10.精霊王旅に出る 2
ザクザクと枯葉の上を踏みしめながら森を歩く。
鬱蒼とした木々の森は人の手が入っていないようで、大きな木の根が凸凹を創る地面の隙間には枯葉がこんもりと溜まっており、踏みしめる度に足に伝わる感触が楽しい。
人間だった頃には歩いて移動する煩わしさから、『空を飛んで通勤したい』『瞬間移動ができたら…』なんてよく考えていたのに、いざ飛べるようになると歩いて移動する方が楽しいとか現金なものである。
まあ飛んだら飛んだでコントロールが難しく、下手な高さで移動すると木や枝にぶつかりそうになるので、飛べるけど飛べない状況なのだが…。
まだまだ集中しないと小回りが効かないので、森の上を移動する訳でないのなら歩いた方がマシなのだ。
因みにスイは私の後ろを少し浮かんで着いてきているので足音は1つだけになっている。
(私ももう少し飛ぶ練習を頑張ろう…)
私の周りを飛ぶ精霊球達も歩くのと同じくらいの速度でフヨフヨと私の周りを浮かびながら移動しているが、時折周りの木や草花の辺りまで行ったり来たりしている。
恐らく終の住処となる家探しに余念が無いのだろう。
彼等が宿る対象は主に植物系らしいが、ごく稀に相性の良い動物などにも宿る事があるのだとか。
仮に動物に宿ったとしても、年若い精霊球ではそこまで強い力は無い為、宿った動物の意識をコントロールするる事は難しいらしい。
宿った動物の本能を行動原理として生活し、時間をかけて徐々に一体化していくのだが、元々が主張の少ない子達ないので多少寿命が伸びる程度で、特に変わりなく動物の本能のまま暮らしていくのだとか。
因みに植物に宿った精霊球が長い年月を経て徐々に木と一体化した精霊が何らかの刺激で精霊として再び意志を持つようになった個体が"ドライアド"や"花の妖精"になるのだという。
そんなビオ母さんに聞いた精霊に関する話を思い出しながら歩くこと暫く、ふと気付くと私の周りを飛んでいた精霊球の1つが私から離れてフヨフヨと木立の間に進んだかと思うと、そのまま1本の気に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「え?……えっ?!」
混乱して周りを見渡すも、周りを漂う精霊球の数はやはり1つ足りない。
視線を戻しても、そこには木が立ち並ぶ代わり映えのしない森の風景。
代わり映えのない視界の中、どの木に入っていったのかさえ分からなくなりそうだった。
「いや、そんなシャボン玉みたいになんのアクションも木が光るでもなく、スっと入ってそれでお終いなの?!
お別れの挨拶とか木のまわりで"これだっ!!"的なリアクションとかないの?!」
思わず突っ込ん出しまった次の瞬間、先程精霊球が消えた辺りにあった1本の木が急に眩い光を放った。
「うぎゃぁぁっっ?!」
直視してしまった閃光が目潰しのように一瞬で視力を奪い去り、慌てて腕で目を隠すも時すでに遅し。
次の瞬間には光は止んでいたようだが、私の視界は暫くチカチカしたままだった。
暫くして視力も落ち着いてからあの光は?とネモに問いかければ、なんと私に対する挨拶だったようだ。
私が迂闊にした発言は、〔王の求めるリアクション〕という事になってしまったようで、既に木に一体化し始めた精霊球が出来るリアクションが光る一択だった為に最大効果の目潰しとして発揮されたのだとか。
しかもその一瞬の閃光にかなり力を使った為、暫くはゆっくり星の力の循環をしながら回復する必要があるとか…。
一瞬しか光る事が出来なかった事を謝罪している(らしい)とか。
「い、いいのいいの!光って欲しかったとかじゃないから!変な事言って本当にごめんなさい!!貴方たちも光らなくて良いんだからね!?少しお別れの前に挨拶とかしてくれたらそれで良いからね?!」
木に向かって慌てて釈明した後、グリンと顔をほかの精霊球にも向けて懇願するように言って聞かせる。
なんとなくだけど、やる気満々だった精霊球達は少し残念がっているような、そんな雰囲気を感じる。
「いやいや、毎回身を削って閃光出さないで!私の目の為にも切にお願いします本当に!!」
その後暫く話し合い…というか説得をして、次からお別れの時は一旦こちらに戻って私の周りをクルクル回ればOKというルールが出来てやっと納得してくれた。
少し進むごとに気に入った木や花を見つけた精霊球が、お別れの挨拶をしてから木立にスっと入っていく。
なんか入った後にほんのり光ってる気もするけど、フラッシュって感じでは無いのでセーフとした。
君達、早く光るのやめなさいね、かぐや姫と間違われるよ。
そうしていよいよ最後の1体になった頃、ふと何かの鳴き声が聞こえて上を見上げると、ポテっとしたお尻の生き物がキューキュー言いながら木の枝に引っかかっていた。
体色は全体的に茶色くイタチのようにも見えるが、如何せんお尻にかけてポッテリとしているし、尻尾はタヌキのような縞模様が入っているがとても短い。
手足も短いようで、木の枝にギリギリしがみついてジタバタしながら只管助けを求めて鳴いているようだ。
後ろに控えていたスイを振り返ると、ひとつ頷きを返して浮かび上がり、救出に向かってくれた。
いやぁ、頼れるボディーガード兼道案内兼通訳その他万能なスイさんのお陰でかなり楽だわ。
スイに救助されるイタチもどきを木下から眺めていると、身体に似合わず長い爪が枝から外れた瞬間に身動ぎをしてスイの手から落ちてしまう。
「あぶっっ!……ぐぇっ!」
危ないと言いかけた言葉は一瞬の出来事にかき消され、そのまま顔面に重みを感じて後ろに倒れる。
心配したスイに助け起こされながら起き上がると、先程まで自分の周りを飛んでいた最後の精霊球の姿はなく、ほんのり光るイタチもどきがスイの手に掴まれている。
「み、見間違えじゃ無かったかぁ……」
思わず顔面に手を当て項垂れる。
そう、先程の一瞬の出来事の中で声が遮られたのはイタチもどきが顔面向かってダイブを決め込んで来ただけではなく、空中で漂っていた精霊球へ覆いかぶさった瞬間にスっと中に取り込まれてしまったのが見えたのだ。
本人(本精霊)の意志で中に入ったのなら良いのだが、如何せん事故みたいな入り方だったのでそこに意思があったのか分からず、かといって1度入ってしまうと無理矢理引き剥がすことも出来ない。
「どうしようコレ…」
スイも少し困ったような顔でこちらを見ているし、どうやらこの謎生物とは意思の疎通が思うように出来ないらしいので、仕方なく持ち帰ってビオ母さんに見せることにした。
餅は餅屋、精霊の事は精霊に。
因みに自分自身の事は高い棚に上げる。新米だし許して欲しい。
お読み頂きありがとうございます。
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仕事のトラブル対応に加え、自宅PCが急にクラッシュして中々落ち着いて書くことが出来ない日々になってしまいました。
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