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晴天の目覚め

目を閉じていても感じる日の光を受けて軽く身じろぎする。

朝日が眩しいなと眉を寄せて少し目元をこすった後、その事実に一拍遅れて気づき、一気に目が覚める。


「仕事!!というか今何時⁈」


最近はずっと朝日が昇るより前に仕事に向かっていたので、慌てて時間を確認しようとした所で固まった。



――自分が今いる場所がどこなのか分からない。



おかしい、自分は確かに自宅のベッドで寝ていたはず。

それなのに気が付いたら体育座りのような態勢で体の周りを不思議な素材に囲まれている。

上の方は光を透過しているので明るいし柔らかいのだが…この物質は一体何なのか。

混乱する頭でとにかくもがいて、周りの不思議素材をどけようと身動きしていると急に周りの物体が外側に向けてふわりと開いていく。


「は?…いやいやいや、え? 嘘でしょ⁈」


異世界転生とか、剣と魔法の世界に行きたいだとか、流行りものの話に乗ったことはあるが、自分が実際になると話は別な訳で…。

嘘でしょ⁈アラフォー独身女が何の因果で?!?!というか自分は今どこでどうなっているの?!?!


一気に色々な疑問が浮かんできて混乱はピークに達した。


混乱しながらも上を見上げると青空が広がっており、体の周りを幾重にも覆っていた花弁は少し離れた所まで広がっており。足元は小さな花弁がぎゅっと重なってベッドのようになっている。

そう、不思議素材と思っていた周りを囲んでいたモノは開いていく姿からしても花弁としか言いようがないのだ…そしてその真ん中にいるアラフォー…。


「一体なんなのこの展開…。」


牡丹に似てるような花の真ん中で、幾十もの開かれた花弁の中で独り言ちる。

周りは花弁が壁になっておりよく見えなかったが、かき分けて周囲の確認をすると自分のいる場所より遥か下の地面には花畑となんかキラキラとした光りのファンタジー極まる光景が見えていた。

不安やら疑問やらが浮かんでいた自分の思考を一蹴するかのようなその長閑な光景を目の当たりにして、鈴は思考を放棄した。


「とりあえず…もう一回寝よう…。」


花の中央でばさりっと音を立てて横になり、所謂寝逃げをする。

もう仕事に行かなくて良いなら二度寝だって良いはずだ。

夢だったとしても目覚ましが起こしてくれる筈だし。

リストラを告げられた時よりも強い衝撃とストレスで足元から崩れていくような幻覚に襲われながらも、きっと夢に違いないとそう強く思い込む。


漫画やアニメをよく見ていた頃は自分もここではないどこかに転生したいとか言っていたけど、実際に体験するとなると話は別なのよ。

今更「俺最強!」とか掌から熱光線が出るとかそんな夢見るお年頃ではないのよ。

…酔った勢いでたまに試すのくらいはセーフだよね?

超能力とか念力とか、そろそろ使えるかもとか思った夜があっても良いじゃない!どうにか浮こうとしてもビームを出そうとしたって、人に迷惑かけてなければセーフよ!



◇ ◇ ◇



二度寝をしっかりととった後、恐らく昼頃に再び目を覚ましたが、状況は全く変っていなかった。

どうも、親指姫(仮)です。


まだ夢の中なのかと頬をつねったりもしたが、思いのほか強くつねってしまい、痛みに涙が浮かんでしまった。

残念ながらどうやら夢ではないらしい…。

覚えている限り、特に超次元的な存在や自称神様にも逢っていないし、トラックにも轢かれてもいない。

恐らくは連日の過労で死んだのかとは思うが確証はない。


実家とは若い頃に縁を切っていたし、交友関係も狭かった自分は今までの生に大きな未練は無い。

強いて言うなら自分の貯金や保険金がどうなったのか確認できない事と、数少ない友人にお別れが出来なかった事くらいかな。

特に今の家を借りる時に保証人になってくれていた友人には本当に申し訳ない。

溶ける前に見つかると良いんだけど…迷惑をかけてごめんと謝ることすら出来ないので、以前に話していた封筒を活用してくれると良いのだけど…。


会社の方は引き継ぎ書も完成したのだし、流石に後は自分たちでなんとかするだろう。

というかあの人たちはもう少し苦労をすればいいのだ…。

どうか少しでも苦労と後悔に塗れますように。


そんな願いと呪詛のような思いが次々と浮かびながらも、どこかで牧田鈴としての36年間はあっけないものだったなと諦観する。

自分の気持ちに折り合いをつけるためにしばし膝を抱えて蹲った後、気持ちを切り替えて改めて周りの状況を確認していく。


自分の居る花の下の方には一面の花畑…そしてファンタジーの定番とも言える妖精だか精霊だか言われるような小さな生き物が、かすかな光を発しながらふよふよと花の上を行ったり来たりしているのが見て取れる。

・・・幻・・覚??邪な感じはないし、今は気にしないようにしよう。

そして周りをよく見ると自分のいる木の辺りを中心にして、透明なドーム状の薄いシャボン玉のようなものが覆っており、ドームの外側は森に囲まれているようだった。

見える限りではだが、一先ずこのドームの中には大きな生き物とかは居なそうだ。

先程は寝ぼけていた事もあって周りの確認も疎かなまま眠ってしまったが、改めてよく見てみても天敵らしき生き物どころか、花と花を行き交う小さな生き物しかいない。


一通り周りの状況を確認した後、今度は改めて自分の体を確認する。

手足は何となく今までよりもすらっとした印象で、最近気になっていた肌の様子も子供の頃のように奇麗になっている。

残業続きでゴリゴリに凝っていた肩や背中もすっかり軽くなっているし、どこからともなくエネルギーが湧いてきているような不思議な感覚すらある。

視界の端に垂れ下がってきた髪はプラチナブロンドで、純粋培養日本人だった自分の黒髪ではない事からも、やはり“転移”ではなく“転生”的なものをしてしまったのだと結論付ける。

鏡が無いから分からないけど、触った感じの目鼻立ちは悪くないように思う。

これはいよいよ《転生ハーレム》とかそっち系なのかしら!鏡!誰か鏡を貸してくださいっ!などと考えつつ、一人でニヤニヤしているうちにある事に気が付いた。


鈴が今居る場所は花畑の中で異彩を放つ大きな木の一番上の方の牡丹に似た花の中。

いくら体が軽くなったとはいえ、ここから降りる術が思いつかない。

木登りをした記憶なんてとうの昔。自分が今居る花の上もある程度の広さがあり、この木自体も自分の今の身長の何十倍もの高さがあるように思える。


「もしかして、足を滑らせたら一貫の終わりってやつ…?」


異世界花が大きいのか自分が小さいのか、比較対象が居ない今現在では知りようもないが、とにかく自分はここからどうしたら降りられるのかもしやこのまま第二の人生をこの大きな花の上で呆気なく終えてしまうのではないか・・・想像して一気に血の気が引いてい途方に暮れてしまう。


誰か―、ヘルプミー・・・

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