、関わり合いになりたくない相手である。定例会議に来ると勿論他の部隊の人間ともかかわることになる。正直面倒くさい。


「それで、そっちで何かいい情報でもあったのか?」

「全然、といつもやったら言ってるやろうけど……あったで。悪い知らせが」


その言葉に、俺たち第五部隊……いや、全戦闘員の目が変わった。


「へえ、何があったんですか?葉山サン」

「これまでも、バケモンらの知能がだんだん上がって来とったことは知っとるやろ?」


どんどん数を増やす化け物たち。人間の知能指数と人口の関係と同じように、化け物たちも数が増えるごとに知能を高めていった。しかし、それらは人間に及びはしない。せいぜい群れることを覚えたり、狡猾に隠れたりすることくらいだった。


「アイツ等、とうとうやりおった……人間の体を乗っ取りおったで」

「!?そ、れは……お前、まさか」

「そのまさかや。……今この瞬間にも、この世界のどこかで化け物が人間に成りすましとる。いつ誰がやられるかもわからんし、どうやって中に入ったんかもわからんのや」


葉山さんの額に汗が流れ、いつもの笑顔が強張り深まっている。彼はなかなかの実力者で、そんな彼がこの態度というのは、なかなか危険な状態ということだ。

しかし、今すべきはここで物怖じすることではないだろう。


「葉山サン」

「山田くん。どないした?」

「どうやって化け物が人に乗っ取ってるってわかったの?見分け方はある?」


そう言われて、葉山さんは少し驚いたような顔をした。先ほどまであった冷汗は微塵も見られない。いつもの飄々とした顔つきで、彼はタブレットを取り出した。


「流石、教育舎の最高傑作様やな。勿論用意しとるで、その資料」

「やったァ、早く見せて」

「ちょいと待ちな」


タブレットを起動し、スクリーンと同期させて映し出す。映ったのは中年の男と、その体に巻き付き、地面に飛び散る暗緑色のスライムだった。合間から見えるその顔色や瞳を見る限り、死んでからずいぶん時間がたっているようだ。


「長谷川達夫、45歳。現場突入時、奥さんと子供はすでに化け物たちに食い殺されとった。寄生しとったんは一番低級のスライムが数百体や」

「体内は調べた?」

「いいや、まだ。流石に化け物殺しの部隊では検死解剖はできひんからな。今日の会議の本題はそれやねんけど……」


葉山さんは上層部の話し合っている席を見遣って言った。


「まだそれどころじゃないらしいわ。まあ、会議は二三日かかるからな。今は前哨戦なんやろ」

「無駄ばっかりだね、あの人たち」

「まあ、本部から遠い地域の隊長たちからすれば、いい羽根伸ばしの機会やから助かるわ」


そう言って笑うその頭の中には、仲間たちへの心配はなさそうだった。昔、一月だけこの人と組んだことがあるが、鍛え方がとんでもなくスパルタだった。ちょっとやそっとでは死なないと思っているのだろう。今の人たちはそれに耐え抜いているのだから本当にすごい。拍手拍手。

まあ、人口が多い場所の部隊ほど強い人が集まるから、それも必然かもしれないが。


「で、発見時からこのグッロい状態だったの?」

「………いや、そうやない」


曰く、最初は近隣住民からの通報だったらしい。何かが腐ったようなにおいがするが、インターホンを押しても何も反応がない、と。警察が出動したところ、最初は何も変わりのない一般人が出てきたそうだ。それが今回の被害者・長谷川達夫さん。

しかし、話しかけても言葉が少なく様子がおかしい。大丈夫ですか、と肩に手を置いた一人が化け物に殺されたので、第九部隊が突入したそうだ。


「ふーん……その時点で長谷川さんは死んでたの?」

「ああ、せやな。死後硬直も終わってたくらいやし、かなり前やと思うわ」

「じゃあ、言葉を話したのは化け物か……」


なんともまあ、面倒な進化を遂げてくれたものだ。そう考えながら唇を触っていると、横から小西ちゃんの手が伸びてきた。


「失礼します、葉山部隊長。先ほど、妻子は食い殺されていたと言っていましたよね。それはいつ頃ですか?」

「遺体の損傷が激しすぎてまだわかっとらんのやけど、まあ二三日くらいちゃうか?冷房の効いた部屋でも腐敗は進むし、今回は空気に触れる面も多かった。大体腐敗臭がするのが一から三日や。そこから通報して俺らが出動するまで、時間はかかっとらん」

