7.精霊王の日常
創成の木の精霊から色々な話を聞いてから半年くらいが経ったかな?
私は自分に与えられた自室でひたすら気ままに過ごしていた。
精霊達は私が呼ぶまでは部屋に立ち入る事もないし、初日に甘い香りのする水(花につく朝露らしい)を飲んだけど、基本的には外部からの栄養は必要としないので、時折その朝露を飲む以外は食事を摂る事は無かった。
常時星の力が巡っている事で、食べなくても生命維持が出来るし、清浄な星の力を吸い上げるのだから殊更に栄養満点な血液?が流れている様なものなのだ。
一応私も精霊達も食物を食べられない事は無いが、体が空腹を訴える事は無いし、食べても100%星の力へと分解してしまうらしい。
まるで霞を食べる仙人ばりにエコだ。
まあ、トイレの心配もない、なんなら汗もかかない、最強アイドル的ヒキニートボディを手に入れたと言っても過言ではない!
しかし、いきなり終わらない夏休みを貰うと、どうしていいのか分からないのが社畜の性というもの。
あれからも何度か創世の木の精霊に様々な事を聞きながら、暇に飽かして一人で飛行の練習をして、最近はなんとか飛ぶ事が出来るようになったよ。
精霊達は生まれながらに己の力が分かるようで、周りを見てその力の使い方を学習してすぐに飛び始めるらしいので、説明ができる人が居なかった。
仕方が無いので独学で学ぶしかなかったから、飛べるようになるまで結構時間がかかったけど…なんとか形になってよかった。
まあ確かに私も手の動かし方とか、足をどう動かしたら歩けるのか?なんて聞かれても"どこの筋肉にどれくらいの力を入れている"なんて説明は中々出来ないので、仕方がないよね。
でも何はともあれ飛べるようになったのは幸いだった。
自力で飛べるようになるまでは横抱きに抱えられないといけなかったから、恥ずかしさと威厳のなさで迂闊に散歩したいとも言えなかったのだから。
そうそう、創世の木の精霊だけど、いつまでも"創世の木の精霊"なんて呼ぶのも長いし他人行儀?な気がして、名前は無いのか聞いたら『特にございませんので、触りがある様でしたらお好きな名でお呼びください』とか言われて三日三晩悩む事になったわ。
悩み抜いた挙句、色々な命を育む大樹だからビオトープから-ビオ-と名付けた。
『ビオはみんなの、そして私のお母さんだからね!』と、ちょっと照れながら言ったら、目を見開いた後にふんわりと笑ってくれた。
ビオの驚き顔も笑顔もかなり貴重だから、かなり悩んだけどその甲斐があったかなと、こちらも嬉しくなったなぁ…。
お母さんなんて呼ぶのはちょっと照れくさかったけど、私はビオの胸辺りくらいまでしか身長が無いし、見た目的にはなんら問題ない。(中身もビオの方が断然長生きだしね!)
そして飛べるようになった後も色々試してたら、拳大の火や水の玉、静電気やつむじ風、石ころ程度なら出せるように進歩しました。
私ってばやれば出来るタイプのニートでした。(まだショボイけど)
後は⋯自分の服を創る事が出来るようになったよ。
何を言っているのかと思うことなかれ。
火と水が出せるようになった頃、お風呂に入りたい欲求が抑えられなくなった私は、精霊に持ってきてもらった大きな盥に水を溜めて、拳大の火の玉を慎重に近付けて沸かしてお風呂の準備をしていたのだけど、お湯も沸いていざお風呂!と、着ていた初期装備の薄ピンクのグラデーションになっているワンピースをいそいそと脱ぎ捨てた直後、脱いだワンピースがサラサラと空気に溶けるように消えてしまったのだ。
慌ててビオ母さんを呼んだのは良いけど、直後に真っ裸な自分に気づいて慌ててベッドの中にスライディングしたり、半泣きで事情を説明したりと大騒ぎしたが、必要に迫られた私は直ぐに自分の服を創る事に成功した。(初めはプールで使っていた巻きタオルみたいなのしか出来なかったけど⋯)
要は明確なイメージと、それを維持し続ける事が大切なようで、服は最初から着ていたものだったし"あって当たり前"と認識していたからこそ、脱いで"無いのが当たり前"となった瞬間に存在の固定化が外れたのだとか。
精霊は本来服も姿もある程度己の自由に変えられるらしいが、イメージが固まってないといけないので割と普段のままの姿を固定化しているんだそう。
今の私は初期装備に近い薄ピンクのワンピース姿を固定にしている。(スカートのボリュームは最初の頃より控えめにしているけどね)
そうして一人で色々出来るようになると、新たな欲が出てくるもので。
私は飽食の時代に生まれた社畜。
偶に自炊する以外はコンビニやスーパーのお惣菜ばかりで、外食する時間もお金も少なったけど、それでもそれなりには食に対する欲求はあったのだ。
「あーー…何か…食べたい!異世界グルメっ!!」
ベッドの上で寝転がりながらも両手を挙げて私は大きめの独り言を口にする。
正直平穏で変わらない日常に飽きた所もある。
しかし、この花畑には植物から生まれた精霊達しかいない為、素より固形物を“食べる”という習慣すら無さそう。
偶にお茶代わりにほんのり甘い水を飲むくらいだし⋯。
も、もしかして穀物とか食べたら花畑の子たちの共食い(親戚食い?)になっちゃうかもしれない?!
彼・彼女らがどう捉えるのかも分からない中で、迂闊に『何か食べたい』と言うのはあまりよくないのかもしれない。
私だって人間を頭からバリバリ食べるタイプの怪物に出会ったら、間違いなく恐怖で漏らす自信がある!
でも異世界物の定番だと、精霊とか妖精は甘いものとかクッキーが好きって言うけれど、その辺はどうなのだろう。
うーんと頭を抱えてベッドの上で転がるが、答えは出そうにない。
本人達に直接聞くのもあまり良くない気がするし。
「うん、よし・・・ちょっとお出かけって事にしよう!」
名案とばかりにがばっと体を起こし、いそいそと用意を始める。
まぁ用意と言っても着替えは必要無いし、居るものと言ったら⋯
「お金!!どうしよう、私無一文じゃん!」
この世界の文明レベルがどうなっているのか分からないけど、多分お金は必要だよね?物々交換だとしても物が無いし、服みたいに出せる気もするけど流石に偽造するのはヤバいよね?そもそも元の形も知らないし。
困った時のビオお母さん!
とりあえずお仕事くださーい!
ビオトープと言うと水辺のイメージがありますが、広く生物の生息・生育空間のことを指しているそうです。
(ビオだけだとドイツ語で生物の事になるようですが、主人公は日本人なので見逃してやって下さい)
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