表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

第七話:私の名前は、エル?

温かい……。


突然差し出された彼の服は、粗野な手つきながらも、彼の温かさが冷えた体にじんわりと染み渡るようだった。わずかながらも感じた人間の優しさに、私の心は小さな灯火が灯ったように、ほんのりと温かい。


金色の髪をそっとかき分けながら、彼の服に袖を通す。

少しばかり大きすぎるけれど、古代の森を出てからというもの、ずっとまとわりついていた寒さから、ようやく解放された。それにしても、この世界には警察のような機関はないのだろうか? 厄介な事態に巻き込まれるのは、どうしても避けたいものだ。


彼は両手を上げて、私に危害を加えるつもりがないことを示している。彼の瞳には、敵意は見えなかった。ただ、静かに、心配そうに私を見つめている。


(……この木こり、何を言ってるんだろう?)


彼は何かを話しかけてくる。けれど、言葉はまるで分からない。

それでも、私のことを気遣っているのは伝わってくる。


何度か、小さく息を吸い込み、彼の瞳を見つめ返した。伝えたい気持ちはたくさんあるのに、喉が乾いて、うまく声が出せない。

それでも、伝えなければならない。この異国のような場所で、私がひとりであることを。


緊張で声が震え、言葉にならない空気が喉を震わせる。


「……しら、ない……」


違う。伝えたかったのは、こんな中途半端な言葉じゃない。

もう一度、深く息を吸い込んだ。彼の優しい瞳が、私を励ましてくれるように見える。


「……しらない……せかいで……」


まだ、声は小さい。音にならない。


「……私は、エルフになっていた……」


そう言いかけたとき、彼の口から音が返ってきた。


「エル……?」


けれど、確かにそれは、私が知っているエルフの単語に聞こえた。

彼の言葉に、私の心臓は大きく跳ねた。彼の発音は、どこか独特だ。それでも、伝えたかった音が、彼に届いた喜びが、胸にじんわりと広がる。


(……伝わった?)


小さな光を宿した彼の瞳に、私は声を出した。


「……え、る……!」


言葉が、通じた……! 最後の音は、なぜか少しだけ高くなってしまったけれど。

まだ言葉は自由に操れない。けれど、初めて、自分の言葉で伝えることができた。それだけで、胸の奥にふわりと広がる喜びが、私の小さな体を満たしていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