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救助から始まる邂逅

シャボンドームの花の上、ひとしきりこの場所からの降り方を考えていた鈴だったが、ふとある事に気づいた。


下の花畑を見下ろす限り妖精らしき生き物が背中の羽で飛んでいるのだから、もしや自分も同じ種族へ転生したのではないか?

慌てて背中の方に手をやるが、そこには羽らしきものは無い。

自分は妖精ではないのか?じゃあやはり人間??


「異世界といえば…ステータス!」


特に何も起きない。


「フライ!!」


再び何も起きない。

少し恥ずかしい気持ちを抑えつつ、頭に思いつく限りの呪文(アニメ知識)を試してみるが全て不発に終わってしまった。

私、異世界に来てもただの人間のままだったわぁ…空中を自由に飛んだり魔法とか知識チートとか無いのかぁ。

少し落ち込んでしまったが、出来ない事にいつまでも時間を割いていても仕方がない。

中二病的な行動に気恥ずかしくなってきた自分の気持ちを誤魔化し、なんとか降りられそうな場所を探す。


このまま花の上に居ても餓死してしまうかもしれないし、それよりは幹からどうにか降りる場所を探したほうが賢明だろう。

早速足元の花弁の先からゆっくりと木の枝に降り、枝といっても樹齢100年以上の木と同じくらいの太さにはなっている場所に跨り、不格好ではあるがお尻をずらしながらなんとか幹まで移動する。

安全第一である。お尻はちょっと痛いし不格好だけど命には代えられないのだ。


木登り(木下り?)なんて子供の頃以来だ。

木が太すぎてどちらかというとロッククライミングの様相ではあるが、枝が生い茂っているので、少しずつ降りて枝ごとに休憩していけばなんとか下の方までいけそうであった。


木の幹の凹凸を使ってロッククライミングの要領で慎重に降りていく。

段々コツを掴んできて、やってみれば何とかなるものだなぁと、枝ごとに休憩しながらも喉の渇きと疲れを感じ始めてきた頃…


((?!))


何度目かの枝に乗る際に足を滑らせ、一瞬の浮遊感のような感覚に驚いた次の瞬間、そのまま下へと落ちていく。

恐怖で身体は強張り、悲鳴なんか出る余地も無い。

枝にぶつかるかもと考え、衝撃がくることを覚悟して目を閉じ奥歯をかみしめる。

ガサガサッ!ザザザッ!っと細めの枝葉が密集している所に落ちたが、細い枝や葉では落ちる勢いは止まらず、また下の葉の密集地に落ちて、その度に少し速度が落ちているように思えるが枝に掴まる事も出来ず、どんどん近づく地面にこのまま第二の人生終了かと思って目尻に涙が浮かんだ時、下からグイっと支えられた。


「うぎゃっ?!」


急に支えられた事で重力が身体全体に戻ってくる。

また死んでしまうかもしれないといった恐怖からの突然の事態に薄っすらと目を開くと


「え?えっと、あの…」


そこには先程の花畑を飛んでいた妖精?精霊?が居た。

作り物のような整った顔立ちにミディアムショートの青い髪、透き通った青い目は一瞬こちらを向いたかと思うと一度頷いて地上へと視線を向けた。


背中の羽は殆ど動いておらず、魔法か何かの補助的な存在のようだ。

身長は私より小さいようで小学生に抱えられているようなアンバランスさがある。

しがみついていいのか、これ以上話さない方がいいのか等、色々と迷っているうちにそっと地上へと降り立ち、ゆっくりと私を立ち上がらせてくれた。

かなり地上に近かったみたい・・・。


「あ、あのっ、ありがとうございました!」


お礼を言ってペコリとお辞儀をしたが、感情を写さない透き通る青の目がこちらを見ながら少し困惑しているような気がした。

そしてそのまま胸に手を当て、徐に跪いた。

いつの間にか自分を中心にして少し離れた所にわらわらと集まってきた他の仲間達も、前にいた子から順に胸に手を当てて跪き始め、ふよふよと浮いていた光も地面スレスレまで降りてきた。

周りをざっと見渡すと色とりどりの髪と同じ服を着た20~30人(?)くらいの精霊らしき生き物と、大小様々な大きさの丸い毛玉のような生き物に囲まれて傅かれている。


「え、えっと…?」


意思の疎通は出来ているのかいないのか、周りがキラキラしているなぁ‥なんて少し現実逃避しながらも、どうしていいか分からずおろおろしていると、最初の精霊がゆっくりと頭を上げ、こちらを見上げた。

水色から白へとグラデーションになったブラウスと、同じ色のキュロットが花のように広がっている。

先程助けてくれた時は小さいと思っていたが、周りで跪いている子よりは幾分か大きなその精霊は、両手でゆっくりと鈴の右手をとって、手の甲にそっとキスをした。

なんとなく体の中を温かい何かが廻ったきがする。

そして身体のあちこちに出来ていた擦り傷の痛みが引いていく。

これは回復魔法ってやつ??


その光景を呆然と見ていると、かすかな声とも羽音ともつかないシャラシャラといった音がゆっくりと花畑に広がっていく。

一先ず歓迎はされているようでほっと胸をなでおろす。

そして手の甲にキスをしてくれた精霊が立ち上がると自分の胸元くらいまでの少し小さな体躯に整った顔立ちがこちらをそっと見上げてきた。


―――頭に直接喜びの感情が届く


どういう原理なのかは分からないが、この喜びの感情は目の前の、そしてその後ろに控えている精霊達の感情という確信がある。


「えっと、歓迎してくれてありがとう?」


―――ざわりと喜びの感情が一層ふくらんで直接届いてくる


一先ず未知との邂逅は無事に済んだようだ。

しかし‥なんか歓迎というよりは最早崇拝されているような気がする。

若干の気恥ずかしさを感じてどうしていいか分からないでいると、こちらを見上げていた妖精が口を開いた。


「復活…歓迎。城…案内。」


片言の言葉が紡がれた後、再び手を取ってから羽をすこし動かして浮かび上がる。

どうやらどこかに案内をしてくれようとしているようで、手をつないでいる鈴の身体も一緒にふわりと宙に浮かび上がった。

抱き上げていなくても、手をつなぐだけで一緒に浮けるらしい。

再び青い精霊に連れられて、自分が先程居た木の上の方まで上がっていく。


先程は落下して目を瞑ってしまっている間に通り過ぎたようだが、木の中ほどに奇麗なツリーハウスがあり、どうやらそこへ案内してくれていたようだ。

正面には広々としたウッドデッキが張り出しており、外壁は縦に走る木目の美しい板張りで覆われ、屋根は斜めに傾斜した板葺き。

そして家の部分の3分の2程は木にそのまま埋まっているような不思議な外観である。


一体誰がいつこの家を作ったのか、後ろ側あどうなっているのか、気になりつつもデッキに降り立つと、案内してくれた精霊は自分の胸に手を当ててお辞儀をしてから先程の花畑の方に降りて行った。


え?案内ってここまでなの?私、ここ入っちゃっていいの?

おーい・・・、置いてけぼりなのーー?!

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