「では………被害者が殺されたのは?」


そう問いかけている間も、彼女は資料の写真をスクロールし続ける。凄惨な写真が続いたからか、何人かは退室したようだ。まあ、人間の死体を見ることなんてないからだろう。俺たちが見るのは主に化け物の死体で、人間の死体は都市部の部隊でなければ見慣れない。


「それよりも前やな。損傷のあった頭部が特にやけど、全身の液化が始まっとった。膨張もひどいもんやったで」

「それなら……気になる点が一つ」


小西ちゃんは一つの写真を取り出し、それをズームした。被害者の正面から撮った写真だ。


「どこにも血液が付着していません。スライムであれば皮膚の血液は舐めとれても、服にしみ込んだ血液をとることは不可能です」

「ということは……スライム以外の化け物がおった」

「もしくは、服を着替えるだけの文化的側面が化け物に存在した、かな?まあ葉山サンのほうの線が色濃いね」


そう言ってから考えこむ。なるほど、確かに事態は深刻だ。しかも初めて分かったことばかりで、まだ対処法が掴めていない。京都だけなのか、それとも他の地域にも増えて行っているのか。そこで社長が口を開いた。


「………なら、不味いんじゃねえか」

「「「?」」」

「もうすぐゴールデンウィークがやってくる。人に乗っ取れるなら、地方にまで移動できる絶大なチャンスだ」

「……確かに、今までは移動するにも俺らの目を気にしとったけど……人間の体を遣ったらそうする必要もなくなるわな」

「ちょっと前に案が出てた化け物判別装置はどうしたの?」

「結局予算が下りなかったでしょ………本当に手詰まりですね」


全員の顔に焦りが見えた。俺の額を冷や汗が伝うのが感じられる。ああ、何か俺たちに超能力的な力があって、すべてを解決できれば良かったのに。そんな意味のないことまで考えてしまった。


「こればかりはどうしようもないな。……連休中に移動する人間をいちいち解剖するわけにもいかん」

「かと言って表に公表すれば大パニック!日本の秩序はぐちゃぐちゃやな」

「完全な外出自粛なんていうのもできないし……」

「もう全員何も言わず自宅待機しててくれないかな。民主主義って面倒だね」

「それもずっとは出来ないでしょ?」


違いない。そう言って全員でため息をつく。若干の現実逃避があるのは無視してほしいものだ。現時点でできることは何もない。ただひたすらに一般人が化け物に殺されるのを見ていることしかできないのだ。


「だー!!」


そう叫んで社長が頭を掻きむしる。


「つべこべ言っても仕方ねえ!もともと俺たちがやってんのは対処療法なんだ、この何十年も無理だったことを今ここで話し合ったってなんにもならねえよ!!………俺たちにできるのは、少しでも化け物を減らすことだけだ」


キッと前を……スクリーンを睨みつけて社長は続ける。


「だがな、俺たちが今こうしていられるように日本は何だかんだで生き延びてんだ。……今回もしぶとく生き残って、いつかは化け物全員撲滅してやる。そうだろ?」


俺は小西ちゃんと目を見合わせ、そして笑った。


「そりゃそうだ!にしても楽観的過ぎるでしょ、社長!」

「んあ?俺ァできると思ったから言ったんだよ」

「それなら現場に出れるくらいには強くなってもらわないと困りますよ、社長」

「この隊で一番堅気じゃない雰囲気出してるのによわよわなんだもんね!!」

「いや、俺オペレーター!情報の整理が仕事なの!!」


いつもの雰囲気が戻ってくる。一気に緊張していた空気がほどけていった。そんな中で茫然としていた葉山さんは、肩の力を抜き苦笑いで言う。


「まあ、せやな。いまなんか言ってても始まらんわ………もうすぐ新入りも入ってくるやろうし」

「「「は?」」」

「あれ、連絡行ってへん?……養成学校の卒業生で、戦闘部隊志望の子が今年はなんと六人もおんねん!きっと第五部隊にも一人派遣されるんとちゃうかな?」


新入り。後輩。人手不足のこの会社で。え?幻聴?幻??実在したの???

俺と社長は大きな叫び声をあげ、会議をしていた上層部からぎろりと睨まれてしまったのだった。

毎週投稿の決心は1話目投稿後に消えてしまいました…。すみません。

前話のコメントや評価ありがとうございます!


作者は社畜になったことというか、そもそもバイトすらしたことないので完全偏見です。すみません。

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